2018.12.4

Q & A

米国離脱後のイラン核合意におけるEUの対応は?

米国離脱後のイラン核合意におけるEUの対応は?

2018年5月8日、米国のドナルド・トランプ大統領は包括的共同行動計画(JCPOA)から離脱し、イランに対して再び制裁を加えることを発表した。これを受けたEUは、真の欧州の政治的コミットメントを反映し、JCPOAの履行に全力を挙げて取り組んでいる。

Q1. 欧州連合(EU)は、包括的共同行動計画(Joint Comprehensive Plan of Action=JCPOA)を達成するために、どのように関わってきましたか? JCPOAの履行にあたって、EUはどのような役割を果たしているのでしょうか? またEUは、この計画をどのように評価していますか?

EUは、大量破壊兵器の拡散による脅威に、一貫して立ち向かっています。イランの核開発プログラムがルールに基づく核兵器不拡散体制に従うこと、また平和利用の目的にのみ資することを担保するため、国連安全保障理事会(以下、国連安保理)の常任理事国およびドイツと共に、EUは当初からイランとのJCPOA交渉に参画してきました。2015年7月にこの合意に署名した8人の一人に、フェデリカ・モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長が入っています。

イラン核問題に関して最終合意に至り、EUを代表してJCPOAに署名したモゲリーニ上級代表(左から4人目)(2015年7月14日、ウィーン)
© European Union, 1995-2018

JCPOAは、国連安保理決議第2231号により全会一致で承認された多国間外交を象徴するもので、グローバルな核不拡散体制に大きく寄与し、欧州、中東地域、さらに世界の平和と安全保障にとって、戦略的な要素となっています。

JCPOAは、核不拡散の分野でこれまで行われてきた取り組みの中で、最も包括的な監視と検証を備えた体制の一つと言えます。国際原子力機関(International Atomic Energy Agency=IAEA)は、イランがJCPOA下で十分な約束を果たし続けており、査察のために必要な全ての施設や場所への立ち入りを許されたと、連続12回にわたって報告しています。

Q2. 米国のトランプ大統領がJCPOAから離脱し、再びイランに制裁を加えると決定したことに対して、EUはどのように反応しましたか? 米国の離脱により、どのような結果が予想されるでしょうか?

米国がJCPOAから離脱し、イランに対して再び制裁を加えると決定したことについて、EUは深く遺憾の意を表しています。EUとしては、かつてJCPOAの下で解除され、今再び科されつつある米国の対イラン制裁を、域外(第三国)に適用することを認めていません。これらの制裁を再び加えることは、JCPOAの完全かつ効果的な履行はもちろんのこと、その体制存続をも脅かしかねません。

しかしEUは、イランが核関連の約束を全うする限り、JCPOAの継続的、完全、かつ効果的な履行のために、全力を挙げて取り組み続けます。JCPOA参加国も、2018年7月6日にウィーンで、また同年9月24日にニューヨークで行われた閣僚会合において同様に再確認しています。

同時にEUは、主要なパートナーであり同盟国でもある米国との協力を維持していくことに尽力します。

米国が離脱を発表後、モゲリーニ上級代表は記者会見を行い、引き続きJCPOAの履行に全力を挙げて取り組むEUの姿勢を表明した(2018年5月8日、ローマ)
© European Union, 2018 / Source: EC – Audiovisual Service

 

Q3. 米国離脱の決定を受けて、EUは何を行いましたか? また欧州のビジネスはどのような影響を受けるのでしょうか? 「ブロッキング規制(Blocking Statute)」とは? また、「特別目的事業体(Special Purpose Vehicle=SPV)」とは何ですか?

核関連の制裁を解除して、イランとの貿易・経済関係を正常化させることは、JCPOAに不可欠な要素です。EUは、EU法ならびに国連安保理決議第2231号にのっとり、イランと合法的なビジネスを行うEU企業を保護することを固く決意しています。そのためEUは2018年8月、イランと合法的なビジネスを行うEU企業を米国による制裁の域外適用の影響から守るために、「ブロッキング規制」を改正しました。これは、EU企業が米国の域外制裁により被った損害について、それをもたらした対象者に請求できるようにするほか、米国の域外制裁に基づいたいかなる外国の裁判所による裁定も、EUでは無効とするものです。EUはまた、欧州投資銀行(EIB)の対外融資マンデートを拡大し、イランも融資を受けられるようにしました。

JCPOA参加国は、イランとそのパートナー国との間で資金的・経済的な流動性を保護する方策を見いだし、履行することに政治的に明確にコミットしています。この関連で言えば、2018年11月2日にモゲリーニ上級代表がフランス、ドイツ、英国の外務・財務両大臣たちと発表した共同声明は、イランとの商取引決済を簡便化することを目的とした「特別目的事業体(SPV)」の設置を進めるという政治的意思の証なのです。SPVは、イランと合法的なビジネスを行う市場参画者に対し、必要な再保証を与えることを目的としています。

現在進められているSPVに関する作業は、JCPOAの完全かつ効果的な履行をあらゆる側面において順守するという、真の欧州の政治的コミットメントを反映しており、国連安保理決議第2231号にも沿ったものです。これは、欧州が経済や外交政策での主権を純粋に追求するという証でもあり、米国への対抗措置というわけではありません。

Q4. JCPOAの存続は危うい状況にあるのでしょうか? 国際社会はこれをどのように見ていますか?

JCPOAは、国連安保理決議第2231号によって承認されたもので、国際社会の支持を得ています。米国以外の全ての署名国は、この取り決めが機能しているとの見解を共有しており、完全かつ効果的な履行に尽力しています。JCPOAの保持を通して、世界をより安全な場所にするために、今こそ国際社会の団結が不可欠です。EUは、今後もJCPOAが完全かつ効果的に履行され続けるために、全てのパートナー国の支持を求めており、この点においてEUは、日本がJCPOAへの支持を表明してくれたことに感謝の意を表しています。

イランが核を巡る約束を完全に順守し続けていることは、プラス材料です。

 

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