2018.10.23
Q & A
世界的な規模で人類が直面している食品廃棄は、一般市民が日常生活の中で意識しながら解決に向けて取り組める、最も身近な問題の一つ。欧州連合(EU)は、食品廃棄物削減のために立法やさまざまな対策を積極的に推進している。
食料は毎日の生活に欠かせないものですが、世界中で生産される食料のうち、実に3分の1に相当する約13億トン(年間)が失われたり、あるいは廃棄されたりしていると推定されています(国連食糧農業機関〈FAO〉調べ)。2016年に発表された調査結果では、EU域内でも約20%の食料が同様に失われ、あるいは廃棄されており、その半数以上に当たる約4,700万トンは家庭からの食品廃棄物です(EU FUSIONS〈Food Use for Social Innovation by Optimising Waste Prevention Strategies〉調べ)。一方で、約5,500万もの人々が、2日に1回は質的に満足な食事が取れていません。この極めてアンバランスな状態の是正が、EUのみならず、世界規模で喫緊の課題となっています。
人の消費に向けられる食料に関わるサプライチェーンの各段階(生産、貯蔵、加工、販売、消費など)で発生する「フードロス(食品ロス)」(量的減少)や、中でも小売りや最終的な消費で起こる「食品廃棄物」が、生産される食料全体に対して占める割合自体は、先進国と発展途上国の間でさほど差はありません。しかし、それらが生じる要因が大きく異なっており、発展途上国では40%以上が農作物の収穫と加工の過程で損失している一方で、先進国では小売業者と消費者のレベルで40%が損失しています。
世界各国で食品廃棄物削減への対策が進められていますが、EUでも「持続可能な開発目標」の「目標12:持続可能な消費と生産のパターンを確保する」の中にある「ターゲット3」に沿って、2030年までに小売業者と消費者レベルで1人当たりの食品廃棄物の量を半減させ、生産・サプライチェーンにおける収穫後のフードロスを減少させるというターゲットの達成に向けた取り組みを進めています。
前述の「持続可能な開発目標」を達成するために、EUは自身の行動目標を立てており、目標12のターゲット3では、次の4つの取り組みを推進しています。
フードロスや食品廃棄物の削減に向けた取り組みは、サプライチェーンから小売業者、消費者まで、あらゆる関係者の協力が欠かせません。そのため、上記の2で挙げたプラットフォームには、欧州委員会と共に、EU諸機関をはじめとして加盟各国の政策専門家、関連企業、研究機関、NGOなど、さまざまなメンバーが公的・民間セクターから幅広く集い、食品廃棄物の削減に関する情報交換やベストプラクティス(最良事例)の共有などを行っています。
EUは、2015年12月に発表した「循環型経済パッケージ」の中で、食品廃棄物の削減に関わる政策も重要課題の一つと位置付けています。つまり、食品廃棄物の問題を解決することが、予算の節約や環境負荷の低下にもつながり、EUのグローバルな競争力や持続可能な成長を生み出すと期待されています。
またEUは、2018年5月30日に「改正廃棄物枠組み指令(revised Waste Framework Directive)」を採択しました(詳しい内容についてはQ3.で後述)。
Q2.で触れた「改正廃棄物枠組み指令」では、「消費期限(use by)」と「賞味期限(best before)」に関する消費者の理解を高めることが、食品廃棄物のさらなる削減につながるとしています。
またこの指令は、欧州委員会に対し、2019年の3月末までに食品廃棄物の計測に関わる法令を採択するよう求めました。また欧州委員会は、2030年に実現すべき「EU全体の食品廃棄物削減目標(EU-wide food waste reduction target)」を掲げる案を盛り込んだ報告書を、2023年末までに提出することになっています。
一方、EU加盟各国に対しては、(1)食品サプライチェーンの各段階で、食品廃棄物の削減に向けた施策を求めるとともに、その効果をモニターし、進捗を報告すること、(2)一般廃棄物抑制プログラムの一部として、食品廃棄物を対象とした抑制プログラムを準備すること、(3)食料不足の地域に対する食料提供や再配分を奨励したり、家畜用飼料よりも人の食料として資源の利用を優先したりするほか、食品廃棄物から非食料製品への再利用を促進すること、そして(4)食品廃棄物の削減に努める取り組みに対して、「廃棄物ヒエラルキー(waste hierarchy)※1 」を適用するためのインセンティブを設定すること(下図を参照)、の4つを義務付けています。
廃棄物ヒエラルキー
食品廃棄物の削減には、身近な取り組みの積み重ねが欠かせません。まずは日頃から、節約や環境への配慮など、小さなことから地道に取り組んでいくことが大切です。EUは、日常生活で誰もが気軽に実践できる取り組みとして次の10のヒントを紹介し、奨励しています。
食品廃棄物削減のための10のヒント
このほかEUでは、「消費期限」と「賞味期限」(下のイラストを参照)の違いを消費者に正しく理解してもらうための取り組みを進めています。2015年にEUが行った世論調査「ユーロバロメーター」によると、食品廃棄物の約10%は「消費期限」と「賞味期限」の理解が不十分なために生じていることが推定されます。また欧州市民の約49%が、「消費期限」と「賞味期限」のそれぞれの意味をはっきりと理解すれば食品廃棄物が減らせる、と考えていることが分かりました。多くの日本の消費者にはおなじみですが、「消費期限」と「賞味期限」の違いは、次の通りです。
「消費期限」 ― 安全に食べることができる期限
「賞味期限」 ― 想定された品質を維持できる期限
つまり「消費期限」は、表示されている期日を過ぎた場合、見た目や香りに変化はなくても安全性に問題が生じるため、期限内に食べなければなりません。一方で「賞味期限」は、表示された期日を過ぎると、味や品質の変化が生じる可能性がありますが、安全性に問題はありません。そのため賞味期限を過ぎても、消費者は各自の判断で食べられるというわけです。
EUでは、食品廃棄物の抑制と削減に向けた、さまざまなベストプラクティスをウェブサイトでまとめて公開し、それぞれの実施例をお互いの活動に生かす取り組みを行っています。このウェブサイトには、「研究とイノベーション」「意識向上・情報・教育」「政策・表彰・認定」「食料の再分配」「食料廃棄物の測量」の5つの分野で、市民団体や地方の行政機関が独自に行っている地域レベルの取り組みから、EUや加盟国が主導する国家レベルの取り組みまで、多岐にわたるベストプラクティスが掲載されています。ここでは、地域レベルの例をピックアップして紹介します。
“A la carte” menu [研究・イノベーション]
デンマークの病院Hvidovre Hospitalが、調理場や他の部署の運営方針を見直すことで、アラカルト方式の病院食を予算内で展開し、食品廃棄物の削減につなげている。
Anti-waste workshops – Cooking Classes [意識向上・情報・教育]
ベルギー・ブリュッセルの環境とエネルギーに関わる行政当局Bruxelles Environmentが、料理のワークショップを無料で主宰し、調理技術を学ぶことなどを通して、家庭からの食品廃棄物を削減している。
City Harvest London [食料の再分配]
英国・ロンドンを拠点に慈善活動を行う非営利組織City Harvest Londonが、スーパーマーケットやレストランなどで生じる余剰な食料を、恵まれない人々に届けている。
‘Buon Samaritano‘ [食料の再分配]
イタリア・トリノでさまざまな関係者が協力して取り組む地域プロジェクトBuon Samaritano(「善きサマリア人」の意)は、学校の食堂で手つかずのまま残った食事や、スーパーマーケットで売れ残った食品などを回収し、慈善団体に寄付している。
※1 1975年の「廃棄物枠組み指令」により導入された概念で、廃棄物管理の優先順位を示す
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