2019.11.25
2019年11月22日、駐日EU代表部で「平和・安全保障における女性と若者の役割」と題したハイレベルイベントが開催され、示唆に富んだ議論が展開された。
フロア駐日EU大使(ヘッダー写真左から2人目)の開会の挨拶に続いて、G20愛知・名古屋外務大臣会合参加のため来日中のフェデリカ・モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長(同・中央)が基調講演に立ち、「平和と安全保障を進める上で、世界の人口の過半数および半分を占める若者と女性を取り込んでいくことは重要である。女性や若者は暴力や紛争の予防、平和の定着に必要であり、変化をもたらす主体となる。意思決定に女性を加えることは民主主義としても必要」と訴えた。
続いて登壇した中山泰秀衆議院議員(同・左)は、「戦争は常に女性をつらい立場に置く」という自身の母親の発言に言及し、「教えるべきは平和。日本は核廃絶に強くコミットする必要がある」と強調するとともに、サイバー攻撃やまん延するフェイクニュースなどのネット上の暴力ついて、「解決するには若い人の力が必要。そして常識こそが唯一の武器」と主張した。
NHK報道局経済部の飯田香織副部長(写真下・左)がモデレーターを務めるパネルディスカッションでは、まずジェンダー平等と女性のエンパワーメントを推進する「UN Women」(国連女性機関)日本事務所の石川雅恵所長(同・右から2人目)が、同機関の活動に触れつつ、暴力や過激主義の回避や防止にジェンダー視点を取り入れること、平和交渉の一員に女性を加えることの重要性を示した。
政策研究大学院大学の岩間陽子教授(同・右)は、自身が「女性はこうあるべき」という考え方と闘ってきた経験から、「子どもは親をロールモデルとして育つため、女性は社会の構造を再強化してしまうこともある」と問題を提起。また19世紀から20世紀にかけて社会が過激に走った状況を引き合いに出し、世の中の変化の影響を受けやすい若者は、現在、特に発展途上国において未来が自分の国にあるかどうかという大きな不安を抱えていることは、取り組まなければならない大きな課題、と指摘した。
笹川平和財団中東・イスラム事業室の辰巳雅世子室長(同・中央)は、同財団が行っているイランにおける女性のエンパワーメントプラン(支援事業)を概説。イランとの包括的共同行動計画合意(イラン核合意)後、同国が国際社会に戻るという期待を背景に、日本で行われている数少ないプロジェクトであり、補完的な役割であるが継続が重要、と述べた。また、テヘランで開催した平和における女性の役割に関するシンポジウムについて、予想を上回る現地の女性の参加があり、その関心の高さと活況ぶりに驚いたという個人的なエピソードを披露した。
上智大学の目黒依子名誉教授(同・左から2人目)は、国連決議第1325号(女性と平和・安全保障〈Women, Peace and Security=WPS〉に関する初の安保理決議、2000年10月31日採択)履行のための国家行動計画の評価委員長を務める立場から、「報告書に(計画の)成果物は載っているが、効果はどうなのかが含まれていない。意思決定への女性参加は遅々として進んでいない」との指摘があった。また、Q&Aの中で、「文化を変えるという視点は実は有効ではなく、むしろ文化が異なること(=多様性)を受け入れる文化があることの方が重要」と説いた。
最後に登壇した河野太郎防衛大臣はまずモゲリーニ上級代表に対し、日本とEUの間で、アジアでの安保協力強化のイニシアチブを立ち上げたことに謝意を述べ、本年暫定適用が開始した日・EU戦略的パートナーシップのおかげもあり、この面での日欧安保協力はさらに深まる、とした。また、WPSは安倍政権の「Women Empowerment Policy」の優先事項に位置づけられていることに触れた上で、2027年までに自衛隊の女性隊員の割合を9%に増やすという目標に言及。女性隊員の活動領域を広げ、労働環境を改善するなどのこれまでの取り組みを挙げた。また、WPSの推進において、災害救援や平和維持活動での日・EU協力の可能性を十分に活用していきたい、と期待を示した。
イベント最後の総括的質疑応答でモゲリーニ上級代表は、平和・安全保障において女性を含めることがなぜ重要なのかについて「女性はつながりを作る。現地のコミュニティ や人々をつなぎ、付加価値を高め視点の多様性をもたらす」と回答。登壇者がほぼ一様に、個人や社会の考え方が変わることが必要という認識を共有する中、女性にとっての環境が良くなれば男性にとっての環境もよくなり、双方を取り巻く文化に変化が起きる、と述べた。本イベントは「平和・安全保障における女性と若者の役割」について多様な立場からの取り組みや考え方を聞く、良き機会となった。
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