2022.2.28
FEATURE
2021年12月、欧州委員会は、発展途上国のインフラなどへの投資を増強するための新戦略「グローバル・ゲートウェイ(Global Gateway)」を発表した。エネルギーなどのハード面から、保健・教育などのソフト面まであらゆる分野に対して2027年までに計約3,000億ユーロを投資する構想だ。本稿では、戦略策定の背景と、EUが目指すところを概説する。
新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)は、世界のインフラ網が不完全で、互換性がなく、分断されやすいという弱点を露見した。中でも、デジタル化への対応の遅れや、サプライチェーンの混乱、医療物資の不足は、人的・経済的両面で、最も弱い立場にある人々に大きな影響を及ぼした。
G20グローバル・インフラストラクチャー・ハブ(GIH)の推計によると、世界のインフラ投資の赤字は2040年までに13兆ユーロに達する。世界のインフラ格差を解消すると同時に、パートナー国において気候変動や環境悪化への対策を推進しながらインフラ関連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するには、2040年まで毎年年間1.3兆ユーロの投資が必要と推定されている。
さらに、複雑化する世界の状況に対応するには、グローバルな「連結性(コネクティビティ)」の強化やネットワークの構築が民主主義的価値に基づく高い品質に従って行われることが重要だ。この実現に向けては、公平な競争条件を確保すると同時に、国連の2030アジェンダとパリ協定に完全に沿った形で、パートナー国の持続可能な開発を支援することが不可欠であり、その実現はEUにとっても大きな利益となり得るものだ。
EUはこうした背景から、世界各地のインフラ整備に大規模な投資が必要と判断し、「グローバル・ゲートウェイ」戦略を策定した。2021年から2027年の間に、EU機関およびEU加盟国が欧州投資銀行(EIB)や欧州復興開発銀行(EBRD)などの金融・開発支援機関と連携した「チーム・ヨーロッパ」が、民間企業とも協力しながら、以下の各分野で最大3,000億ユーロの投資を行う予定だ。
「グローバル・ゲートウェイ」は、支援先のニーズを考慮し、現地社会に恒久的な利益をもたらすべく、持続可能で質の高いプロジェクトの実現を目指す。これにより、相手国は自国の社会と経済を発展させることが可能になる。EUにおいても、加盟国の民間企業が現地で最高の環境・労働基準や健全な財務管理を確保しつつ、投資を拡大し、競争力を向上させる機会が生まれる。
「グローバル・ゲートウェイ」は、EUが世界的な投資ギャップの縮小に貢献する手段でもある。2021年6月に英国で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)における「途上国のニーズに応える共通の価値に基づく透明で高水準の投資」というインフラ投資に関する合意内容に沿ったものである。「グローバル・ゲートウェイ」は、途上国でのインフラプロジェクトが持続不可能な負債を生み出さないよう、倫理的なアプローチを重視している。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は「新型コロナウイルス感染症は、私たちの住む世界がいかに相互に深く関わっているかを示した。コロナ禍からの世界的な復興の一環として、世界のつながりの在り方を再設計し、世界をより良く前進させたい」と述べた。委員長はまた、「私たちは、EUの民主主義的価値と国際的な規範・基準に沿って、最高の社会・環境基準を尊重し、質の高いインフラ投資を支援していく。『グローバル・ゲートウェイ』戦略は、欧州と世界のより強靭なつながりを構築するためのひな形となる」とも述べた。
相互依存する世界においてサプライチェーンの脆弱性が指摘される中、EUはこうした「連結性」の重要性を十分に認識している。また、各国間のつながりが世界の権力闘争の武器に変化することも目の当たりにしてきた。データの流れ、エネルギー供給、レアアース(希土類)、ワクチン、半導体は全て、今日の世界における権力の道具である。このため、EUは、これらの資源や重要物資の流通の維持は、ルールと国際基準に基づくものでなければならないと考えている。
モノの流れそのものはイデオロギー的に中立でも、それを管理するルールは政治的価値と絡み合っていることを忘れてはならない。特にデジタル領域においてこれから定められる将来の標準が、欧州や他の民主主義諸国の中核的価値を反映するようにしなければならない。
ジョセップ・ボレルEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は、「世界におけるより強い欧州とは、私たちの基本原則に根ざしたパートナーとの強固な関係を意味する。『グローバル・ゲートウェイ』戦略は、国際的に受け入れられた基準、ルールおよび規制に基づいてつながり合うネットワークを広げて公平な競争の場を提供するというEUの構想をあらためて確認するものだ」と述べた。
EUが国際協力で重視するのは、実行可能かつ持続可能な「連結性」である。これは2018年9月に発表されたEUとアジアの連結性に関する戦略「欧州とアジアをつなぐ――EU戦略の基礎要素(Connecting Europe and Asia – Building Blocks for an EU Strategy)」、さらに、EUにとって初めての第三国との連結性パートナーシップである2019年9月の「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日・EUパートナーシップ」への署名によっても明らかである。日本とEUは、パンデミック以前から、持続可能で、包括的で、ルールに基づく連結性が必要であると認識しており、このパートナーシップを通じて、双方はこれらの価値に沿って連結性を促進するという共通の目的を確認している。
「グローバル・ゲートウェイ」のユニークな点は、EUが相手国のインフラ投資ニーズに対して、財政、社会および環境の各側面において持続可能な連結性を提供することであり、欧州が無用の長物を押し付けたり、債務の罠のリスクを放置したりすることはない。「グローバル・ゲートウェイ」は、投資の主要規範として次の6点を定めている。
「グローバル・ゲートウェイ」の立ち上げから2カ月後の2022年2月10日、フォン・デア・ライエン委員長は、この戦略の下での最初の地域計画として「グローバル・ゲートウェイ:アフリカ・欧州投資パッケージ」を発表した。総額1,500億ユーロを超えるこの計画により、EUとその加盟国は、アフリカが強力で包括的、かつグリーンでデジタルな復興と変革を成し遂げるために投資するものである。
「グローバル・ゲートウェイ」のプロジェクトの決定は、従来同様の資金調達ガバナンスの仕組みに沿って、戦略的指導を行う新設される理事会の下で行われる。「グローバル・ゲートウェイ」は、EUの現行多年次財政枠組み計画(2021~2027年)における新資金調達手段、特に「近隣・開発・国際協力手段(NDICI、またはGlobal Europe)」、「加盟前支援手段(IPA)III」、ならびに「コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ」のデジタル・国際プロジェクトを対象とした資金を活用する。世界各地のEU代表部は、パートナー諸国におけるプロジェクトを特定し、調整する上で重要な役割を果たす。
EUはさらに、加盟国レベルでの既存の輸出信用取り決めを補完し、この分野におけるEUの総合的な力を高めるため、欧州輸出信用ファシリティを創設する可能性を探っている。このような制度があれば、EU企業は第三国市場でより公平な競争条件を確保できるようになり、インフラ投資プロジェクトへの参加が促進されるだろう。
「グローバル・ゲートウェイ」は、世界各地の支援先のニーズに基づいたインフラ開発に向けて革新的な選択肢を提供することにより、国際的な安定と協力への投資となることを目指す。同時に、民主主義の価値がいかに投資家に確実性と透明性を与え、プロジェクトの相手国に持続可能性を提供し、世界中の人々に長期的利益をもたらすかを実証することになる。
【関連情報】(全て英語)
ウェブサイト「グローバル・ゲートウェイ」
ファクトシート「グローバル・ゲートウェイ」
ファクトシート「グローバル・ゲートウェイ:アフリカ・欧州投資パッケージ」
2024.12.5
FEATURE
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.11.15
WHAT IS THE EU?
2024.11.7
EU-JAPAN
2024.11.6
EU-JAPAN
2024.10.21
FEATURE
2024.10.28
Q & A
2024.11.6
EU-JAPAN
2024.11.7
EU-JAPAN