2013.11.29
FEATURE
日本は世界第3位の経済規模を持つ国であり、EUにとって重要な貿易・投資相手国である。それにもかかわらず、日・EUの貿易関係は伝統的に日本側が貿易黒字を抱え不均衡な状態が続いていた。日・EU間の経済関係強化のため、1995年以来、日本とEUは規制改革対話(Regulatory Reform Dialogue=RRD)や改革案への意見交換を通じて規制改革に向けた努力を進めてきた。2001年12月にはパートナーシップを強化するため、日・EU協力のための10カ年行動計画を採択した。
RRDは、2009年の第18回日・EU首脳協議の共同声明で言及された「第34項(※1)エクササイズ」と呼ばれる協力作業、その後第19回協議の決定で「合同ハイレベルグループ」という協議機関が設置(※2)され、さらに、2011年5月から翌年5月までのスコーピングと呼ばれるFTA交渉の検討作業へと発展した(※3)。こうした信頼醸成のステップを重ね、日・EU双方はようやくFTA交渉を始めるに至った。
それでも、過去10年間の関係が大きく前進したとは言いがたい、というのがEUの認識である。最近では日・EU間の貿易バランスは改善傾向にあるが、依然として日本の国内経済・社会的な要因により、日本でのビジネスや投資が他国と比べて難しい面がある。
こうした中で、2013年3月25日、日本とEUはヘルマン・ヴァンロンプイ欧州理事会議長、ジョゼ・マヌエル・バロ-ゾ欧州委員会委員長と安倍晋三総理大臣との間で「戦略的パートナーシップ協定 (Strategic Partnership Agreement=SPA) 」と「自由貿易協定(FTA)」の交渉に乗り出すことを決定した。これにより、1991年に定期首脳協議を開始して以来、日本とEUは新たな次元の互恵的関係への第一歩を踏み出した。
2つの協定のうち、SPAは、経済以外の包括的分野での日・EU関係の協力方針を求める法的拘束力を持つ政治協定である。すなわち、日本とEUが民主主義や法の支配といった共通の価値を持つ重要なパートナーであることを踏まえた法的拘束力のある枠組み合意であり、安全保障や気候変動対策など地域レベルおよび地球規模の問題への取り組みにおける協力を定義するものだ。
一方、FTAは日・EU間で貿易・投資の自由化を推進し、双方の雇用や経済成長に寄与することをめざしたものだ。日本はEUにとってアジアで中国に次ぐ貿易相手国だが、日本にとってもEUは中国、米国に次ぐ3番目の貿易相手である。欧州委員会のカレル・ドゥグヒュト通商担当委員は2013年3月、こうした両者のFTAについて、次のように語っている。
「EUと日本の経済関係が重要なのは明らかだ。双方の市場を合わせた価値は、世界経済の3分の1以上に相当する。しかも将来さらに大きな経済的効果を生む可能性がある。EUだけを見ても、日本とFTAを締結することで、欧州経済のGDPが0.6~0.8%押し上げられる」
ドゥグヒュト通商担当委員は特に、野心的なFTAの締結のためには非関税障壁の撤廃がカギとなるとの考えを強調し、1年以内には重要な分野でおおまかな共通認識を得たい、との考えを表明した。欧州委員会の試算によれば、日本とのFTA締結により、EUの対日輸出は32.7%拡大する可能性がある。EUだけで40万人以上の新規雇用の創出が見込まれるが、日本の対EU輸出も23.5%拡大すると予想される。
それでは、日・EU間の貿易および投資は、これまでどう推移してきたのか。日・EU貿易の近年の特徴と傾向を挙げると以下のようになる。
日・EU間には、1999年に設立された経済界の対話「日・EUビジネス・ラウンドテーブル(BRT)」がある。2004年以降は、双方向の投資を促進するため協力の枠組みも存在する。また、競争政策(2003年)や科学技術協定(2011年)に関する協力協定など4つの重要な協定が双方の間で結ばれている。このため、すでに経済的な結びつきは強く、互いの産業構造にそれぞれ組み込まれている。それにもかかわらず、双方向の投資面ではまだ不十分で、深化の余地が残されている。それをさらに深化させようというのが、今回の日・EUのFTA交渉の狙いである。
日・EU間のFTA交渉の柱となるのは、関税引き下げや非関税障壁の撤廃である。具体的な争点はいくつかある。例えば、EUは日本には自動車の技術規格や安全基準、鉄道など公共セクターでの調達で参入障壁が多い、と考えている。一方、日本側の最大の関心事は、EUが乗用車に課す10%の関税撤廃である、と日本側メディアは伝えている。
ドゥグヒュト委員は2013年3月に来日した際、日・EUの貿易・投資の現状について、「こうした数値はFTA交渉が簡単でないことを明示している」と述べ、「良い結果を得るには、サービス、投資、調達、知的財産権、規制問題を含めた幅広い項目を包含する深くて包括的なFTAを締結することだ」と強調した。こうした障壁撤廃に向けての工程表を日本に求め、2014年4月にはこの工程表に基づいて日本側の努力が十分でないと判断すれば、交渉の中断も視野に入れている。
両者のFTA交渉は、2013年3月に正式に開始された後、4月に第1回交渉会合がブリュッセルで行われた。EU側は欧州委員会のマウロ・ペトリチオーネ通商総局アジア・ラテンアメリカ局長が、日本側は外務省の横田淳大使が首席交渉官を務めた。交渉を終えたペトリチオーネ局長は「良いスタートが切れた。いくつかの難しい問題を抱えた大きな交渉だが、この先数カ月でよい進展が得られると確信している」と述べた。
第2回交渉会合は、6月24日から7月初めまで、東京で開催された。交渉が目指すのは製品、サービス、投資に関する包括的協定であり、関税および非関税障壁の撤廃に加え、公共部門での調達、規制問題、持続可能な開発など、その他貿易に関連する課題も対象としている。第2回交渉では、将来のFTAを構成する全分野での協定の文面に焦点が当てられた。交渉は、財およびサービスの貿易、投資、競争、政府調達、知的財産、競争政策、通商と持続可能な開発などの対象分野を14の作業グループに分けて進められている。
第3回交渉会合は10月21日~25日にブリュッセルで開催された。第1回および第2回の交渉会合と同様、協議は14の作業グループごとに行われた。この中で、EU側は日本に対し、非関税障壁や公共調達の一層の開放などについて現状での懸念を表明。双方は商品・サービス取引や投資などで相互の自由化達成を目指す姿勢を示した。
なお、11月19日に東京で行われた日・EU首脳協議(日・EUサミット)で、ヴァンロンプイ欧州理事会議長およびバローゾ欧州委員会委員長(以上、EU側首脳)と安倍総理大臣は、交渉中のFTAとSPAの可能な限り早期の締結に向けた決意をあらためて表明した。第4回交渉は2014年1月に開催される予定である。
EU MAG 2012年創刊号 包括的なパートナーシップを探る日・EU関係
EU MAG 2013年4月号 日・EU関係の進化を目指す2つの協定
(※1)^ 「34. 日・EU首脳は、日・EU経済・通商関係が、日・EU及び世界の繁栄にとって極めて重要であることを再確認した。双方は、特に現在の世界経済の状況にかんがみ、開放的な経済を維持するための国際的努力を率先する責任を果たすことの必要性を強調した。双方は、日・EU経済関係の最大限の潜在的可能性をより良く活用するために両経済の統合の強化に協力する意図を表明した。この目的に向けて、貿易制限的な障壁に対処し、市場アクセスの機会を増大し、日EU間の直接投資を促進するための可能な限り最善の環境を創出するために、日・EU首脳は、日・EUハイレベル協議、日EU規制改革対話、ハイレベル貿易協議、産業政策・産業協力ダイアログ及び他の日EU間の対話といった既存のメカニズムをより有効に活用し、具体的な成果が、短期間にかつ相互に有益なやり方で、出ることが期待される、いくつかの特定の非関税案件に焦点を当てることの重要性を強調した。両首脳は、遅くとも2010年の首脳協議までに進捗をレビューする」
(※2)^ 『ヨーロッパ』誌2010年夏号参照
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