2012.10.12

FEATURE

欧州の漁業政策

欧州の漁業政策
PART2

日・EU関係と漁業

日本とEUは、世界でも主要な漁業国であり、かつ水産物消費国である。漁業の重要性において一致する日本とEUは、漁業に関する多角的な協力関係を構築してきている。

漁業と日・EU関係:最近の動き

日本とEUの間では、漁業に関連した要人の往来やハイレベルの会合が定期的に行われている。日・EU間のハイレベル会合においては、それぞれの漁業・水産分野の政策に関する意見交換や、バイ(日・EU間)およびマルチ(多国間)の課題について幅広い協議が行われ、漁業に関するより安定した協力関係が模索されている。

ダマナキ漁業・海事担当欧州委員の訪日

7月10日、東日本大震災により壊滅的な被害を受けた宮城県女川町の漁業関係者を訪問するダマナキ漁業・海事担当委員(写真:マリア・ダマナキ漁業・海事担当委員オフィシャルブログより)

最近では、2012年7月9日から12日にかけて、欧州委員会のマリア・ダマナキ漁業・海事担当委員が日本を訪れ、郡司彰農林水産大臣との日・EU間ハイレベル会合に臨んだ。また、ダマナキ委員は、日本の漁業関係者や政治家、経済界代表、環境NGOとの会談、東京大学における講演、東日本大震災の被災地訪問等のさまざまな活動に参加し、日本におけるEUの漁業政策に対する理解の促進を図った。

7月9日、東京大学で講演するダマナキ漁業・海事担当委員。講演タイトルは「海洋:私たちの共通の課題(The Oceans: Our Common Challenges)」。

ダマナキ委員は、2013年から施行される新しい共通漁業政策(CFP)について、自身が作成した欧州委員会の提案をもとに、EU機関内で策定に向けた協議が進んでいると報告した。また、深刻な過剰漁獲の問題に対処するためには、国際的な枠組みを無視した違法な漁業の取り締まりを徹底するとともに、より環境に影響の少ない資源利用のあり方を長期的な視野に基づいて模索する必要があるとして、漁獲量を最大持続漁獲量(Maximum Sustainable Yield=MSY)のレベルに調整するための期限の厳格化を訴えた。

「過剰漁獲・混獲・投棄は国際的にも大きな問題となっており、国連食糧農業機関(FAO)によれば、年間約700万トンもの海中生物が、不要な捕獲により海上投棄されている。これは資源の膨大な無駄であり、損失である。EUの政治家、漁業従事者および科学者は、問題解決のために行動をとることを求められており、消費者も敏感になっている(抜粋要約)」

(写真:東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻国際水産開発学研究室八木信行准教授)

 

「違法、無報告、無規制(IUU)漁業問題への取組みに関する共同声明」

7月11日、共同声明に署名し、郡司農林水産大臣と握手するダマナキ漁業・海事担当委員 Photo by Y. Shimazu, (C)EU, 2012

2012年7月11日、郡司農林水産大臣との日・EU間ハイレベル会合に臨んだダマナキ欧州委員会漁業・海事担当委員は、郡司農林水産大臣とともに、漁業・水産分野の基本的政策や、水産資源の国際的管理および違法漁業対策等について協議した後、違法・無報告・無規制(IUU)漁業問題について協力して取り組むことを互いに確認し、「違法、無報告、無規制(IUU)漁業問題への取組みに関する共同声明」に署名した

「違法、無報告、無規制(IUU)漁業問題への取組みに関する共同声明」への署名がなされたことより、日・EU間で具体的に協力が約束された主な分野は、以下のとおりである。

  • 世界規模の漁獲能力の管理
  • 寄港国措置(寄港する外国船に対して行う水際対策)の採択と実施の促進
  • トレーサビリティ制度の強化によるIUU漁獲物の流通防止
  • 他の主要市場国との協力によるIUU漁業対策の強化 

この共同声明への署名は、今回のダマナキ委員訪日の最も大きな成果であり、日本とEUの協力関係が一層強化され、水産資源の国際的管理や違法漁業対策を積極的に推進していくものとして、国際的な水産資源管理体制の構築に資することが期待されている。また今後は、この共同声明に基づき、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)などの地域漁業管理機関の場などにおいても、日本とEUがリーダーシップを発揮していくことも期待されている。

漁業と日・EU貿易

EUの対日貿易(漁業)

2011年のEUの対日貿易額は、輸出が490億93万ユーロ、輸入は691億4,286万ユーロに上っている。そのうち、漁業関連の対日貿易額は、輸出が2億3,700万ユーロ、輸入額は2,702万ユーロであり、日・EU貿易全体に占める割合は0.4%と非常に小さい。

他方、収支でみてみると、2011年のEUの対日貿易収支はEUにとって201億3,354万ユーロの赤字となった一方で、漁業関連の収支はEUにとって2億990万ユーロの黒字となっている。

出所:欧州委員会統計局(ユーロスタット)

2011年の漁業関連のEU対日貿易の内訳では、魚(生鮮・冷蔵・冷凍)の輸出額が1億8,626万ユーロと最も多く、対日輸出(漁業)の8割弱を占めている。他方、漁業関連の対日輸入額については、魚(生鮮・冷蔵・冷凍)が1,421万ユーロ、甲殻類・軟体動物が1,086万ユーロに上っており、両者で対日輸入(漁業)の9割を占める。

対日輸出(漁業)主要国

漁業関連の国別対日輸出額では、首位はスペインで、マルタ、デンマーク、オランダ、イタリアがそれに続いている(2011年)。

2011年主要対日輸出(漁業)国の輸出額(単位:ユーロ)
スペイン 72,948,539
マルタ 41,775,369
デンマーク 29,522,279
オランダ 22,326,619
イタリア 16,860,369

出所:欧州委員会統計局(ユーロスタット)

 

スペインの場合、漁業関連の対日輸出額は約7,300万ユーロに上り、スペインの対日輸出全体の3.94%を占めている。また、輸出の内訳としては「まぐろ・かつお(国際貿易分類コード[SITC]: 03414)」と「いか・たこ(調整品)(SITC: 03637)」が多く、この2品目だけでスペインの対日輸出(漁業)の7割を占めている(「まぐろ・かつお」の対日輸出額:4,040万ユーロ、「いか・たこ(調整品)」:1,180万ユーロ)。

対日輸入(漁業)主要国

他方、漁業関連の国別対日輸入額では、第一位がオランダで、ドイツ、英国、フランス、スペインがそれに続いている(2011年)。

2011年主要対日輸出(漁業)国の輸入出額(単位:ユーロ)
オランダ 13,294,935
ドイツ 4,426,644
英国 2,915,113
フランス 2,748,734
スペイン 2,085,381

出所:欧州委員会統計局(ユーロスタット)

 

オランダの場合、漁業関連の対日輸入額は約1,330万ユーロに上る。輸入の内訳では「鮮魚(SITC: 03411)」と「いか・たこ以外の軟体動物および水棲無脊椎動物(冷凍および調整品)(SITC: 03639)」が多く、この2品目だけでオランダの対日輸入(漁業)の8割を占めている(「いか・たこ以外の軟体動物および水棲無脊椎動物」:680万ユーロ、「鮮魚」:460万ユーロ)。

 

関連情報

欧州委員会統計局(ユーロスタット):漁業関連の統計
訪日の様子を伝えるマリア・ダマナキ委員のページ
欧州委員会プレスリリース「違法、無報告および無規制(IUU)漁業問題への取組みに関する共同声明」への署名
「違法、無報告及び無規制(IUU)漁業問題への取組みに関する共同声明」
「違法、無報告及び無規制(IUU)漁業問題への取組みに関する共同声明」(日本語仮訳)

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