2013.7.17

FEATURE

クロアチアのEU加盟

クロアチアのEU加盟
PART 1

さらなる平和、安定、繁栄のための拡大

クロアチア共和国(以下、クロアチア)が欧州連合(EU)に加盟する7月1日の前夜、首都ザグレブの中央広場には、イボ・ヨシポビッチ大統領、EUの首脳と関係者、加盟国首脳、そして何千人もの市民が集まり、EU歌であるベートーベンの『歓喜の歌』の演奏や打上げ花火とともに、加盟を祝う記念行事が行われた(ビデオ ©European Union, 2013)。ジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長は、日付の変わる午前0時を前に演説し、この日について「ひとつのプロセスの終わり、そしてひとつの成功物語の序章である」と述べ、新規加盟国を歓迎した。

また、加盟交渉を所掌する欧州委員会のシュテファン・フィーレ拡大・欧州近隣政策担当委員は、クロアチアの加盟に際し、「拡大政策が、加盟を希望する国の改革の原動力となっていることをあらためて実証するものだ」とコメントした。

記念式典には、クロアチア政府、EUと加盟国から首脳らが出席。背面の看板にある「HR」はクロアチアの国略号(2013年6月30日、ザグレブの聖マルコ教会前) © European Union, 2013

クロアチアの加盟は、EUが世界の課題に取り組む上で、大きな強みとなる。例えば、経済危機の中にあっても、域内市場で可能性を生み出し、国境を越えた連帯力を強化する。EUにとって拡大は、国際社会の担い手としての存在を強め、EUと国境を接する地域の安定化や関係強化にもつながり、欧州の平和と安全、長期的な繁栄というEUの最終目標に資するととらえられている。

クロアチアの加盟までの流れ
1991年6月 ユーゴスラビアからの独立を宣言
1992年1月 国際的に承認され、EUとの外交関係樹立
2000年11月 EU加盟国とバルカン地域の近隣国でザグレブ・サミット開催(Part 2参照)
2001年10月 EUと近隣国の地域間協力を促す安定化・連合協定(Stabilisation and Association Agreement)に調印
2003年2月 EU加盟申請
2004年6月 加盟候補国となる
2005年10月 旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷への全面協力の確認をもって加盟交渉を開始
2011年6月 加盟交渉完了
2011年12月 クロアチアと全EU加盟国が、クロアチア加盟条約に調印
2012年1月 EU加盟に関する国民投票で、66.27%の投票者が賛成
2012年3月 クロアチア議会がEU加盟条約を全会一致で批准
2013年3月 欧州委員会、最終モニタリング報告書で加盟準備が整ったとの結論
2013年6月 全EU加盟国が加盟条約を批准、加盟手続きが完了
2013年7月 EUに加盟

 

申請から10年、晴れて加盟国に

EUに加盟を希望する国は、加盟候補国に認められると、コペンハーゲン基準(質問コーナー参照)と呼ばれる加盟要件を全て満たすため、国内の政治面、経済面、法律面のそれぞれで必要な制度改革を進めなければならない。加盟後にEUの水準でその目的や責任を果たせるようにするためだ。

クロアチアは、ユーゴスラビア連邦から1991年に独立。しかし、セルビア人勢力が率いるユーゴスラビア連邦軍が独立を阻止しようと侵攻し、内戦状態に。EUの仲介で1992年に停戦となったが、1995年に破棄、再び戦闘となった。1996年にユーゴスラビアとの国交を回復。2003年にEUへの加盟を正式に申請したが、交渉の開始には、ユーゴスラビア国際戦犯法廷への協力が求められた。

「アドリア海の真珠」とも呼ばれるドゥブロヴニクをはじめ、数多くの風光明媚な場所があり、観光業はクロアチアの主要産業のひとつだ © 2013 クロアチア政府観光局

旧ユーゴから加盟したのはスロヴェニアに次いで2番目だ。ここ数年は経済が低迷しているが、高い潜在性を持つ国と評価されており、本年3月の最終モニタリング報告書では、「クロアチアのEU加盟は、クロアチアのみならず、西バルカン地域、そしてEU全体にとっても恩恵をもたらし、成功するだろう」と結論付けられている。

クロアチアの国民は、他の加盟国と同様にEU市民としての権利も享受することになる。国際社会においてはEUの一国として影響力を発揮することができ、グローバルな課題への解決に貢献することが期待されている。

ヘルマン・ヴァン・ロンプイ欧州理事会常任議長は、加盟式典でのスピーチで、次のように述べた。「EUは、和解の精神の上に築かれた平和のひとつの形である。西バルカンの歴史においてクロアチアの加盟は、ともにある未来への指標となるものだ。その未来とは、平和と繁栄のうちにともに生きるということだ」。

拡大にともなうEU内の改変

クロアチアの加盟にともない、加盟国が28カ国となり、EUは、面積、人口、GDPそれぞれが増えた(基礎データ参照)。またEUの公用語は、クロアチア語が加わり、全24言語に。その他、諸機関・制度にも変更があった。

欧州委員会

ネベン・ミミツァ消費者保護政策担当委員 ©European Union, 2013

外務・欧州統合担当副首相を務めたネベン・ミミツァ氏がクロアチア出身の委員に指名を受け、7月1日、消費者保護政策担当に就任した。

ビデオ 欧州委員会本部ビルに掲げられた歓迎幕 ©European Union, 2013
http://ec.europa.eu/croatia/news/2013/news1_hr.htm

欧州議会

クロアチアには12議席が割り当てられ、4月14日の国内選挙で、欧州議員が選出された。結果、欧州議会の総議席数は754から766に増加した。なお、リスボン条約の規定により、現議会の任期満了にともなう2014年の欧州議会選挙から、議席数を751に減らすことが決まっている。。

ビデオ マルティン・シュルツ欧州議会議長の歓迎とゾラン・ミラノビッチ首相による挨拶(2013年6月27日、ブリュッセル) ©European Union, 2013

EU理事会

特定多数決の票決に用いられるクロアチアの持ち票は7票。全352票中、特定多数決が成立するのは260票となる。

EU機関へのクロアチア出身職員の登用

これまでにクロアチア国民向けの375ポストの募集が始まり、9,000件を超える応募があった。

関税と国境審査

加盟国間の関税は廃止された。国境を接する加盟国であるスロヴェニアとハンガリーとの間の国境審査は、クロアチアがシェンゲン協定を結ぶまで継続する。新規加盟国のこの手続きには、通常数年を要している。

EU拡大の意義とさらなる展望

1951年のパリ条約により6カ国で始まった欧州石炭鉄鋼共同体を母体とし、その後、機構や制度を変えながら、EUは今や28カ国による政治的・経済的な連合に発展した。2013年にクロアチアが加盟した後も、5カ国が候補国、さらには3カ国が潜在的候補国として名を連ねている。加盟国は、欧州の平和、民主主義、繁栄のため、経済・社会のバランスのとれた発展、雇用の安定、市民の権利や便益の保護といった共通の目標のほか、民主主義や人権の尊重、平和と連帯、差別や貧困のない社会といった価値を共有する。EUに加盟するということは、この達成目標と価値を共有するということにほかならない。

EUの加盟候補国と潜在的加盟候補国
加盟候補国

マケドニア旧ユーゴスラビア
アイスランド
モンテネグロ
セルビア
トルコ

潜在的加盟候補国

アルバニア
ボスニア・ヘルツェゴビナ
コソボ

欧州委員会では拡大総局が、加盟候補国との交渉、加盟までの支援を担当。加盟交渉は一貫性と客観的基準を順守した、信頼性ある過程を踏み、EU市民の支持を得ることが重要だ。そのためにも、拡大総局は、以下の戦略ポイントを重視した拡大政策を進めている。

  • 法の支配、汚職との闘い
  • 地域間の協力と和解
  • 経済発展と財政安定

欧州全体を覆った経済不況や、一部の加盟国の財政危機など、欧州統合により加盟国に及ぼされる影響や課せられる負担は大きい。それでも加盟候補申請は今日まで続き、EUの国境線は広がっている。

2010年より滞っていたトルコの加盟交渉は、6月25日のEU理事会で再開を決定したが、反政府デモへのトルコ政府の強硬な対応に、交渉再開には慎重な姿勢の加盟国もあり、時期は当初の6月から秋に延期となった。同じ25日のEU理事会ではまた、セルビアとの加盟交渉を2014年1月までに開始、コソボとは加盟準備に向けた手続きに入ることを決定した。セルビアとコソボは、2013年4月にEUの仲介により関係を正常化することで合意している。この進捗状況を見た上で、コソボとの交渉開始が正式に決定する予定だ。

2009年に加盟申請を行ったアイスランドは、近年景気が上向いており、加盟交渉の勢いが落ちてきている。2013年4月に総選挙が行われ、5月に発足した新政権は、国民投票で加盟の是非を問うまで、交渉を進めないと表明している。

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EU MAG 2012年3月号Question Corner 「EUはどのように拡大してきたのですか?
『ヨーロッパ』誌 2007年冬号 「EU拡大」

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欧州委員会拡大総局
クロアチアの加盟に関する情報サイト
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