2017.6.29

FEATURE

欧州経済予測とヨーロピアン・セメスター

欧州経済予測とヨーロピアン・セメスター
PART 1

2017年春季経済予測:安定的な成長が続く

欧州連合(EU)の経済サーベイランス手続きに合わせ年3回発表される欧州委員会の経済予測。5月の春季経済予測では、欧州経済の堅調ぶりが報告された。PART 1では、経済予測の主な指標とともに、経済・財政政策でEUと加盟国の協調に欠かせない「ヨーロピアン・セメスター」の概要を紹介する。

加盟国の経済政策を評価、協調させ、指針を示すヨーロピアン・セメスター

欧州委員会の経済予測は、欧州連合(EU)の経済サーベイランス※1手続きの年間サイクルに合わせて年3回発表される。この年間サイクルが「ヨーロピアン・セメスター(European Semester)」と呼ばれるものだ。28の加盟国の経済・財政政策を評価し、協調させ、指針を示すという膨大な作業を進めるため、年3回の経済予測とヨーロピアン・セメスターは重要な手段となっている。一方は予測、他方は規定を示すものであり、共に欧州における経済分析の枠組みを提供している。EUの経済予測は一般の人々にも分かりやすいものである一方、ヨーロピアン・セメスターの役割や構造はあまり知られていない。

欧州債務危機以前は、各国の経済・財政政策の立案の大部分が国家レベルで行われ、各加盟国の取り組みをEUレベルで協調的に概観することはほとんどなかった。しかし債務危機を契機に、2010年にヨーロピアン・セメスターが導入された。目的は、加盟国が毎年の前半に経済・財政計画をEUと協議し、その結果に基づきその年の後半に自国の行動を取る、という流れを確実にすることであった。この定期的な監視やピアレビュー(相互評価)によって経済的課題の前兆が現れた場合に、より速やかな措置を取れるようになった。特にピアレビューは、加盟国の改革や財政規律への約束を果たす一助となるとともに、経済通貨同盟(Economic and Monetary Union =EMU)を強化する役割も果たしている。

回復5年目に入った欧州経済

欧州委員会の経済予測を説明するには、実際の最新版を見てもらうのが分かりやすいだろう。5月11日に発表された2017年の春季経済予測では、EU経済が回復5年目に入ったといううれしいニュースを報告している。ユーロ圏の域内総生産(GDP)成長率は2017年の1.7%から2018年は1.8%に上昇すると予測されている。また、EU全体のGDPは両年とも1.9%の見通しだ。2016年後半から続く世界経済の伸びが、欧州の経済成長を下支えする重要な要因の一つとなっている。EUを除く世界全体の成長率は2017年の3.7%から2018年は3.9%となる見通しだ。

春季経済予測の主な指標

出典: Spring 2017 Economic Forecast: steady growth aheadを基に作成

ただし、欧州の前向きな経済状況とは裏腹に、景気の先行き不透明感は依然として高まっている。外的なリスクとしては米国の経済・貿易政策の不確実性、そしてより広い地政学的な緊張の高まりが挙げられる。また、時折不安定な中国の経済調整や欧州の銀行部門の健全性、英国のEU脱退交渉などのリスクもある。

その他の重要指標も景気回復の兆候を示している。直近数カ月でEU全体のインフレ率(物価指数)は上昇しているが、これは主に石油価格の上昇に起因している。未加工の食料品とエネルギーを除いたコア・インフレ率は、長期的平均値を大幅に下回ったままである。ユーロ圏のインフレ率については2016年の0.2%から2017年には1.6%に上昇する予測だが、2018年には石油価格上昇の影響が薄れるため、再び1.3%に戻る見通しだ。

個人消費は拡大傾向から落ち着きへ、失業率は引き続き低下傾向

経済成長をけん引する個人消費は、2016年に過去10年で最も早いペースで拡大したが、2017年は物価上昇による消費者心理の弱まりを受けて落ち着くことが予測される。企業の収益力向上や魅力的な融資条件、また「欧州投資計画」のプラスの効果が、個人消費を後押しする要因だ。

© European Union, 1995-2017

失業率は引き続き低下傾向にあるが、多くの加盟国ではいまだに高止まっている。ユーロ圏では2017年に9.4%、2018年には8.9%に低下する見通しで、2009年以降最も低い数値となる。これは内需拡大や構造改革が堅調な雇用創出を促したおかげである。EU全体としても同様の傾向となる見通しで、2017年の失業率は8.0%、2018年には7.7%に低下すると予想されている。これも2008年後半以降で最も低い数値となっている。

困難な数年を経て、EUの政府総債務残高の対GDP比は2017年と2018年には低下し、財政健全化が進む見込みである。利払いの減少と公共部門における賃金の適正化によって、財政赤字の削減がさらに進むはずだ。予測ではユーロ圏の債務残高の対GDP比は2016年の91.3%から2017年には90.3%、2018年には89.0%に低下し、EU全体では2016年の85.1%から2017年には84.8%、2018年には83.6%へと低下する見通しである。

EU加盟国ごとの2017年の成長率予測

今般の春季経済予測を受け、欧州委員会のヴァルディス・ドムブロフスキス副委員長(ユーロ・社会的対話および金融安定・金融サービス・資本市場同盟担当)は次のように述べている。「EUの成長は力強さを増し、失業率は減少し続けている。しかし、加盟国ごとに実態は大きく異なる。経済面でより良いパフォーマンスを示しているのは、より野心的な構造改革を実施した国である。この不均衡を是正するために、われわれは製品・サービス市場の開放から労働市場や福祉制度の近代化まで、欧州全域にわたる断固たる改革を行う必要がある。人口構造の変化と技術変革の時代において、われわれの経済も進化し、市民により多くの機会とより良い生活水準を提供しなければならない」。このような観点から、加盟国にとって最良の戦略的道筋を見出すためにヨーロピアン・セメスターが重要な役割を担っている。

※1^ 国際協調の観点から、先進諸国の経済政策の運営状況を多国間で相互に監視する制度。

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