2016.6.29

FEATURE

欧州航空部門のさらなる成長目指す新航空戦略

欧州航空部門のさらなる成長目指す新航空戦略
PART 1

欧州の航空部門の現状と直面する課題

欧州連合(EU)の航空部門は、欧州経済において目覚しい成功を収めており、年間9億人の旅客が域内外を飛び交うその市場規模は、世界全体の3分の1を占めている。2035年には2012年に比べ50%の輸送量増加も見込まれている中、激化する国際的な競争に立ち向かいながら、この経済的機会をどう生かしていくか――。欧州委員会が採択した包括的な新戦略はこの問いに答えようとしている。パート1では、航空戦略策定の背景ともなる欧州の航空部門の現状を中心に紹介する。続くパート2では、戦略の内容に加え、戦略採択後に交渉開始が決定した日本とEUの「航空安全に関する相互承認協定(BASA)」についても解説する。

成長の大きな牽引力となっている欧州の航空部門

EUにとって、航空産業と航空市場は、経済成長・雇用・貿易・人や物の移動(モビリティ)の大きな牽引力であるとともに、EUの経済に寄与しEUの先駆的な立場を強化するという意味で非常に重要な役割を担っている。域内総生産(GDP)への貢献額は年間1,100億ユーロで、観光なども含めた乗数効果を含めると5,100億ユーロに上る。

過去20年の間、EUは域内および世界に向けて航空の自由化を進め、欧州の航空部門に大幅な成長をもたらしてきた。現在、空路による移動は、かつてないほどの選択肢があり、魅力的な価格やサービスが提供されている。EU域内線と国際線の双方において、発着便数と頻度、乗客数は大きく増加した。世界の主要な都市と欧州を結ぶ豊富な直行便は、国際的な企業にとって欧州の拠点設立に最も適した地としてEU 域内の都市を選ぶ理由にもなっている。欧州の格安航空会社(LCC)は今や、国際線旅客数世界ランキングのトップ10に名を連ね、エアバス社をはじめとする航空機メーカーも同様に好況を誇ってきた。

主な航空の歴史と欧州の航空政策

出来事
1970 米国企業による世界的な旅客機の独占に対して危機感を持ったフランスのアエロスパシアルと西ドイツDASA(両社とも現在はエアバス・グループ)が共同出資して「エアバス社」を設立
1997 EU域内の航空完全自由化 EUのエアラインがどの加盟国にも飛ぶ事ができるようになった
2002 安全性と環境保護の均一なレベルを保障するために欧州航空安全機関(EASA)を設立
2004 単一欧州空域(シングル・ヨーロピアン・スカイ)プロジェクトの始まり。欧州の空域構成を改良し、安全性、容量、効率性と環境ニーズを満たすための最初の法令群が採択される
2005 3月に対外航空政策が施行されたのを受けて、EUレベルでの包括的な航空輸送協定の締結に至る。署名国は西バルカン諸国、モロッコ、ジョージア、ヨルダン、モルドバ、イスラエル、米国、カナダ。また、野心的な対外政策を提唱した2012年の「EU対外航空政策」にもつながった。
2008 単一欧州空域の礎となる、EU法1008/2008を採択
2015 12月7日に「欧州の新たな航空戦略」採択

欧州委員会発行の「Commission en Direct#28」(2016年2月号)を基に作成

しかし、競合する欧州外の航空業界もまた大きく成長している。欧州が取り残されることなく、常に時代を先取りしていくためには、さまざまな課題に取り組む必要がある。

公正な競争の確保、安全、環境への配慮を盛り込んだ新戦略

欧州の航空輸送部門が取り組まなければならない課題は複合的だ。例えば、域外国との航空協定を通して、より公明正大で公平な競争の場を確保し、市場参入機会を増やすことによって将来の成長と雇用を確実なものにする一方で、乗客の権利、安全、保安および環境を守る高い基準を維持すると同時に、「ドローン」(小型無人機)など新技術に対する適切な法的枠組みを制定しつつ達成されなければならない。

新航空戦略を発表する欧州委員会のシェフチョビチ副委員長(左)とブルツ委員(右) (2015年12月7日、ブリュッセル) © European Union, 1995-2016

2004年導入の「単一欧州空域(シングル・ヨーロピアン・スカイ)」という施策により、EU内では航空交通管理の統一や技術・手続きルールの調和が目指されてきた。統一空域を形成することで、容量を3倍に拡大するとともに航空管制コストを半減させるという、10年以上前に掲げられた野心的な計画は、いくつかの成果を挙げているもののまだ完遂されていない。欧州委員会は、EU加盟国が抱えている問題を克服し、欧州の空を一つにすることと、単一空域の実現を優先課題と位置付けている。

その他、航空機からの温室効果ガス排出、さらに空港や路線の過密なども取り組まなければならない課題だ(下図)。

また、欧州委員会のヴィオレタ・ブルツ運輸担当委員は「欧州の航空部門はいくつかの課題に直面している。この野心的な戦略によって、欧州企業は新たな投資とビジネス機会を通して高い競争力を保持でき、また欧州市民も、より多くのフライトの選択肢と安価で安全度の高い空の旅を享受できるようになるだろう」と新戦略のメリットを強調した。

欧州の航空分野が直面している課題

© European Union, 1995-2016

 

新しい航空戦略に関して、航空戦略の専門家や利害関係者から広く意見を求めるために欧州経済社会評議会(EESC)で開催された公聴会(2016年4月21日 ブリュッセル)© European Union

このように航空戦略のその他の目的は、欧州の競争力を保ち、急速に変化し続ける国際経済から最大の利益を上げることだ。それは、欧州委員会のジャン=クロード・ユンカー委員長が掲げる10の優先取り組み課題のうちの「雇用、経済成長そして投資の促進」、「産業基盤強化を通じた、より統合され、より公正な域内市場」、「国際舞台でより強力な役割を担う」の3つを実現することになる。

パート2では、新しい航空戦略の具体的な内容について解説する。

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