2015.4.27
FEATURE
2015年3月14日から18日まで、東日本大震災で甚大な被害を受けた東北地方の中心都市・仙台で開催された第3回国連防災世界会議(WCDRR)には、各国の首脳や閣僚級の代表者ら6,500人以上が集まり、欧州連合(EU)からは欧州委員会のクリスタリナ・ゲオルギエヴァ副委員長とクリストス・スティリアニデス人道援助・危機管理担当委員が出席した。会議では、187の国連加盟国が防災への決意を確認し、各国の防災に対する政治的コミットメントを示した「仙台宣言」と、新しい国際的防災指針である「仙台防災枠組2015-2030」を採択した。本体会議のほかにパブリック・フォーラムのイベントも数多く開催され、延べ14万3,000人が参加するなど、日本国内で開催された国際会議としては最大規模となった。
世界的に関心の高い会議となった背景にあるのが、近年多発する災害に伴う膨大な人的・経済的損失を「何とか食い止めたい」という国際社会の切実な思いである。国連国際防災戦略事務局(UNISDR)がまとめた世界各地の災害被害状況レポートによると、1992年から2012年にかけて世界の人口の64%にあたる約44億人が災害によって何らかの被害を受け、約130万人の尊い命が失われている。また、災害による被害額は世界のODA支出総額の25年分に匹敵する2兆ドルという膨大な額に上っている。国際社会にとって自然災害による被害を食い止めるための態勢整備は、もはや「待ったなし」といえる状況になっている。
地震や洪水、干ばつ、台風などの自然災害は、人間の力で阻止することはできない。しかし、社会全体で予防策を講じることによって、被害を最小限に食い止めることや、速やかな復興が可能となる。例えば、災害訓練や地域の組織化、早期警戒システムの確立や、非常時計画の策定などである。これら防災計画によって人々の生命を救い、暮らしを守るとともに、各国地域の状況に応じた「レジリエンス」を強化できる。
レジリエンス(resilience)とは、復元力や強靱性、しなやかさといった意味合いを持ち、日本語で「災害対応能力」と訳されることもある。すなわち社会全体として災害に対して備え、対処しうる力を指し示している。EUではレジリエンスを「個人や家庭、コミュニティー、国や地域が内乱などの人災も含めた災害による重圧や衝撃に耐え、適応して迅速に回復する能力」と定義し、人道支援・開発援助政策の重要な投資対象としている。このレジリエンス強化の要といえる防災政策の国際的な枠組みをまとめるのが、国連防災世界会議だ。
国連防災世界会議の開催は、1987年の国連総会において「国際防災の10年」が定められたことに端を発している。1994年に横浜で開催された「第1回国連防災世界会議」では、防災に対する基本認識や6項目の行動計画からなる防災指針が採択された。しかし、数値目標が設定されなかったことなどから実行に移した国は少なかった。
第2回会議は、阪神・淡路大震災から10年目にあたる2005年1月に神戸で開催され、「災害のもたらす、人命の損失およびその他の社会的、経済的、環境的な資産の損失を、世界各地において減らしていく決意である」などとする「兵庫宣言」を採択。2015年までの10年間に各国・国際機関が実施すべき防災施策の優先行動分野や数値目標などを盛り込んだ行動計画「兵庫防災行動枠組2005-2015(HFA)」が168の参加国によって採択された。
HFAでは、災害発生後の支援よりも事前の防災・減災に力点をおく政策へとシフトし、持続可能な開発の取り組みに減災の観点を取り入れる方針を打ち出した。しかし『国連世界防災白書2013年』(UNISDR作成)によると、災害リスクを考慮した資金投入が行われ、十分な成果を挙げているとは言い難い状況だ。原因としては、災害リスクにさらされる人口の増大や、経済のグローバル化の進展による企業活動の拡大といった、この10年の間に生じた社会的変化による影響も少なくない。HAFの後継枠組みである「仙台防災枠組2015-2030」は、まさにこのような環境変化に対応し、将来起こりうるリスクを見越した新たな防災・災害管理のための行動指針(枠組み)になるよう、各国間で調整が続けられてきたのだ。
世界で多発する災害だが、EU域内においても自然災害は頻度・規模ともに拡大傾向にあり、その背景には気候変動や都市化、人口増加、環境破壊などが疑われている。EUの執行機関である欧州委員会の人道援助・市民保護総局(ECHO)によると、2002年から2014年の間にEU域内で発生した自然災害により8万人以上が死亡し、1,000億ユーロ以上の経済損失が生まれた。EUでは欧州近隣政策に基づいたEU域内外の災害支援に取り組むとともに、1996年に始動した防災能力向上支援施策「DIPECHO計画(Disaster Preparedness ECHO programme)」によって、域外の防災や市民保護(※1)に対応している。
ECHOの試算では、防災に1ユーロ使うことで災害対応に要する4〜7ユーロが節約されるという結果が得られており、EUでは災害危機回避をより主流とした防災政策を採用し、EU加盟国の危機対応への取り組みを支援している。例えば、加盟国による自国リスク評価の実施をサポートするための指針の発表や、加盟国間の相互評価を促す取り組みなどだ。また災害リスク管理戦略に必要なさまざまなデータへのアクセスや分析を整備するために、既存の災害被害記録に関する基準や手順の調査も行っている。
EU域外のレジリエンス強化のための支援に関しては、特に災害に対して脆弱な国や地域を中心に、毎年約1億2,000万人を超える人々に援助を行っており、その資金の多くは災害に対する備えや、リスク低減体制の整備に投じられている。2014年にECHOが投じた人道援助資金のうち約13%にあたる1億2,200万ユーロ以上が、防災資金に充当され、およそ1,600万人の人々の災害リスクが軽減された。これらの資金は主に食糧や栄養、保健衛生、公衆衛生などの分野に向けられている。
このようなEUの災害支援や防災におけるリスクマネジメントの実績と経験は、国際的な防災政策の策定に向けても、重要な役割を担うものだ。そのため今回の仙台防災枠組への貢献を打ち出した国や地域の中でも、EUは早くからEU加盟国全体の声明としてコミュニケーション(政策文書)を採択し、枠組み策定に向けた交渉を積極的にリードした。
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