2014.4.30
FEATURE
2008年の金融危機、そして2010年~2011年にユーロ圏の一部の国々で起きた債務危機により、経済に大きな打撃を受けた欧州連合(EU)。EU自身や加盟国、IMFなどからの支援により、危機に陥った国々ではようやく回復の兆しが見えてきたところだが、EUは教訓を生かし、経済通貨同盟(EMU)の欠陥を修復する必要に迫られた。真のEMUに向けた取り組みのひとつとして目指すのが「銀行同盟」である。
欧州連合(EU)創設の基本条約(マーストリヒト条約、1993年発効)には、EUは経済と通貨の統合を目指すとして「経済通貨同盟(EMU=Economic and Monetary Union)」の設立が規定されている。この目標の下、EU加盟国の経済政策協調が図られ、欧州中央銀行(ECB=European Central Bank)が創設され、単一通貨(ユーロ)が導入されるなど、EU内の経済・通貨統合は着実に進展してきたかのように見えた。
しかし、2008年以降、欧州に広がった債務危機により、単一通貨を共有するユーロ圏では、国境を越えた大規模な経済活動が行われているにもかかわらず、EUとしての規則が不十分で、金融や財政の行き詰まりに適切に対処することができないことが露呈した。このことが、金融不安を拡大し、回復までに長期間を要した大きな原因となった。
そのため、EUの首脳たちは2012年6月のEU首脳会議(欧州理事会)において、金融枠組みの統合、財政枠組みの統合、経済政策枠組みの統合、民主的正統性と説明責任の強化を4つの基礎として、EMUを真に機能するものとしていくことを決定した。その一番目、金融枠組みの統合が「銀行同盟(Banking Union)」の創設にあたる。
ユーロの安定のためには、ユーロ導入各国(ユーロ圏)で国債金利の上昇により資金調達が制限される状況を回避しなければならない。だが、ユーロ圏各国がばらばらに対応していたのでは、各国銀行の融資や資金調達はうまくいかない。だからこそ、一元的で強固な金融システムを構築し、ユーロ圏諸国、そしてすべてのEU加盟国が共通の課題として金融の安定に取り組むことが重要になる。
すでに2010年より、EUの行政機関である欧州委員会は、実体経済に貢献できる、強く弾力的な金融の仕組みを整え、銀行が破綻した場合でも納税者に負担がかからないようにするため、金融部門の規制、監督、統治を強化するための約30本の法案をEU理事会と欧州議会に提出している。
安定した単一通貨市場のための取り組みとして開始する銀行同盟 © European Union 2012 – EP
「銀行同盟」は、EU全加盟国の強固な金融の枠組みを構築するもので、その大きな柱として、「単一監督メカニズム(SSM=Single Supervisory Mechanism)」および「単一破綻処理メカニズム(SRM= Single Resolution Mechanism)」、そして「預金保険制度(DGS=Deposit Guarantee Scheme)」の3つを掲げている。銀行同盟は、現在のところ、ユーロ圏18カ国の約6,000の銀行を対象としているが、実はEU加盟の全28カ国に開かれた仕組みであり、ユーロ未導入国であっても、希望すれば同盟への参加は可能である。
銀行同盟では、銀行が危機に陥った場合、公的資金によって救済するのではなく、株主や債権者といった当事者の負担で救済することになる。つまり、税金の使途が健全化し、銀行も安定することにより、欧州市民は緊縮財政に苦しむことなく将来の不安から解放され、市場にお金がまわり、経済は活力を取り戻すことになる。それがまた、持続可能な経済回復への原動力となる。さらに、銀行再建に株主や債権者がかかわることによって、より確実で費用対効果の高い対策を取りやすくなることも期待される。
銀行同盟の設立にあたり、ユーロ圏の金融政策を担う欧州中央銀行(ECB)に新たな権限、「単一の監督権」が付与された。ECBはユーロ圏すべての国の銀行の監督責任を直接または間接的に持ち、規定の自己資本要件に違反した、あるいは違反する危険性のある銀行に対して早期に介入し、是正措置を要求できるようになる。これについてジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長は、「ECBを中核とし各国の監督当局が参加する新制度により、欧州の銀行への信頼は復活するだろう」と評価する。またミシェル・バルニエ域内市場・サービス・金融担当欧州委員は「新たな権限を付与されたECBは、従来の機能に加えてユーロ圏の銀行の健全性をも判断する」と指摘し、「我々は市民の税金が銀行救済に使われることを止めねばならない」との決意を語った。
銀行同盟の大きな柱となる「単一監督メカニズム」、「単一破綻処理メカニズム」、「預金保険制度」について簡単に説明しよう。
銀行監督理事会の初代委員長に任命されたダニエル・ヌイ氏 © European Union 2013 – EP
単一監督メカニズム(SSM=Single Supervisory Mechanism)とは、ECBがユーロ圏内の銀行に対する単一の監督権を持つという仕組みだ。ECBが直接監督する対象は、EU内の銀行のうち、影響力の大きい300億ユーロ超の資産を持つ銀行、あるいは母国のGDP比で少なくとも20%の資産を持つ銀行で、銀行同盟に加わる約6,000の銀行の中の、主としてユーロ圏にある約130行だ。ECBは既定の自己資本要件に違反した、あるいは違反する危険性のある銀行に対して、早期に介入し、是正を要求することができる。その他の銀行については、各国当局が直接監督し、ECBは間接的に監督することになる。ただしECBはこれらの銀行についても、いつでも直接監督し、保護する権限を持つ。
ECBはこれまでの任務である金融政策運営と、銀行監督任務とを明確に分離するため、新たに銀行監督理事会を設け、運営委員会、監督の意思決定に対する権限を持つ政策理事会、および調停員を配置する。銀行監督理事会の初代委員長にはフランス出身のダニエル・ヌイ氏が任命されており、SSMが正式に稼動を開始する2014年11月に向けて人員の確保が進められている。
単一破綻処理メカニズム(SRM=Single Resolution Mechanism)は、危機の際、迅速な意思決定と破綻処理を行い、他のユーロ圏の国々への伝播を防ぐ仕組みだ。一元的に意思決定を行うことにより、各国で破綻処理を行うよりも効率的な対処が可能となり、金融への悪影響を最小化することができる。SRMの対象となるのは単一監督メカニズムの対象行で、銀行の破綻処理の決定は、ECBの代表、欧州委員会、当該国の当局で構成される単一破綻処理委員会(Single Resolution Board)の提案に基づき、欧州委員会が行う。
SRMの資金源となるのが単一破綻処理基金(Single Bank Resolution Fund)である。銀行同盟内の全銀行により、2016年から8年かけて総額約550億ユーロが積み立てられる同基金はEUレベルの基金であり、破綻処理に公的資金を投入することなく、破綻銀行が再建されるまでの間の中期的な資金提供に利用される。SRMは2015年1月から稼動する予定である。
預金保険制度(DGS=Deposit Guarantee Scheme)については、EU共通のルールとして各国が預金者一人あたり10万ユーロまで保護し、銀行破綻から7日以内に支払うことが義務付けられる。今のところ、単一の預金保険制度という枠組みができるわけではないが、ルールではEU各国が自発的に、互いの基金を融通しあうことなども想定している。DGSは、法案が間もなく可決される見通しである。
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