2015.2.25
FEATURE
成長を促して持続させるための「投資」、欧州を新しい成長への道筋に据えるための「構造改革」、公共財政の健全性と強固な財政安定を担保する「財政責任」。この投資、構造改革、財政責任の三位一体で好循環を作るためには、まず投資資金を結集させなければならない。その上で戦略的投資を徹底的に増強し、中小企業や中規模企業が投資資金を調達できるようにすることも必要である。EU予算を戦略的に活用することで、その効果を増大させ、加盟国の安定成長をにらんで柔軟に運用することが大切だ。このように高度な目標を達成することに特化した投資基金を設立し、それを効果的に活用することが鍵を握る。
投資資金準備は、欧州委員会とEIBが共同で行い、加えて加盟国、各国の開発銀行、地域の官庁、個人投資家の貢献が求められることになる。投資計画には、実体経済における官民の投資を、3年間(2015年~2017年)で3,150億ユーロ以上導き出すとされている。まず、EUの資金から拠出する計80億ユーロ(「コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(CEF)(※1)」から33億ユーロ、「ホライズン2020」から27億ユーロ、「その他の資金源」から20億ユーロ)を用い、160億ユーロの信用保証をする。
このEU保証の160億ユーロに加え、EIBが50億ユーロを拠出する。EUとEIBがもたらす合計210億ユーロが、欧州戦略投資基金(EFSI)となる。この210億ユーロが、乗数効果(後述)によって15倍の投資額をもたらし、最終的に約3,150億ユーロという規模になるのが投資計画の画期的なところである。EFSIの210億ユーロのうち、160億ユーロは長期投資に、50億ユーロは中小企業および中規模企業への投資に充てられることになっている。乗数効果により最終的には長期投資には約2,400億ユーロ(160億ユーロの15倍)、中小企業および中規模資本企業へは約750億ユーロ(50億ユーロの15倍)が投じられる。
EFSIは、実際どのように機能するのだろうか。基金の役割は、特定の部門や分野で追加の民間資金を呼びこむことである。これは、同基金が初期リスク負担能力を有するためで、あるプロジェクトに対し、基金が保証する金額の3倍の公的融資が劣後債として提供が可能となる。さらにこの公的融資が他の投資家を呼び込み、その5倍の資金が集まる。
つまり基金が保護する1ユーロが、実体経済での15ユーロの民間投資を生み出すことになる。この1:15という乗数効果は、これまでのEUプログラムやEIBの歴史的な経験から計算された堅実な平均値を参考にしている。この投資計画を実現するためには、すべての出資者と当事者が力を合わせる必要がある。重要分野に集中して、すべての資本を乗数効果を通して投資することで、EFSIをより効率的に活用できる。
3,150億ユーロに上る資金は、欧州にとって重要な事業への戦略的投資に使われることになる。長期投資の約2,400億ユーロについては、長期投資基金、運輸インフラ、エネルギーインフラ、資源効率の向上、再生可能エネルギー、ブロードバンドインフラ、イノベーション、研究、教育、訓練、その他のプロジェクトなど投資先として挙げられている。もちろん、資金提供は、実行可能なプロジェクトに届き、欧州経済に実質的な付加価値をもたらす必要がある。
このように最も必要なところに投資させる仲介役となるのが「プロジェクト・パイプライン」である。EIBグループは、EFSIのプロジェクト・パイプラインが透明で定期的に更新されることを確認する一方、地域の行政庁、各国の政策金融機関、EU関連機関、個人投資家を含む加盟国諸国は、プロジェクトを提示したり支援したりすることで、このパイプラインに貢献することになる。パイプラインにあるすべてのプロジェクトに対し投資計画の下で資金援助が確約されるものではないが、それでもパイプラインは、投資の潜在力に関する可視性と、分野の選抜の透明性を提供することになる。
特に大型の社会基盤プロジェクトには、プロジェクトが健全に運営されていることに対して、継続的な信頼が得られる必要がある。リスクに対する透明性や理解をいっそう高め、追加の投資を促進させなければならない。また、投資、成長、雇用に直接的な影響を与える規制環境の改善も重要になる。EU単一市場内も存在する各国間の規制環境の隔たりを埋めることで、年間1兆4,670億ユーロもの累積利益(※2)がもたらされることになる。 単一市場の潜在成長力を最大限に引き出せば、EUのGDPの11%以上を創出することができるという試算もある。
このように、欧州の経済成長と雇用に焦点を当て動き始めた投資計画。欧州委員会で雇用、成長、投資、競争力の強化を担当するユルキ・カタイネン副委員長は、2015年10月までにEUの全28加盟国を回り、投資計画について説明し協力を求めることにしている。1月に訪れたローマとミラノでは、「欧州ではフレッシュな投資が必要。そのためには、さらに民間資金を動員する必要がある。EFSIは、資金を倍増させる役割を持っており、パワフルに始動し、ステークホルダーを増やしながら徐々に活動を広げていく」と述べ、「欧州委員会は、加盟国と各国の公的投資機関に呼びかけ、基金の効果を倍増させ、さらに前向きな波及効果を欧州経済に生み出していく」と説明した。
さらに、1月27日にはEU加盟国の経済・財務相が集まる経済・財務理事会でも、EFSIが議論された。2015年半ばには新規投資が始められるよう、3月には各国の合意をまとめるという野心的な期限を確認した。
2014年12月〜2015年1月まで ・欧州理事会と欧州議会は、欧州戦略投資基金(EFSI)の設立を含む欧州投資計画を承認するとともに、関連規則を迅速な手続きで採択することに合意。 ・欧州委員会は、2015年1月に規則を提案(1月13日に提出済み)。 ・欧州議会とEU理事会は、2015年6月までの発効を確実にすべく、規則の審議を行う。 ・欧州投資銀行(EIB)グループは、自身の資金源を使って活動を開始する。 ・加盟国は欧州構造投資基金(※3)から最大限の効果を得るよう、その計画をまとめる。 ・欧州委員会とEIBのタスクフォースの報告書に基づき、EUレベルでプロジェクトの特定を加速化する。 ・EIBと主要関係者が、投資顧問「ハブ」構築に着手する。 |
2015年半ばまでに ・EFSIが起動する。 ・欧州構造投資基金が、EUプログラムとの相乗効果を発揮する。 ・EUレベルにおいて、透明性のあるプロジェクト・パイプラインが整備される。(それ以降持続的に発展) ・新たな投資顧問ハブが起動する。 ・EU、国、地域の各レベルにおいて、利害関係者とともにフォローアップ活動開始。 ・専用ウェブサイトの整備により、投資計画における進捗状況をリアルタイムで監視することが可能となる。 |
2016年半ばまでに ・首脳レベルも含み、進捗評価が行われる。 ・多年次財政枠組みの中間レビューに先駆け、さらなる選択肢の検討を行う可能性がある。 |
EUは、歴史的に海外直接投資の主な投資先であり、5億人規模の単一市場はEU域外諸国の企業にも恩恵をもたらす潜在力は常にある。さまざまな課題に多面的な戦略で挑むEUの投資計画の行方は、欧州だけでなく、日本をはじめとする世界各地の政策にも大きな影響を与えることになるだろう。
※文中の中小企業とは、従業員250人未満の会社のこと。中規模企業の明確な定義はないが、概ね従業員250人~3000人の企業を指す。
(※1)^ 欧州委員会がエネルギー、運輸、通信の3分野でインフラへの投資を促進するために導入した財政支援措置
(※2)^ 欧州議会の2014年版”The Cost of Non-Europe Study”による
(※3)^ EUの欧州地域開発基金(ERDF)、欧州社会基金(ESF)、結束基金、欧州農業・農村開発基金(EAFRD)、欧州海洋・漁業基金(EMFF)の5つの基金。これら基金の規則は資金の影響力を強化するため、簡素化・一元化されている。加盟国は重点分野に絞り込んで投資をすることが求められている。
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