2013.2.19
EU-JAPAN
欧州連合(EU)にとって第7位の貿易相手国(2011年)である日本は、多くの欧州企業にとって魅力ある市場だ。一方で、欧州の一企業にとって、言語やビジネス慣習が全く異なり、人脈も少ない日本でビジネスを始めるのは容易なことではない。日本企業とのビジネスを担う管理職レベルの人材を育成する、EUのビジネスマン日本研修プログラム(EU Executive Training Programme in Japan=ETP)は、欧州企業が日本市場で成功するための強力な支援ツールである。
1970年代後半、EUの対日貿易は大幅な赤字が続き、いわゆる通商摩擦の問題を抱えていた。欧州を訪問した経済団体連合会(経団連、現・日本経済団体連合会)ミッション団長の土光敏夫会長(当時)は、日欧相互理解のための交流を欧州委員会に提案、これがきっかけとなって1979年にETPが発足した。今日までに1,000人以上、800を超える企業が参加し、双方のビジネス関係促進に貢献してきた。
しかし、30年以上を経て、通商関係が改善され存在意義も変化したことを機に、2010年3月の第27期修了をもってプログラム自体の見直しが行われ、ETPは新たな選考基準とカリキュラムで2012年11月に再出発を果たした。ハンス・ディートマール・シュヴァイスグート駐日EU大使は、2013年1月の第28期生歓迎式典にて「国際経済において主要な位置を占める日本とEUは、この人材育成プログラムで築かれた相互協力関係により、さらなる潜在力を発揮していけるだろう」と参加者への期待を述べた。今後交渉が始まることになっている日・EU自由貿易協定(FTA)を軸とした日・EU間の経済関係において、また、日欧の技術力や協力関係を生かした第三国市場での事業展開においても、彼らの活躍は期待されている。
このプログラムから恩恵を受けるのは欧州企業だけではない。インターンを受け入れる日本企業にとっても、欧州におけるビジネスパートナーができるだけでなく、企業内のグローバル化に寄与し、国際的な視点を取り入れた事業戦略を進めるきっかけとなる。日本と欧州双方にとってwin-winの成果が期待できるのだ。
なお、ETPの成功を基に、2003年から韓国向けのETP(EU Executive Training Programme in Korea)も、日本よりも小規模ながら実施されている。
ブリュッセルの欧州委員会本部でETPを担当するダニエル・ヴァン・アッシュ(Daniel Van Assche)プロジェクトマネージャーは、次のように説明する。「参加する欧州企業の約6割は従業員が250人以下の中小企業です。大企業と比べて、彼らにとって自分たちでEU域外で事業を展開するのは難しく、支援を必要としています。我々はこうした企業を積極的に受け入れています」。参加企業は、参加社員の滞在費の一部や渡航費、研修期間中の一部給与や母国での社会保険料を負担することが求められる。一方で、この研修に参加する社員が中心となって、日本での事業計画を進め、事業拡大を目指す。実際、参加企業の7割が、研修プログラム修了後も日本またはアジアでの事業展開を継続、現在も日本で働く卒業生は250人ほどに上る。
ETP参加者は、欧州委員会の厳しい審査・選考をくぐり抜けた、ビジネス経験豊かで目的意識の高い秀逸な人材ばかり。応募者が水準に達していなければ、定員の45名を割ることもある。実際、日本での事業計画や本人の資質・意欲などに重きを置いた基準で選考を行った第28期では、90名の応募者の中から31名に絞られた。選抜された参加者にとってETPは、事業計画を実行に移すだけでなく、個人的にも日本への関心を深めることができる貴重な日本滞在の機会となる。
第1部 (Inception module) |
第2部 (Immersion module) |
インターンシップ | |
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場所 | 英国・ロンドン大学 東洋アフリカ学院(SOAS) |
早稲田大学 | 日本企業 |
期間 | 3週間 | 7カ月 | 3カ月 |
内容 | 日本の文化・歴史に関する集中講義 | 日本語の学習・ビジネス講義 | 企業内研修 |
それにしても、経済の停滞が続く欧州で、企業は日本にまで社員を研修に出すことに積極的なのだろうか。ヴァン・アッシュ担当官によれば、「反応は二通りありました。この時期、社員を日本にまで研修に出す余裕はない、という企業。もう一方で、低迷する欧州市場では事業の拡大は望めない、どうにかして海外に新しい市場を開拓しなければならない。しかし、潜在的に魅力ある日本市場に進出しようとしても、どう戦略を立ててよいのかわからない、という企業。こうした日本未経験の企業に、EUは人材育成という形で支援を行っているのです」。
ETPの参加条件(抜粋) |
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インターン先企業を見つけ申し込みを行うのは、基本的に参加者本人だが、一部の企業は、外国人インターンの受け入れに慣れておらず、消極的なことも。経団連は、プログラム発足当初から今日にいたるまで、会員企業へのインターン受け入れの働きかけなどの、後方支援を続けている。プログラムの中で開催される日本企業と参加者のネットワーキングイベントは、日本での事業計画を実現する好機となり、実際に日本支店開設に至ったケースもあるそうだ。
研修期間中、7カ月を費やす早稲田大学でのプログラムも充実している。徹底的な日本語教育に加え、エグゼクティブ向けに準備された大学院レベルでのビジネスおよびマネジメントを専門的に学ぶことができる。授業はスピードが速く、ついていくのは容易ではないが、短期集中的に日本のビジネス界で必要なスキルを身につけることができる。講義以外にも、企業訪問や実務家同士のセミナーなどが開催される。
プログラム修了後の進路はさまざまだ。日本にとどまって事業を担当し続ける参加者もいれば、欧州のオフィスに戻る者もいる。元の所属企業では満足できずに、日本で磨いた自分の専門性をさらに生かせる職場に転職する者もいる。一度帰国して数年後に日本に戻る例も。おしなべて、このプログラムの経験が、彼らのキャリアに多大な影響を与えていることに変わりはない。
ETPの同窓会ネットワークであるETPA(Executive Training Programme Association) は、日本に滞在する修了生の間で特に貴重なネットワークとなっている。現会長を務めるマイケル・ロフラード・ウルトジャパン株式会社社長は、第22期の修了生だ。彼は第28期生歓迎の場で、自らの体験に基づいてアドバイスを述べた。「このプログラムは、皆さんにとって、楽しくも厳しいものとなるでしょう。大いに実体験を積んでください。例えば、すでにグローバルな企業より、地方の小さな一企業でのインターンを選ぶのも一手。恥をかくことを恐れずに進んで行動してみてください。その体験や培った人脈は、生涯にわたって貴重な財産となるでしょう」。
新生ETPの厳格な審査を通った28期生31人が、無事に10カ月の研修を修了し、将来的に日本とEUの太いパイプとなることに期待したい。
※記事トップ写真前列中央の3人は、左からマイケル・ロフラードETPA会長、ハンス・ディートマール・シュヴァイスグート駐日EU大使、横山進一経団連ヨーロッパ地域委員会共同委員長
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