2014.1.15
FEATURE
バルト三国の1つラトビアが2014年1月1日から、欧州単一通貨ユーロを導入した。欧州連合(EU)加盟国であるラトビアは、経済危機を克服した上、新たにユーロ圏(ユーロ導入国)に加わったことで、同国が目指していた「欧州との関係強化」が加速する。
バルト海に面した欧州北東部に位置するバルト三国。その1つラトビアが2014年1月1日、自国通貨ラットに代わり、欧州単一通貨ユーロを導入し、欧州連合(EU)加盟28カ国の中では18番目のユーロ導入国となった。「バルト三国」と呼ばれるエストニア、ラトビア、リトアニアは2004年にEUへの同時加盟を果たしたが、ユーロ導入では隣国エストニアに続きラトビアが2番目。また旧共産圏諸国でのユーロ導入は、スロヴァキア、スロヴェニア、エストニアに次いでラトビアが4カ国目となる。リトアニアも2015年の導入を目指しており、ユーロ圏の拡大は今後も続く見通し。
ラトビアは2008年のリーマン・ショック後の世界経済危機の影響を受け、経済成長率がマイナスに落ち込んだが、その後の厳格な緊縮財政で経済はめざましい回復を遂げた。首都・リガでは、新年を迎えた1月1日深夜0時からユーロ流通開始の式典が行われた。
バルディス・ドムブロフスキス暫定首相(※1)は式典で、「ユーロ導入はラトビアにとって富を得る好機にはなるが、富を保証するものではない。財政政策は緩めるべきではない」と国民に呼びかけた。ラトビアが経済再生とユーロ圏入りを実現したことについて、ジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長は「経済の厳しい調整を経験している他の国々にとって励みとなるだろう」と述べている。
ユーロは1999年1月、オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、ルクセンブルク、アイルランド、イタリア、オランダ、ポルトガル、スペインの11カ国で導入された。その後、ギリシャ(2001年)、スロヴェニア(2007年)、キプロス、マルタ(2008年)、スロヴァキア(2009年)、エストニア(2011年)が続き、今回ラトビアが新規に導入した。EU加盟28カ国中、10カ国は未導入国。このうち、適用除外規定がある英国、デンマークを除き、EU加盟国には、「条件が整い次第ユーロを導入する」ことが義務付けられている。
ラトビアは、旧ソビエト連邦解体後、東欧諸国の中で比較的豊かな経済水準を維持してきた。リーマン・ショック後の経済危機に対しては、国際通貨基金(IMF)への緊急融資要請や国内での厳しい緊縮政策が功を奏し、2012年の経済成長率は5.6%に回復した。ユーロ導入には、前段階として新欧州為替相場メカニズム(ERM IIまたはERM 2)に最低2年間加わり、自国通貨の対ユーロ標準値の変動率を上下15%以内に抑えることが求められている。また、財政赤字や政府債務残高、長期金利、インフレ率の4項目で基準を満たす必要がある。
ラトビアの一連の取り組みによりユーロ導入条件が満たされたことから、EU財務理事会は2013年7月、同国のユーロ導入を正式に承認した。
ラトビアは面積が日本の約6分の1、北海道とほぼ同じ広さで、人口220万人(2013年1月現在)の小国である。第一次世界大戦後の1918年に独立。その後1940年にソビエト連邦に占領されたが、東西冷戦構造が崩壊した後の1991年、ソ連のバルト三国独立承認を受け、独立を回復した。EU加盟後もラトビアはロシアとの間で国境問題を抱えていたが、EUの働きかけもあり、2007年にはロシアとの国境確定条約に調印した。
ソ連崩壊以降、経済の混乱によりラトビアのインフラ整備や開発の遅れが目立っていたが、近年には不動産・金融・製造業などでドイツや英国、スウェーデン、ロシアなどからの直接投資が増え、リガを中心に著しい経済成長を示した。しかし、その間に醸成されたバブル的な経済状況の中でリーマン・ショックに襲われ、2009年の経済成長率はマイナス18%にまで落ち込んだ。
経済危機を乗り越えた後のラトビア経済は安定してきた。旧市街を中心に観光業が活発化し、外資系ホテルの参入や新規航空路線の拡充とともに観光客が増加している。ただ、リガ以外では観光開発も十分ではなく、投資先がリガとその周辺に集中するなど地域間の格差が拡大しているなど、まだ課題も多い。
ラトビアのユーロ導入については、同国の民間調査会社が2013年6月に行った世論調査で、国民の53%が導入に反対の立場を示し、支持は22%、中立が21%だった。ギリシャなどの財政危機でユーロの信用が揺らぐ中、ラトビア国民の間には「ユーロが導入されれば、物価上昇や危機国への支援負担を迫られるのではないか」といった懸念の声もあった。ただ、ユーロ導入方針を堅持してきたラトビア政府が、国外からの投資増など経済効果の利点を強調したことで、最近の世論調査では賛成派が反対派をやや上回っている。
ラトビア通貨ラットのユーロへの交換レートは、1ユーロ=0.702804ラットで固定された。流通し始めたラトビアの1、2ユーロ硬貨の各国面のデザインには、1929年発行の5ラット銀貨に描かれていた「ラトビアの乙女」が用いられている。硬貨の縁にはラトビア語で“ラトビアに幸いあれ”と彫られている。また1セント、2セント、5セント硬貨にはラトビアの小国章が、10セント、20セント、50セント硬貨にはラトビアの大国章が描かれている。
2009年にユーロ危機が表面化した以降も、新たなEU加盟国やユーロ導入国は誕生しているのはなぜか。バルト三国のようにロシアから独立して、西欧寄りの路線をとろうとしてきた小国にとっては、EUやユーロ圏への加盟により「欧州の一員」としての地位を確立でき、貿易や投資の拡大を通じて自国経済の発展にもつながる、と判断しているためだ。また、内戦で2万人が死亡したクロアチアなど内戦経験国にとっては、EU加盟は「平和の保証」も意味する。
ユーロ導入後、ラトビアの金融政策は欧州中央銀行(ECB)が決定し、金融安全網への資金拠出なども求められる。その半面、ユーロ導入により自国通貨に対する上乗せ金利がなくなるほか、ユーロ圏内の取引に際して為替交換手数料が不要になるなど、ラトビア経済へのプラス効果も大きい。ユーロ導入基準(財政赤字対GDP比3%以下など)を満たしたことで、ラトビア経済への信用が高まり、ユーロ圏諸国との貿易や外資導入が進むことが期待される。
ラトビア政府が、あえて痛みを伴う人員削減や賃下げなどを含む構造改革を行い、同国経済を再生し国際競争力を回復させた点は見逃せない。こうしたラトビアの成功事例が、今後ユーロ導入をめざす他の東欧諸国には教訓となろう。むろん、ラトビア国内に懸念材料が残っているのも確かだ。ユーロ導入を機にさらなる経済発展を続けるためにも、ユーロ圏諸国と整合性の取れた税制の確保や銀行監視体制の強化などが求められている。
(※1)^ ラトビアのアンドリス・ベルジンシ大統領は1月6日、ライムドータ・ストラウユマ農相(62)を次期首相に指名した。就任すれば初の女性首相となる。
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