2013.3.12
Q & A
欧州統合の象徴ともいえるユーロ紙幣は、現在17カ国、3億3,200万の人々に使われています。現在流通している紙幣は2002年に導入されましたが、この10年の紙幣印刷技術の進歩により、より効果的に偽造を防ぐための工夫が可能になりました。今回の新紙幣導入はその最新技術を駆使した偽造防止策の強化が主な目的です。
ECBによると、2012年の上期には、25万1千枚の偽造札が見つかりました。流通している真札(同期で約146億枚)と比較すれば、0.0017パーセントという低い割合ではありますが、発見されたのは一部にすぎないという推測もあり、巧妙な偽札造りに対抗するため、偽造防止強化の努力は常に求められています。
新シリーズ紙幣に施されるさまざまな偽造防止の特徴を把握していれば、金融機関や現金を扱う仕事に従事している人はもちろん、一般消費者でも偽札を見抜くことがより簡単になるはずです。
また、新シリーズはこれまでの紙幣より丈夫で耐久性があります。
「エウロペ」シリーズ(Europa series)と命名されたユーロ紙幣の新デザインは、現在流通している第1シリーズの紙幣と同様、「時代と建築様式」をモチーフにしています。ただ、偽造防止のための新たな工夫を織り込んだデザインになっており、現行のユーロ紙幣との違いは一見してすぐにわかります。
詳しくデザインを見ていきましょう。まず、第1シリーズを踏襲し、表面には、開放性と協調という欧州の精神を表す「窓」か「門」が、裏面には欧州の人々どうし、および欧州とその他の世界を結びつけることを象徴する「橋」がモチーフに用いられています。また第1シリーズと同様に、各額面ごとに欧州の7つの時代様式を代表する架空の建物が、それぞれ異なる色調で描かれています。
€5 | 古代ギリシャ・ローマ様式(Classical) | 灰色 |
---|---|---|
€10 | ロマネスク様式(Romanesque) | 赤 |
€20 | ゴシック様式(Gothic) | 青 |
€50 | ルネッサンス様式(Renaissance) | オレンジ |
€100 | バロックおよびロココ様式(Baroque and rococo) | 緑 |
€200 | 19世紀の鉄とガラスが特徴的な建造物 | 黄褐色 |
€500* | 20世紀建築 | 紫 |
* 2018年末前後で発行を終了(エウロペ・シリーズには含まれず。ただし、法定通貨として引き続き使用可能)
次に挙げるのがこの新シリーズの顕著な特徴ですが、透かしの部分に「ヨーロッパ」の名前の由来となった、ギリシャ神話に登場するフェニキアの王女「エウロペ」の肖像が透かし模様とホログラムとして用いられています。肖像はイタリア南部で発掘され、現在ルーヴル美術館に保存されている2000年以上前の壺(つぼ)に描かれた模様からとられています。
ギリシャ神話では、エウロペの美しさに一目ぼれしたゼウスが牡牛に姿を変えて彼女を誘惑し、欧州大陸を駆け巡ってからクレタ島に連れ去りました。それゆえ、その地域が「ヨーロッパ」と呼ばれるようになったといわれています。
また、新紙幣には、2002年以降にEU加盟国が増えたことも反映されています。
一番の特徴であるエウロペの肖像の透かし模様とホログラムをはじめとして、旧シリーズ同様、新シリーズにも「触って、見て、傾けて」みることにより、本物かどうかチェックできる主なポイントがあります。以下は5ユーロ紙幣の例です。
触る (Feel) |
パリッとしてしっかりとした手触り、両端には短く浮き上がった一連の筋、また大きく印刷された額面数字やイラストなどは少し厚めに感じられるので、視覚に障害がある人でも判別できる。 |
---|---|
見る (Look) |
光に透かして見ると、表側のEUのロゴの下にエウロペの肖像、額面数字、イラストの「窓」がうっすらと見える。また中央左寄りに、紙面にすき込まれた縦のストライプが見える。 |
傾ける (Tilt) |
紙幣右側に、エウロペ、窓、ユーロマーク、額面数字がくっきりと見える。左下隅の「5」の文字上を反射光が上下に移動し、数字の色がエメラルドグリーンから深い青に変わる。 |
このほかにも、デザインの所々に拡大鏡で見ないとわからないような極小文字が印刷されている、赤外線を当てると見える部分が限定される、紫外線を当てると部分的に光る部分があるなど、さまざまな偽造防止の工夫がなされています。
「エウロペ」シリーズは5月2日に流通を開始する5ユーロ札を手始めに、10ユーロ、50ユーロというように小額紙幣から順次、何年かにわたって導入されます。 (註 その後2016年5月4日に、ECBは新500ユーロ札を発行しないことを決定)
2002年の各国通貨からユーロへの切り替えは一斉に行われましたが、今回はユーロ導入国のキャッシュサイクルの状況により、国によって切り替えの早さにも違いが出てきます。ただし、2013年の秋には、ユーロ圏全体での新5ユーロ紙幣の流通量は、旧5ユーロ紙幣を上回ると予想されています。
新旧紙幣はしばらくの間併存し、最終的に旧ユーロ紙幣が法定通貨ではなくなる期日は、十分な周知期間を置くことを前提に発表されます。旧紙幣は永久に価値を維持し、ユーロ圏各国の中央銀行でいつでも交換できることになっています。
ユーロ硬貨のデザインに変更はなく、8種類の硬貨、つまり、1、2、5、10、20、50ユーロセント、1ユーロ、2ユーロのデザインは現行のままです。
紙幣と違って、ユーロ硬貨はECBではなく、各ユーロ導入国の管轄となります。硬貨の片面には共通のデザインが描かれ、EUの加盟国間の結束を表し、硬貨の種類によってデザインが異なります。もう一方の面には、各国が選んだ独自のデザインが施されています。ただし、どの国のデザインの硬貨であっても、すべてのユーロ導入国で使用できます。
あるユーロ導入国が新しいデザインの硬貨—たとえば記念硬貨など—を発行したければ、欧州委員会に通知しなければなりません。委員会はEUの公用語23言語で発行されるEU官報の告示編(C Series: 法令以外の情報)に情報を掲載します。
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