2015.6.29
EU-JAPAN
2015年5月29日、日本と欧州連合(EU)の第23回定期首脳協議(日・EUサミット)が東京で開催された。二者間関係では、並行交渉中の「戦略的パートナーシップ協定(SPA)」と「自由貿易協定(FTA)」、とりわけFTA交渉について早期締結の重要性が確認されたほか、科学技術分野での協力強化に具体的な一歩を踏み出した。また国際問題では、世界の平和と安全に向けた協力やテロ対策、また気候変動についての議論が交わされた。
今回の日・EUサミットは、2014年末にドナルド・トゥスク欧州理事会議長とジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長による欧州連合(EU)の新たな指導体制が発足して以来初めてで、EU首脳陣にとっては、欧州以外で行われる初の二者間首脳協議であった。サミットには、フェデリカ・モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長(外務大臣相当)とセシリア・マルムストロム欧州委員会通商担当委員も出席、アジアで最も長い戦略的パートナーである日本との関係強化にしっかりと取り組む姿勢を打ち出した。トゥスク議長は、協議後の共同記者発表で「われわれと価値を共有する最も緊密な友人の一人である、日本との関係の意義を反映する協議となった」と初協議を評価した。
日本とEUは2013年4月に、今後の日・EU関係の法的基礎となる戦略的パートナーシップ協定(Strategic Partnership Agreement=SPA)と双方の経済活性化に寄与する自由貿易協定(FTA、日本では経済連携協定〈EPA〉と呼ばれている)の締結に向け並行交渉を開始している。サミットではSPA交渉の進捗を歓迎し、FTAと並行した交渉の加速化を指示、FTAについても、できれば2015年末までに合意に至るように懸案や隔たりなどを解決することを、交渉官に委ねた。
締結されれば、日本の対 EU 輸出額を 23.5パーセント、EUの対日輸出を32.7パーセント拡大させる可能性がある日・EU間のFTAである。EU側は、FTAは高度に包括的かつ野心的な内容を目指していることから、早期締結は望ましいとしながらも、「スピードは重要だがその内容と質はさらに重要だ」(共同記者発表でのユンカー委員長の発言)との立場を取っている。EUは関税および問題となっている非関税措置の撤廃、サービス・投資・公共調達市場のさらなる開放、地理的表示(GI)の完全保護について日本側の意欲が不十分であるとし、このFTAが、米国との包括的貿易投資協定(TTIP)と並ぶ、EUの最も重要な貿易政策の一つであり、野心的な内容での締結が双方に利益をもたらすと強調した(同、委員長発言)。
なお、サミットに先立ち、マルムストロム委員は、岸田文雄外務大臣、宮沢洋一経済産業大臣、林芳正農林水産大臣をはじめ、FTA関連政策分野の担当閣僚らと積極的に会談したほか、日本経済団体連合会(日本経団連)で講演し、「EUは、この協定が取りまとめる価値のあるものであるならば、正しく取りまとめなければならないと考えている。締結のタイミングだけではなく、内容についても野心的であるべき。求められているのは、双方の経済を繁栄への軌道に乗せるような、機能する協定である」とFTA交渉に対するEUの考え方をあらためて表明した。
科学、研究、イノベーションにおいて、日本とEUは共に世界をけん引する存在である。日・EUサミットでは、投資や共同研究によりこれらの相互協力関係を深めることが確認されるとともに、実質的な進展もあった。1つは、研究・イノベーションにおける新たな戦略的パートナーシップの共同ビジョンの承認であり、これにより情報通信技術(ICT)、航空、材料分野における協力の継続や、健康・医療、環境、エネルギー分野における協力拡大などを図る。もう1つは、次世代通信ネットワーク(5G)における新たな合意であり、これにより社会的需要の高い5Gアプリ開発や持続可能な5Gエコシステム実現のため、5Gの定義の共通理解の醸成、世界的標準化の推進、世界的な相互運用性確保のための技術的進歩を協力して加速する。さらに、サミットを機に日本学術振興会(JSPS)と欧州研究会議(ERC)との間で締結された日欧の研究者交流促進のための実施取り決めをはじめ、具体的な行動の重要性が確認された。
人的交流の関連では、将来の協力のためには相互理解を深めることが不可欠なため、EUのエラスムス・プラス(学生交流計画)とマリー・スクウォドフスカ・キュリー・プログラム(研究者交流計画)を通じた学生や研究者などの交流の裾野を広げることとした。また、安倍総理が本年度中に欧州から150名の大学・大学院生を招聘する「日欧MIRAIプログラム」を発表し、EU首脳に歓迎された。
トゥスク議長は共同記者発表で、2015年が第二次世界大戦終結70周年であることに触れ、「われわれは歴史の教訓を真摯に受け止める。歴史への理解、人々の和解、各国との、特にかつての対戦国との連携が平和と安定を守るために大切だ」との見解を示した。これに関連しEUは、世界の平和と安全に向けて、日本の近年の「積極的平和主義(proactive contributor to peace)」への取り組みを、双方の安保協力に貢献するとして歓迎・支持。双方はアフリカのマリ、ニジェールにおける治安改善活動に関する日・EU協力に触れ、今後はウクライナとソマリアでの協力を模索することで一致した。テロ対策では、あらゆる形態のテロを強く非難し、国境安全対策強化を含めて日・EU間協力を強化し、国際協力を進めることとした。
また、ウクライナ情勢については全ての当事者に停戦合意の完全履行を求め、同国への支援を継続すること、シリア、イラク、イエメンなどでの治安の悪化を懸念し、地域の安定化に向け主要課題の政治的・平和的解決を支持すること、などで意見の一致を見た。東シナ海・南シナ海の状況については、動きを注視し、現状を変更し緊張を高める一方的行動を懸念するとの見解で一致した。その他、これまでの日・EU宇宙政策対話やサイバー対話の開催、およびソマリア沖アデン湾での海賊対処活動のための共同訓練の実施を歓迎するなど、幅広い議論が行われた。
気候変動問題については、本年末にパリで開催される国連気候変動枠組条約第21回締結国会議(COP21)の場で、全ての締結国に適用される包括的な合意を採択すべく、双方が役割を果たすことで一致した。EUは温室効果ガス排出削減について野心的で明確な取り組みを既に表明している。ユンカー委員長は、「日本もまた、野心を持って取り組むことを望む。世界第4位の経済大国であり、世界第7位の温室効果ガス排出国である日本は、次世代にこの課題を持ち越してはならない」(共同記者発表での発言)と、日本に対し迅速な行動を強く呼びかけた。
なお、気候変動についてはドイツ南部エルマウで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)で6月8日、2050年までに世界全体の温室ガス削減量を10年比で40~70%幅の「上方」とする新たな長期目標を盛り込んだ首脳宣言を、安倍総理とEU両首脳を含む参加国首脳が採択しており、日本のさらに踏み込んだ決断が国際社会から期待されている。
今回の日・EUサミットでは、このほか、開発・防災、女性の活躍など広範な議論が行われた。
「文化の重要性を確認したトゥスク議長 ~EUフィルムデーズに参加~」サミット前日の5月28日、サミットのために初来日したトゥスク欧州理事会議長とマウゴジャータ・トゥスク議長夫人が欧州の映画を一堂に集め上映する「EUフィルムデーズ2015」(主催:駐日EU代表部ほか)の開幕レセプションに出席した。 映画関係者など130名の招待客を前に、トゥスク議長は「EUのイメージとしてよく言われるのは『貿易圏としてのパワー』、『国際舞台における特別な役割』そして『団結し続ける28加盟国』というものだが、このEUフィルムデーズという催しは、EUが文化や創造性の面でも知られる存在であることをあらためて思い起こさせてくれる。そして、文化は政治よりも重要なのだ」とあいさつ。欧州の強い結びつきの源泉ともなっている文化の重要性をあらためて強調し、参加者からは大きな拍手が上がった。 レセプションには、安倍昭恵総理大臣夫人も出席。夫人はあいさつで「(EUフィルムデーズで)多くの方に素晴らしい映画を観ていただくことで、EU諸国に対しての理解が深まり、日本とEU諸国との関係がますます密接になることを期待しています」と文化交流の重要性をあらためて述べた上で、「政治家にならなければ映画監督になりたかった」というほど映画好きで、現在の唯一のストレス解消は映画鑑賞だという安倍総理のエピソードを披露。会場は和やかな雰囲気に包まれた。 翌日の安倍総理との初首脳協議を前に、トゥスク議長は、日本とEUの映画を通した市民交流を体験し、日本をより身近に感じることができたようだった。 |
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