2014.9.24
Q & A
2014年は、欧州連合(EU)にとって大きな変化の年で、諸機関(※1)の主要ポストが交代しつつあります。その起点となったのが、5月22日~25日に行われた欧州議会選挙です。
再選出されたシュルツ欧州議会議長 © European Union 2014 – source : EP
選挙後に招集された欧州議会は、7月1日に409票(投票総数723票、有効票612票中)の絶対多数を獲得したマルティン・シュルツ氏を議長に再選出しました。
1979年に欧州議会に直接選挙が導入されて以来、5年の任期の2年半ずつを中道右派の欧州人民党(EPP)と中道左派の社会民主同盟(S&D)の二大政党グループから、1回の例外を除いて、交互に議長が選出されてきており、再任は初めてのことです。今回の選挙で第二政党グループとなったS&Dのシュルツ氏が再任されたのは、第一政党グループを維持したEPPが推薦する欧州委員長候補者人事との兼ね合いと考えられます。
5月に行われた欧州議会選挙は、リスボン条約(改正EU基本条約、2009年12月発効)の下で行われた初めてのもので、条約の規定により、欧州理事会(EU首脳会議)は、選挙結果を「考慮」し、欧州議会との協議を経て、委員長候補者を欧州議会に提案し、欧州議会が選出することになっています。
欧州議会により次期欧州委員会委員長に選出されたユンカー氏 © European Union 2014 – source : EP
実際には、へルマン・ヴァンロンプイ現欧州理事会常任議長が欧州理事会から委任を受け、各政党グループの指導者たちと協議を行った後、6月27日に欧州理事会が、第一政党グループのEPPが推薦していたジャン=クロード・ユンカー氏(前ルクセンブルク首相)を特定多数決で決定し、欧州議会に提案しました。
欧州委員会委員長選びで特定多数決が使用されたのも初めてのことでした。1993年11月に発効したEU基本条約(マーストリヒト条約)では、欧州委員長の選出は欧州理事会での共通の合意を求めており、1995年の欧州委員長の選出に際し英国が当時のベルギー首相を拒否したことがありました。このため、1999年5月発効のアムステルダム条約(改正基本条約)では特定多数決に修正されましたが、2004年からの欧州委員長について英国とフランスが各々拒否した際は、投票ではなく共通の合意を求めて第三の候補者となったジョゼ・マヌエル・バローゾ氏(ポルトガル首相)がコンセンサスで選出されました。
リスボン条約で初めて規定された常任の欧州理事会議長については、欧州理事会が、2年半の任期の議長を特定多数決で選出することになっています。もう一つの重要なポストであるEU外務・安全保障政策上級代表(外務大臣に相当)の選出については、欧州理事会が、欧州委員会委員長との合意の下に特定多数決で決定します。上級代表は、欧州委員会副委員長を兼務します。なお、EU条約第18条等に関する宣言(EU条約付属第6号宣言)によって、欧州委員会委員長、欧州理事会常任議長および上級代表の選任にあたっては、EUおよび加盟国の地理的・人口的多様性を尊重することが求められています。西欧・南欧・北欧・東欧、人口の大国・中小国間のバランスを図ることですが、実際には、イデオロギー(中道の右派・左派)や性別割合などの要素も加味されます。
7月16日~17日の欧州理事会では、ヴァンロンプイ常任議長とキャサリン・アシュトン上級代表の後任について議論されましたが、合意を得ることができず、水面下での交渉を経て、8月30日に開催された特別欧州理事会では、欧州理事会常任議長にポーランド首相(当時)のドナルド・トゥスク氏(東欧、 大国、中 道右派、男性)、外務・安全保障政策上級代表にイタリア外相のフェデリカ・モ ゲリーニ氏(南欧、大国、中道左派、女性)を選出しました。既に決定しているユンカー次期欧州委員会委員長がルクセンブルク(西欧、小国)出身で、中道右派、男性、また、シュルツ欧州議会議長がドイツ(西欧、大国)出身で、中道左派、男性である点に注目すれば、バランスに配慮した人選といえるでしょう。
2014年のEU首脳人事をめぐる動き
5月22日~25日 | 欧州議会選挙 |
---|---|
6月27日 | 欧州理事会、欧州委員会委員長候補選出 |
7月1日 | 欧州議会議長選出 |
7月15日 | 欧州議会、欧州委員会委員長選出 |
8月30日 | 欧州理事会、欧州理事会常任議長とEU外務・安全保障政策上級代表(EU外務大臣)を選出 |
9月5日 | 次期欧州委員会委員長、委員候補者名簿をEU理事会に提出 |
9月10日 | 次期欧州委員会委員長、次期委員会の編成を発表 |
9月29日~ | 欧州議会、各委員候補を聴聞、審査 |
10月 | 欧州議会、次期欧州委員会を一体として承認 |
10月 | 欧州理事会、特定多数決によって次期欧州委員会を任命 |
11月1日(予定) | 新欧州委員会始動 |
残った主要人事は、次期欧州委員会の編成です。
ユンカー氏とモゲリーニ氏の出身国であるルクセンブルクとイタリアを除いた26加盟国から1人ずつ推薦された候補者を基に、ユンカー次期欧州委員長は次期委員候補者リストを作成、同リストはEU理事会の同意・採択の後、欧州議会に提出されました(※2) 。
欧州議会では、欧州委員会委員長、副委員長でもある外務・安全保障政策上級代表、その他の委員を含めた28人の委員会を一体として(as a body)承認投票に付します。欧州議会は、個々の委員候補者を審査し、候補者が不適切であると判断した場合には、全体の承認権限を武器に、差し替えを求めることもできます。事実、第一次バローゾ委員会の組閣時に2名、第二次バローゾ委員会でも1名を差し替えさせた経緯があります。
9月10日にユンカー次期欧州委員会委員長が発表した自身の考える次期欧州委員会の布陣と構成の特色は、これまでのように各委員が個別の政策領域を担当するのではなく、縦割りの弊害をなくすため、外務・安全保障政策上級代表を含めた7名の副委員長がそれぞれ複数の委員で構成するプロジェクトチームを指揮・調整するという点です。それとともに、欧州委員会のすべての法案が真に必要かどうか、加盟国が実施した方が適切ではないかを審査する第一副委員長職が新設されました。
シュルツ欧州議会議長から「委員会が紳士クラブにならないように」と忠告されていた女性の起用については、当初噂された4名、5名から、9月10日の最終リストでは9名となり、第二次バローゾ委員会と同数を確保しています。リスト作成の過程で厳しい交渉が行われ、候補者の差し替えが行われた結果です。副委員長では女性率は42.85%(現委員会では37.5%)、年齢48.88歳(同57.14歳)、委員全員の平均年齢は53.04歳(同54.63歳)と若くなっています。前歴では、5名が首相を、4名が副首相を務め、19名が閣僚経験者(8名は外務・欧州問題担当、11名は経済・金融問題担当)です。7名は欧州委員の再任、8名は欧州議会議員(現、元とも)、9名は今回の欧州議会議員選挙に立候補しました。
今後、欧州議会が聴聞会を行い、各委員候補者が適任かどうかを審査します。その上で欧州議会が欧州委員会全体を承認した後、欧州理事会が特定多数決によって欧州委員会を正式に任命し、ユンカー委員会が11月1日に始動する予定となっています。EU外務・安全保障政策上級代表(兼欧州委員会副委員長)を含めてユンカー新委員会の任期は5年で、2019年10月31日までとなります。なお、トゥスク新欧州理事会常任議長の任期は、12月1日から2017年5月31日までの2年半です(再任1回のみ可)。
執筆=田中俊郎(慶應義塾大学名誉教授、ジャン・モネ・チェア)
次期欧州委員会委員リストについて
http://www.euinjapan.jp/media/news/news2014/20140905/185958/
次期欧州委員会の構成について
http://www.euinjapan.jp/media/news/news2014/20140910/184233/
欧州議会での聴聞手続きについて(英語)
http://www.europarl.europa.eu/news/en/news-room/content/20140918IPR65211/html/Public-hearings-of-commissioners-candidate-format-and-schedule
(※1) ^ EUの主な機関
欧州理事会はEU加盟国の首相・大統領からなるEUの最高政治的意思決定機関。
欧州議会(EU市民の代表)とEU理事会(EU加盟国の代表)はEUの共同意思決定機関である。
欧州委員会は、狭義にはEUの内閣(閣僚=委員)、広義には行政執行機関全体を指す(本稿では狭義の委員会について述べている)。
(※2) ^ 1国1委員体制
リスボン条約では、2014年11月1日から、欧州委員会の定員は加盟国数の3分の2に削減し、委員の輪番制を導入することになっていたが、アイルランドの国民投票で同条約の批准が拒否された後、1国1委員体制が維持されている(欧州理事会が全会一致で決定すれば定員を変更することが可能という条約の規定による)。
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