2017.5.30

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EUが目指す循環型経済 ~その背景と取り組み~

EUが目指す循環型経済 ~その背景と取り組み~

資源を有効活用し、さらに再生産して持続可能な形で循環させて経済成長を目指す「循環型経済」(Circular Economy、「循環経済」とも呼ばれる)。欧州連合(EU)は、2015年12月に「循環型経済パッケージ」を発表し、大規模な取り組みを開始した。EUの成長戦略の核となる新たな経済モデル導入の背景、目的、現状、日本との協力関係などを紹介する。

EUの循環型経済政策の背景

現在、経済活動の中心となっている「集約的」かつ「持続不可能な資源利用」は、見直しを迫られており、可能な限り製品や材料の価値(value)を経済活動全般の中で維持することで、廃棄物の量を最小限に抑えることが求められている。その実現には、原材料の選択からプロダクトデザインや商品の製造・流通、そして二次原材料(secondary raw materials、再生資源とも言う)の利用推進までを含めた「製品ライフサイクル」の全過程における取り組みが欠かせない。

「線形型」経済モデルから「循環型」経済モデル(以下、循環型経済)への移行は、資源の利用効率を高め、持続可能な低炭素社会を確実に実現させるための必須条件だ。経済活動モデルを移行させることは、競争力のある経済を担保する。というのも、有限な資源を効率的に利用、再生産し、持続可能な形で循環させながら利用していくという、「循環の原則」に基づいて取り組む企業は、経済的に最も急速に成長するからだ。技術と消費者行動が急速に変化する中で、そのような革新的なビジネスモデルこそが、生き残っていけるし、魅力的なものとなるのだ。

線形型経済と循環型経済の比較

EU出版局発行『LIFE and the Circular Economy』より転載の上、編集

循環型経済への移行には、社会のあらゆる担い手の積極的な参加が求められる。その中でも、企業と消費者は循環プロセスの駆動役として、また、政府や地方自治体の当局者は循環型経済への移行の実行役として、それぞれが役割を果たす必要がある。循環型経済の発展は、規制枠組みに依存する。なぜなら、その発展途中において、規制枠組みが事業者や社会全般に対して明確なメッセージを送ることになるからだ。

ループを閉じて循環させる――循環型経済に向けたEUの行動計画

「循環型経済パッケージ」を発表するフランス・ティーマーマンス欧州委員会第一副委員長(左)とユルキ・カタイネン同副委員長(2015年12月2日、ブリュッセル)© European Union, 2017

EUの諸機関は、循環型経済移行に向けた包括的な法的枠組みの構築を進めている。2015年12月に欧州委員会が採択した野心的な「循環型経済パッケージ(Circular Economy Package)」は、行動計画といくつかの法案からなっている。行動計画は、2020年までに実施する具体的かつ野心的なもので、その目的は、法的障害を取り除くとともに、製造から消費、そして廃棄物管理まで、材料サイクル全体を網羅する入手可能な情報の品質を高めることに加え、二次原材料の市場を発展させることにある。

欧州委員会は2015年から2016年の2年間に、広範な部門を対象とする数々の提案を行った。例えば、商品のオンライン販売における法的保証の強化を目指した規則や、肥料に関するものであれば、ルールを調和し商業化を容易にすることによってEU市場の効率性を向上し、資源の無駄使いや原材料への依存度を低減することを目指した規則、などだ。これら法案の中には、「エコデザイン」に関する新たな取り組みという重要な要素も含まれている。

資源の無駄遣いや原材料依存の低減を目指すEUは、エコデザインという考え方を取り入れ、積極的に進めている © European Union, 2017

エコデザインとは、製品の全ライフサイクルにおいてエネルギー効率や材料の効率的な利用など、環境への配慮に焦点を当てて、製品を設計することを指す。製品が使えなくなったときに、修理、改良、再利用、再資源化が容易にできるようにするのが狙いだ。EUでは、例えば電子ディスプレーについては、より安全かつ簡単な再利用、再資源化を必須要件として課しており、このような取り組みによって、全体的な再資源化率は高くなっている。

欧州委員会からの提案を基にEUが検討を進めているのが「食品廃棄物」の分野だ。中でもフードチェーン(食品の一次生産から最終消費までの流れ)に関わる複数の担い手の責任や協調を含む、効果的な行動の策定が大きな課題となっている。

これまで紹介してきた施策、また紹介しきれなかったいずれの施策に関しても、EUの単一市場がより公正な競争が行われる市場としてさらに統合されることを目指している。そのためには投資を呼び込み、イノベーションを促すことで、より多くの関係者の参入に拍車がかかることが期待されている。EU域内のいくつかの都市、地域、国々が循環型経済戦略を適用し始めているという事実は、これらのイニシアチブの成功の兆しの一つと考えられる。再利用や再資源化のさらなる推進が、製品ライフサイクルの「ループを閉じて循環させる」ことに寄与する、と期待されるとともに、環境面でも経済面でも恩恵をもたらしてくれる、と考えられている。

循環型経済移行の鍵を握る廃棄物管理改善とそのための関連法案

循環型経済パッケージに盛り込まれている廃棄物関連法案群は、廃棄物埋め立ての削減や、都市ごみや包装廃棄物のより良い管理、再利用や再資源化の向上に向けた長期目標を設定している。具体的な内容は次の通り。

  • 都市ごみの再資源化率を2030年までに65%とするEU共通の目標値
  • 包装廃棄物の再資源化率を2030年までに75%とするEU共通の目標値
  • 都市ごみのうち埋め立て処分される割合を2030年までに10%以下に削減する義務的目標値
  • 分別回収された廃棄物の埋め立て処分の禁止
  • 埋め立て処分を抑制する経済的施策の促進
  • EU全体における再資源化率を算出するための定義を簡素化し、計算方法を調和する
  • 再利用を促進し、産業的共生を刺激するための具体策。ある産業で生じた副産物を別の産業の原材料に転換するなど
  • 市場に環境配慮型製品を送り出し、再資源化や資源回収の流れをサポートする製造者に対して経済的インセンティブを与える(例えば包装、電池、電気・電子機器、自動車などの分野)

全体を通じて、廃棄物関連法案は廃棄物の削減に対する明確な目標を定めている。またベストプラクティスを普及させることによって、廃棄物管理においてEU全体で均質なアプローチを促す。経済的なインセンティブの組み合わせや「拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility=EPR)」制度の改正によって、さらなる投資に拍車をかけることになろう。

急ピッチで進むプラスチックごみへの取り組み

EUは、さらに今年はプラスチック部門に注力する。廃棄量の増加や、埋め立て処理の割合の高さのため、プラスチック生産が環境へ与える悪影響は増大している。再資源化についても、化学的あるいは機械的な再利用の方法は未だほとんど取られておらず、実際にはプラスチックごみの大半は焼却され、エネルギー生産に利用されているのが現状だ。プラスチック部門における循環型経済への転換を目指し、プラスチック製品のデザインの改良や、廃棄に関する認知向上、よりよい取り組みを行っている企業に対するインセンティブの提供、そして再資源化されたプラスチックの使用を奨励する、などの取り組みを進めている。

持続可能な状況を脅かしかねない事態も進行しているプラスチックごみ。環境、経済面で多くの可能性を持つ海洋への廃棄も深刻だ 写真は© European Union, 1995-2017

欧州委員会は廃棄物対策に関して次の2つの取り組みを行っている。

  • 循環型経済におけるプラスチックに関する戦略の策定(2017年内)
  • 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施を視野に入れた、海洋ごみ削減のための具体的な行動(2015年から継続中)

欧州委員会は2017年1月、循環型経済におけるプラスチックに関する戦略策定に向け、概要を示すロードマップを発表した(目標時期は2017年第4四半期)。ロードマップでは包括的に取り組みを進める内容として、相互に関連する下記の3項目を課題として挙げている。

計画策定に向けた3つの課題

イノベーションの推進により、再資源化されたプラスチックを含めたフィードストック(供給材料)の効率性を改善し、耐久性を向上させ、廃棄プラスチックを効率的に回収し、そしてプラスチック使用量全体を削減することなどによって、持続可能なプラスチックの製造・消費を実現することを意図している。またこれらの取り組みによって、プラスチック廃棄物から作られる二次原材料市場が生まれる。その結果として、プラスチック製品のライフサイクルから生じる炭素排出量の減少や環境負荷の低減につながることも期待される。

資源の効率利用で足並みを揃える日本とEU

日本とEUはさまざまなレベルでの一連の対話を通じて、資源の効率的な利用に向けた政策的取り組みの協議や情報の共有を図るための仕組みを立ち上げている。EUプラスチック戦略や日本のトップランナー制度といった主要な政策展開における情報のやりとりはもちろん、廃棄物処理や再利用、エネルギー効率の目標設定などに関連する法的な規制措置についても情報交換を行っている。

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