2013.3.21
FEATURE
欧州連合(EU)の市民権に関する最新の世論調査(ユーロバロメーター、2013年2月発表)によると、81%の回答者が自国の国民であることに加え、EU市民でもあるという認識をもっている。その一方で、EU市民権についてよく理解していると感じているのは、36%にすぎない。
EU市民という概念を市民権として導入した1993年のマーストリヒト条約(欧州連合条約、1993年)の発効から20年――。EUは2013年を「欧州市民年」と定め、EU市民権がどのような機会や便益をもたらすのかを説明し、市民が権利を行使しそびれたり、行使を阻まれたりすることのないよう行動することとした。EU、加盟国、地方それぞれのレベルの政策立案者との討議の場を設け、市民が自らに関係する政策について積極的に議論することも呼びかけている。2014年には5年に一度の欧州議会選挙が控えており、低迷する欧州経済の中で市民が生活を向上させるためにも、自分たちの権利について知り、政治に参加することはきわめて重要だ。
EUの2つの基本条約のうちのひとつ、「欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the European Union)」第20条では、「加盟国の国籍を有するあらゆる人を、EUの市民とする。EUの市民権は各国の市民権に対し追加的に付与されるものであり、各国の市民権に取って代わるものではない」と規定している。ここで定められている権利には次のようなものがある。
また、2000年の欧州連合基本権憲章(Charter of Fundamental Rights of the European Union)には、人間の尊厳、自由、民主主義、平等、司法、人権の尊重といった価値がうたわれている。こうした価値を基にした社会的・経済的権利には、次のようなものがある。
このほか、域内のどの国ででも教育を受けられる権利や、学位の相互認証、オンラインショッピングでの消費者保護、域内と域外の間をEU加盟国籍の飛行機や列車で移動する乗客の権利、携帯電話の域内ローミング料金の上限、安定的なエネルギー元を選択する権利についても定められている。
EU市民の多くにとって、EUに関する政策は遠いブリュッセルで決定されている、との意識がある。こうしたEU機関と人々との溝の広がりは、2000年代になって顕著となった。拡大し続けるEUでは、EU機構制度を改革し権限を整備するため既存の基本条約に取って替わる憲法条約を起草、2004年に調印されたが、2005年にフランスとオランダの国民投票で批准は否決され、発効には至らなかった。その後、基本条約を改正するリスボン条約に合意、こちらは2007年に調印、2009年に発効した。ここで特記されるべきは、市民発議権が盛り込まれたことである。EUが権限を持つ政策分野について、加盟国最低7カ国から計100万人以上の署名を集めれば、欧州委員会に対して立法を提案することができる欧州市民イニシアチブ(European Citizens’ Initiative=ECI)という制度が導入された。
この制度は、各加盟国国内法の整備を経て、2012年4月に本格的に始動したばかり。現在、市民の連帯のための交流プログラムの拡充や文化間交流スキルの向上を求める「友愛2020:移動、進歩、欧州」という第1号のイニシアチブについて、署名活動が行われている。(EU MAG 2012年9月号Question Corner参照)
1月10日、欧州市民年は、2013年前半の欧州理事会議長国を務めるアイルランドのダブリン市庁舎で正式に幕を開けた。式典には、約200人の市民と、エンダ・ケニー首相やエイモン・ギルモア副首相、ジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長が出席、その後行われた市民との対話では、欧州経済、市民の権利、EUの将来という3つのテーマで議論が広げられ、司法・基本的権利・市民権を担当するビビアン・レディング欧州委員会副委員長とアイルランドのルシンダ・クレイトン欧州問題担当相が市民からの質問に答えた。レポート
欧州委員会では、準備年の2012年に75万ユーロ、そして本年2013年に100万ユーロの予算を充当、コミュニケーション総局が中心となってさまざまなプログラムを実施する。このほか、欧州議会や市民団体、加盟国団体、欧州経済社会評議会の関連団体で構成したアライアンスがパートナーとなって、催しが企画されている。
2月19日にブリュッセルの欧州議会で行ったスピーチで、レディング副委員長は、これからEUが取るべきステップは、「市民の生活に直結した具体的な行動だ」と述べた。2010年、市民権を強化するため2カ月にわたって行った市民との話し合いの結果を基にEU市民権報告書(EU Citizenship Report)が発表され、それ以降、医療、消費者保護、領事保護、自由な移動と基本的権利、市民への周知といった25の課題に取り組んできたが、未だ多くの市民にとっては自分たちの権利が、過剰な「お役所仕事(官僚主義)」により行使できていない点を指摘。こうした問題に取り組むと同時に、「EUの民主主義に市民が参加しやすい環境を整えていきたい」と述べた。これまでの成果とさらなる課題を踏まえ、欧州市民年の本年、次の市民権報告書が5月9日のヨーロッパ・デーまでに発表され、そこでEUの今後のイニシアチブが提示される予定だ。
EU全体のプログラムとして、この欧州市民年に開催される主なものにDebate on the future of Europeがある。欧州委員会委員やEU、加盟国、地方レベルの議員が欧州各地を訪問し、市民権をより発揮できる場にするにはどうしたらよいかについて市民と話し合う場を持つ。このほか、欧州市民年プログラム以外にも、市民権を推進するためのプログラムが継続して進められている。
単一通貨をはじめ、運転免許証、健康保険証、学位の認定など、欧州では共通の制度が次々と整い、市民は一国民であると同時に欧州市民である自由と権利を実感できるようになってきた。欧州市民年は、自分たちの言葉や行動で、EUの目指す民主主義を自分たちの暮らしの中に実現するまたとない機会となる。
アイルランド市民の関心事 (EU市民年開幕イベントレポートから抜粋) |
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「EU賛成派だが、私はEUの現在の機能について多くの面で批判的になっている。経済共同体としての欧州にばかり力点が置かれているが、その経済により支えられている社会についても焦点をもっと当てるべきだ」 キルデアのパトリックさん
「アイルランドの市民団体から見ると、EUや関連機関には距離を感じる。欧州委員と面と向かって議論ができる『市民の対話』のイベントは、こうしたギャップを埋める素晴らしい機会だ」 ウィックロウのハンナさん 「障害を持つ子どもの母親として、私は現在、解決策のない多くの課題を抱えています。EUでは、私のような人々への支援が十分ないように思います」 ロングフォードのメアリーさん |
『EUを知るための12章』 第9章 欧州市民とは
欧州委員会司法総局
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