2015.6.22
FEATURE
4月のこのコーナーで紹介したベルギーのモンスに続き、2015年のもう一つの欧州文化首都(European Capital of Culture)、チェコのプルゼニュ(※1)を紹介する。プルゼニュは「ピルゼン」とも呼ばれ、今日世界中で広く飲まれているピルスナー・ビール(※2)の発祥地として、日本でもよく知られている。欧州文化首都「プルゼニュ2015」では、開かれた文化都市をアピールしようと「プルゼニュ、オープンアップ!」をスローガンに、演劇、絵画、伝統的な祭り、映像、音楽、講演など、プルゼニュの歴史や文化の魅力を発信する600以上の催しが企画されている。
チェコ共和国は冷戦後の1993年、連邦を形成していたスロヴァキアと平和裏に分離し、独立した古くて新しい国だ。西はドイツ、北はポーランド、東はスロヴァキア、南はオーストリアの4カ国に囲まれており、日本の5分の1ぐらいの国土に1,000万人余りが住む。国の中部から西部は「ボヘミア地方」と呼ばれ、クリスタルガラスの生産や温泉地などが有名だ。欧州連合(EU)には、他の中・東欧国9カ国と共に2004年に加盟。日本とのチェコの関係は、旧チェコスロヴァキア時代から良好で、2007年には日本との国交回復50周年を迎えた。姉妹都市締結にも熱心で、1990年にプルゼニュ市と群馬県高崎市が、1992年には温泉地で有名なカルロヴィ・ヴァリ市と群馬県草津町が、そして、1996年にはプラハ市と京都市が姉妹都市となっている。
プルゼニュ市は、首都プラハから電車で1時間半ほど。首都とドイツ国境の間に位置し、歴史的に東西欧州を結ぶ通商の要衝であったことから、1296年に、ボヘミア王兼ポーランド王であったヴァーツラフ二世が市に制定。西ボヘミア地方の中心地として繁栄し、現在は人口約16万8,000人を有するチェコ第4の都市だ。街の中心部には、国内で最も高い102メートルの塔を持つゴシック様式の聖パルトロメオ教会、ルネサンス様式の公会堂、バロック様式の聖マリア碑、世界で3番目に大きいシナゴーグ(ユダヤ教会)など、さまざまな建築様式の歴史的建造物が現存する。また、ピルスナー・ビールの元祖となった1842年開業の「ピルスナー・ウルクェル(Pilsner Urquell)」醸造所の見学も可能で、観光客に人気のスポットとなっている。
チェコ国内で最大の売り上げ台数を誇る「シュコダ(Škoda)」という自動車メーカーが誕生したのもプルゼニュで1868年のことだ。シュコダは、欧州では知名度があり、現在はフォルクスワーゲンの傘下に入っているが、プルゼニュが工業都市でもあることを象徴している。
これらに加え、ビール醸造博物館や西ボヘミア美術館、人形劇場、プルゼニュ・フィルハーモニー管弦楽団なども有名で、これらの歴史ある文化施設・活動が欧州文化首都に選ばれる決め手となった。2014年、プルゼニュは歴史・文化の宝庫であることを証明するかのように、旅行ガイドブックの「ロンリープラネット」によって、ヨーロッパの10大人気都市の一つに選ばれている。
文化首都に選ばれると、芸術愛好家や観光客はもちろん、欧州中の文化事業者やメディアから注目を受け、市の知名度や付加価値が高まる。しかし、プルゼニュ2015は、芸術愛好家などごく一部の限られた人を対象とするのではなく、老若男女、国籍を問わず、国内外のマイノリティを含む全ての人に開かれたものとし、文化首都終了後もあらゆる人々がその恩恵を享受できることを目指している。
また、むやみに斬新なものを創り上げていくのではなく、古いもの、歴史あるものの上に、新たな創造を積み重ねること、そして、世代や国籍、文化の違いを超えた交流をはじめ、ビジネスや学術、教育、技術など、さまざまな分野を結び付けることを願っている。例えば、旧兵舎を再利用した新たなスヴェトヴァル文化センター・は、マルチ機能を持つ複合文化施設として再生させるにあたり、広く住民の意見を取り入れた。
また、プルゼニュでは、多くのボランティアが関わっており、彼らが観光客に情報提供したり、展示会を案内することで、市民レベルの交流を広げている。2015年の欧州文化首都のプルゼニュとモンスの小学生が共同イベントとして、一緒に演劇を企画し、両都市で一緒に上演するなど、教育や学術分野でも新しい交流が生まれている。
実行委員会は、「クリエイティブな取り組みは市の様相をがらりと変えるし、市民は催しに参加することで、市そのものに影響を与えることができる」と、欧州文化首都が市民生活を豊かにするきっかけとなることに期待する。文化施設の改修・新築事業をはじめ、観光客の増加によって新たな雇用が生まれるなど、長期的な経済的・社会的発展が見込めるのも、欧州文化首都の大きな利点といえる。観光客数は、5月末の時点で、すでに例年同時期の2割増しだという。
1年を通して実施される、600ものプログラムの会場となるのは、展示ホールや美術館だけではない。広場や通りなど屋外にも造形インスタレーションが登場し、街全体がアートに包まれる。
毎年恒例の街灯イルミネーションによるイベント「ヴィヴィッドストリート」(7~8月)や国際演劇祭(9月)、プルゼニュ市祭り(10月)は既に人気が高いが、それ以外で、実行委員会お勧めのプログラムを5つご紹介しよう。国外から参加のイベントもある。
リンダウエルはプルゼニュで生まれ、後にニュージーランド美術界を代表する巨匠となった。少数民族であるマオリ族の人々の肖像画を丁寧に描き、世界に紹介した実績が高く評価されている。今回は多くの作品が、チェコで初公開となる。(5月6日~9月20日)
詳細はこちら (英語)
サーカスやアクロバットは子どもだけでなく、大人にも人気が高い。今回のショーは、チェコ初公開ばかりで、実行委員会は「これまでなかったものを紹介するのが私たちの役割」と胸を張る。
修道院や教会など、市内外にあるバロック建築の名所で、バロック時代を再現するイベント。一週間ごとに順次9つの場所で開催され、当時の音楽や演劇、花火など多彩なプログラムを開催。特に「バロックの夕べ」では、週替わりでコンサートやオペラなどが企画されており、これらを通して、当時を体験することができる。(6月29日~8月30日)
詳細はこちら (英語)
池田亮司は、岐阜出身。今日、世界をリードする電子音楽作曲家であり、映像アーティストである。音響と映像を組み合わせた独特の表現が斬新で、パリや東京など世界各国で活躍する。チェコでは初公開で、期待が高まる。後述する「ジャパンフェスト2015」の一環である。(7月2日~8月11日)
詳細はこちら (チェコ語のみ)
カロス・デ・フォックは、スペインの屋外演劇グループ。「プルゼニュが夢を見る」と題した出し物で、巨大なマリオネット8体が、ブルゼニュの街中に登場する、迫力満点のイベントだ。(8月28日~30日)
詳細はこちら (英語)
プルゼニュには、パナソニックやダイキンなどいくつもの日系企業があり、また、25年にわたる高崎市との姉妹都市関係があるなど、日本に友好的な人々が多い。10年以上前から、市と現地の日系企業の協賛により、1週間にわたって日本映画を上映する映画祭が、毎年開かれている。今年の映画祭は、欧州文化首都のプログラムの一つ、「ジャパンフェスト2015」の一環として3月に開かれ、映画『おくりびと』が滝田洋二郎監督を迎えて上映されるなど、大きな盛り上がりを見せた。
その「ジャパンフェスト2015」を手がけているのが、1993年のアントワープ以来、毎年、欧州文化首都における日本と欧州の文化交流事業を行っている、EU・ジャパンフェスト日本委員会(実行委員長・大宮英明三菱重工業会長)だ。本年もプルゼニュとモンス双方にイベント参加している。プルゼニュでの「ジャパンフェスト2015」は、国際盆栽展示会、狂言、落語、書道、将棋にはじまり、音楽やダンスのクラシックからコンテンポラリーまで、幅広く紹介している。すでに京都市交響楽団のコンサートや合気道の演武会が開かれるなど、イベントは、好評を博している。また10月15日~12月15日まで、東日本大震災復興支援プロジェクト「つくることが生きること」が開かれ、震災の苦境から生まれた芸術活動を紹介する。
EU・ジャパンフェスト日本委員会のサイト(モンスとプルゼニュの両方のプログラムが日本語で記載されている)
プルゼニュ2015実行委員長から、日本のみなさんへのメッセージ欧州文化首都となり、数々の文化プロジェクトを実現することができました。「ジャパンフェスト2015」のように、ヨーロッパの枠を越えた催しがあるのは、とてもうれしいことです。グローバルな結びつきは、経済だけでなく文化においても可能であることが証明されました。「プルゼニュ2015」における日本関連のプログラムの数と規模は、隣接する大国ドイツについで2番目に多く、日本はわれわれにとって、とても重要なパートナー国といえます。 特に「ジャパンフェスト2015」は、音楽や演劇、映像分野で最高の作品が鑑賞できるだけでなく、経済界の方々とのつながりもできました。アジア文化の大ファンとして、「ジャパンフェスト2015」をとても楽しみにしています! プルゼニュは歴史あふれる素晴らしい都市。これを機会に、多くの日本の皆さまのお越しをお待ちしています。 |
プルゼニュ2015の公式サイト www.plzen2015.cz/en(英語)
※1 ^ 現地チェコ語ではPlzeň、ドイツ語ではPilsenと表記され、日本では、ピルゼン、ピルセン、プルゼニなどとも表記されることがある。本稿では、在日チェコ大使館の表記に従い、プルゼニュとした。
※2^ 現在、世界中で飲まれるビールの大半は、菌の作用などが解明された19世紀以降に作られた「下面発酵(ラガービール)」であり、その発祥は、ドイツのバイエルン地方とされる。そのうち、淡い黄金色で白くきめの細かい泡の立つものは、ピルスナー・ビールと呼ばれ、その発祥は、今日のプルゼニュ市にあった醸造所とされている。
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