サハロフ賞とはどのような賞ですか?

© European Union, 2013, EP

 

Q1. サハロフ賞とは、どのような賞ですか?

2013年の授賞式を告知するサハロフ氏の顔をデザインしたポスター。サハロフ賞は創設25周年を迎えた © European Union 2013 – EP

正式には「思想の自由のためのサハロフ賞」という名称で、人権問題や思想の自由を守るために献身的な活動をしてきた欧州連合(EU)域外の個人や団体を讃える賞として、1988年、欧州議会(※1)によって創設されました。名称は、人権活動家として1975年にノーベル平和賞を受賞したロシアの物理学者アンドレイ・サハロフ氏に由来します。サハロフ氏はソビエト連邦の原水爆開発に従事した後、人権擁護活動に身を投じ、幾多の弾圧に晒されながらもモスクワ人権委員会の創設やペレストロイカの進展に貢献した人物です。

EUでは人権を重要な基本的価値のひとつと位置づけており、欧州議会では人権擁護のための法整備や議員たちによる啓蒙活動を積極的に推進しています。サハロフ氏同様に、人権を守るという強い信念を持ち、困難に立ち向かい、闘い続けている人々は世界中のさまざまな地域にいます。欧州議会ではサハロフ賞の授与を通じ、彼らの活動をより多くの人々に伝えることによって、人権問題の解決につなげていきたいと考えています。

受賞候補者は、さまざまな政治団体や個人の活動家の中から、欧州議会の政党グループまたは40人以上の欧州議会議員が選んで推薦します。集まった候補者群の中から議会の外交委員会と開発委員会が3名に絞り込み、最終的には議会議長と政党グループ代表者の会議によって受賞者が決まります。受賞者には副賞として5万ユーロが贈呈されます。

Q2. 授賞式はいつどこで行われるのですか?

授賞式は毎年12月10日前後、フランスのストラスブールで開催される欧州議会の本会議にて行われます。この日は1948年に国連総会で「世界人権宣言」が採択された日で、「世界人権デー」に制定されています。

世界人権宣言はすべての人間が生まれながらに持っている基本的人権、すなわち「自由権(身体の自由、拷問・奴隷の禁止、思想・表現の自由、参政権など)」と「社会権(教育を受ける権利、労働者が団結する権利、人間らしい生活をする権利など)」を初めて公式に認めた宣言です。EUに先立って発足した欧州評議会(Council of Europe)が欧州人権条約を1953年に発効させました。同条約は世界人権宣言に基づいて自由権を規定した世界最初の条約で、条約に定められた条項の侵害に対する訴訟を管轄する欧州人権裁判所も、ストラスブールに設置されています。EUは欧州評議会の重要なパートナーであり、欧州人権条約を推進しています。

Q3. これまでの主な受賞者を教えてください。

23年前に授与されたサハロフ賞を受け取るアウンサンスーチー氏(左)と、シュルツ欧州議会議長(2013年10月22日、ストラスブール) © European Union 2013 – EP

サハロフ賞が制定された1988年の受賞者は、南アフリカの人種隔離政策(アパルトヘイト)撤廃に向けて尽力した南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ元大統領と、ロシア(当時ソビエト連邦)の人権活動家アナトリー・マルチェンコ氏(受賞時には故人)です。また2003年にはアナン事務総長を代表とする国際連合が受賞するなど、団体にも授与されています。

2013年の受賞者はマララ・ユスフザイさんで、同年11月20日に授賞式が行われました。またその前月には、1990年に受賞しながら、自宅軟禁下にあったために授賞式に参加できなかったアウンサンスーチー氏の、23年ぶりとなる授賞式も執り行われました。

他の受賞者の一覧は欧州議会のこちらのページでご覧いただくことができます。

Q4. 2013年受賞者であるマララさんの受賞理由を教えてください。

マララさんは2008年に「私が教育を受ける権利をなぜタリバンに奪われなければならないのか?」という演題で公式の場で初めてスピーチをしました。以来、ブログなどを通じてパキスタンでの女子教育の権利を訴え、すべての子どもが公平に教育を受ける権利を守るために勇敢に戦ってきました。その力強い活動がサハロフ賞にふさわしいと認められました。

16歳の学生である彼女を推薦した欧州議会議員は「マララ・ユスフザイさんは今や女性教育の権利や自由を守る人権活動家として、グローバルに認知される存在となっている」と語っています。

また、マララさんの受賞を発表した欧州議会のマルティン・シュルツ議長は「世界中で2億5,000万人の女子たちが、いまだ自由に学校に行くことができないでいることを忘れてはなりません。子どもたちが教育を受ける権利を守る責務があることを、マララ・ユスフザイさんは我々に今一度思い起こさせてくれました。子どもの教育こそが未来を作っていくのです」と述べています。

Q5. 人権問題についてサハロフ賞以外のEUの取り組みにはどのようなものがありますか?

初代EU人権問題特別代表に任命されたランブリニディス元欧州議会副議長(2012年7月25日、ブリュッセル) © European Union 2014

マーストリヒト条約(EUの創設を規定した基本条約、1993年発効)の前文に、「自由、民主主義、人権と基本権の尊重、法の支配の原則に対する忠誠を確認する」と記述がある通り、EUには設立時から人権の尊重が基本理念として組み込まれています。2012年には、人権および民主主義に関する戦略的枠組みと行動計画を設定し、その枠組みと計画を実施するために、EU理事会が元ギリシャ外相・元欧州議会副議長のスタブロス・ランブリニディス氏を人権問題特別代表に任命しました。またサハロフ賞を運営している欧州議会の人権問題分科会(DROI)では、世界の人権問題や民主化に関して、年間報告書を発行しています。

一方、EUは死刑制度の全面的な廃止を訴え続け、毎年10月10日を死刑廃止デーに制定しています。EU加盟国はすべて死刑を廃止しており、死刑制度の廃止はEU加盟の前提条件となっています。死刑制度廃止のためのさまざまな活動を世界中で展開しており、日本でも2013年10月にシンポジウムを開催しました。EUでは「世界中の人々が人権と法の支配に基づいた自由で民主的な社会の中で自由で尊厳のある、安全な生活を送ること」を理想に掲げ、さまざまな取り組みを継続していきます。

(※1)^ 欧州議会
EU加盟国28カ国の各国で選ばれた議員から構成され、EUの政策運営を監視し、意思決定を行う役割を持つ。ベルギーのブリュッセルとフランスのストラスブールの2カ所に議場があり、ほぼ毎月1週間、法案の審議や政策などを討議するための本会議がどちらかで開かれる。