2014.6.30
EU-JAPAN
2014年5月7日、日本と欧州連合(EU)の第22回定期首脳協議(日・EUサミット)がブリュッセルで開催された。同協議では、並行交渉中の「戦略的パートナーシップ協定(SPA)」と「自由貿易協定(FTA)(※1)」の締結への強い姿勢が再確認され、科学技術や安全保障分野での具体的な行動や協力についても合意した。また、日本とEUが力を合わせて世界の発展や安全保障に貢献することが重要とされ、それは共同プレス声明のタイトル「世界の平和と繁栄のため、共に行動するEUと日本(※2)」にも表れた。
今次の協議は安倍晋三総理大臣の10日間にわたる欧州6カ国歴訪の最後を締めくくるものだった。前回の首脳協議(2013年11月、東京)から半年しか経っていなかったが、EUのヘルマン・ヴァンロンプイ欧州理事会議長とジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長は「日本と価値を共有する欧州との関係を強化したい」との安倍総理の意図を歓迎し、5月7日に安倍総理をブリュッセルに迎えた。
同協議では、2013年4月に始まったFTAの交渉について、日・EU間の貿易および経済関係の強化、特に物品、サービスおよび投資における市場アクセス、非関税措置への効果的な対処の重要性が再確認された。なお、EUは交渉開始1年後に進捗状況を検討し、交渉の続行について判断することを条件としていたが、検討の結果、交渉を続行することが6月25日に確認された。
FTAおよび並行交渉中のSPAの締結について、安倍総理は協議後の会見で、「2015年に大筋合意することを目指している」との決意を述べ、またバローゾ委員長は、「SPAの締結により、安全保障から気候変動・エネルギーまで、立場を同じくする多くの課題について共に取り組めるようになり、解決のチャンスがさらに高まるだろう」と、実現への意欲を示した。
高等教育については、EUが出資する「エラスムス・プラス(Erasmus+)」(本誌特集記事参照)により、ダブルディグリープログラムや学生間、研究者間、職員間の交流を通じて、さらに日・EU間の学術協力を推進していく。また、「マリー・スクウォドフスカ・キュリー・アクションズ(Marie Sklodowska Curie Actions」により、相互の研究者交流を、そして「EUインスティテュート・イン・ジャパン(EU Institute in Japan)」により、相互理解と幅広い聴衆との関与、学術交流を強化していく。また、本年5月に東京と京都で開催の欧州留学フェアや、11月にロンドン、パリ等で開催される日本留学フェアなどのイベントを通して日・EU間の学生交流を促進していくことを決定した。
科学技術においては、日・EUが協力し、成長・雇用・競争力の促進、共通の社会的課題への対処に大きく貢献することが重要とされた。EUの「ホライズン2020」、日本の「科学技術イノベーション総合戦略」を通じ、それぞれの研究プログラムに参加することで、相互の潜在力を最大限に発揮し、世界をリードする研究およびイノベーション力を高めていく。
新たな地球規模の課題についても協議され、2014年後半に東京で日・EU宇宙政策対話の第1回会合を開催することを決定。宇宙活動に関する国際行動規範の採択に向けて協力を進めていくこととなった。また、グローバル化したサイバー空間でのリスクや、オンライン上の人権保護の必要性に直面する中で、日・EUサイバー対話の立ち上げを決定。双方の広範な経験や知見の交換を通じてサイバー分野での協力を促進していく。
日・EUの首脳は、より安全で安定した世界のために共同で貢献すべく、日・EU間の協力およびパートナーシップを強化する決意を再確認した。EUの「共通安全保障・防衛政策(CSDP)」と日本との連携を強化する可能性を引き続き探求することとし、東京でのCSDPセミナー開催の見込みに言及した。CSDPと日本の支援の具体的な連携には、マリ国軍の能力強化、同国の治安改善、ニジェールの治安改善、コンゴ民主共和国における警察官および司法官の能力強化などが挙げられた。〈安全保障分野の、日・EUパートナーシップの強化の詳細については、本稿末囲み記事を参照〉
ソマリア沖アデン湾での海賊対策について、現地に展開するEU NAVFOR ATALANTA(ソマリアEU海軍部隊アタランタ作戦)の部隊と日本の自衛隊との合同の海賊対処訓練が日本から提案され、EU首脳は歓迎した。
ウクライナについては、双方はその主権および領土の一体性に対しての支持を維持することを約束。クリミア併合というロシアの違法な試みを強く非難するとともに、これを承認しないことを確認した。東アジアについては、国連海洋法条約に明記される公海上の航行および上空飛行の自由と安全を確保し、緊張を高めるおそれのある強制力の行使を含むいかなる行動も控えることが必要との認識で一致。ヴァンロンプイ議長は「北朝鮮の組織的で広範、深刻な人権侵害の問題解決につき、国連の建設的な参加を喚起するため、日本と緊密に連携していく」と述べた。
今回の日・EUサミットでは、さらに、気候変動対策や女性の活躍の推進など、さまざまな幅広い課題について議論が行われた。
本年の日・EUサミットで合意された、アフリカでの紛争への対処、サイバー対話の立ち上げ、宇宙の平和的・協調的利用に焦点を当てた宇宙政策対話の開催などはすべて、日本とEUの将来的政治関係を方向づけることになる「日・EU戦略的パートナーシップ協定」締結に向けた交渉との関連で議論されている。共にシビリアンパワー(民生大国)ではあるが、世界の平和と安定のための軍事上の展開の用意がある日本とEUは、協力することが自然なパートナーである。
EUは共通安全保障・防衛政策(CSDP)の下、平和維持活動、紛争防止、国際安全保障の強化で主導的な役割を果たしている。28加盟国の外交・文民・軍事資産を活用し、2003年以来、欧州およびそれ以外の地域の安定と安全保障に貢献する約30件の文民・軍事ミッションを遂行してきた。
ソマリア沖で展開されている海賊対策「アタランタ作戦」は、地域パートナーとの連携や訓練、能力育成、司法改革によって補完されている。日本とは緊密に連携しており、本年初頭には、協力して海賊母船の位置特定と迎撃に結びつくオペレーションを行った。本年の後半には日本の自衛隊と共に共同訓練を実施することになっている。
以下、EUとの協力強化に関する日本側の見解として、外務省安全保障政策課長、加納雄大氏による文章を紹介する(EUの安全保障に関する専門紙”Security Europe” June 2014への寄稿から、ご本人の承諾を得て編集・翻訳の上、転載)。
「日欧の安全保障パートナーシップの強化は必然」 外務省安全保障政策課長 加納雄大
安倍晋三総理は5月の訪欧に際し、日本と欧州の安全保障上のパートナーシップ強化に向け英仏各国や、EUおよびNATOと協議しさまざまな具体的な結果を導きだした。日本と欧州は政府開発援助(ODA)などを通し、世界中のさまざまな地の平和と繁栄に多大な貢献を行ってきた。しかし、現在の安全保障環境においてはさらなる努力が必要で、日本と欧州はお互いがより大きな安全保障上の役割を果たすことを歓迎している。
日欧は、海洋、サイバー空間、宇宙といった国際公共財(グローバルコモンズ)における法の支配を強化するため力を合わせなければならない。公海上の航行の自由、飛行の自由などの基本的原則が完全に尊重されることを確実にする必要がある。海賊対策における協力はその一例だ。欧州はサイバー犯罪条約(ブダペスト条約)採択や宇宙活動に関する国際行動規範の作成を先導しており、日本はこれらの動きを全面的に支持している。
日欧が同じ目標を共有する地球規模の課題でも、協力していけるだろう。日本は平和構築におけるEUのCSDPが果たす重要な役割を認識し、同政策下で派遣されるミッションに関心を寄せている。核軍縮・核不拡散および通常兵器の軍備管理では、日欧はすでに核兵器不拡散条約(NPT条約)再検討プロセスや武器貿易条約採択の促進において主要な役割を果たしてきている。
世界が直面するさまざまな不安定要因や課題を鑑みるに、より平和で繁栄した国際環境を支える安全保障を提供する意欲と能力を持つ日本と欧州が、この分野で協力を進めるのは当然のことと言える。
(※1) ^ 日本では「経済連携協定(EPA)」と呼ばれている。
(※2) ^ 英語の原文のタイトルは”The EU and Japan Acting together for Global Peace and Prosperity”
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