2014.9.29
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また、欧州人権条約とは別の欧州連合(EU)独自の法的取り決めとして、2002年に調印され、その後2009年発効のリスボン条約によって、条約と同等の効力を持つこととなったEU基本権憲章には、「何人も死刑に処されてはならない」との規定がある。今や、EU加盟28カ国はすべて死刑を廃止している上、死刑廃止はEUの加盟条件となっている。EUは欧州評議会と力を合わせて、欧州のみならず、全世界的な死刑廃止にも取り組んでいる。2007年12月、10月10日の世界死刑廃止デーに合わせて同日を「欧州死刑廃止デー」とすることを宣言した。
昨年(2013年)の欧州死刑廃止デーも、欧州評議会のトルビョルン・ヤーグラン事務局長とキャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表が、不退転の決意で死刑制度廃止の実現を目指す共同声明を発表している。欧州諸国の中で現在も死刑を執行しているのは、ベラルーシ1国のみである。
死刑に対するEUの根底にある考え方は明確だ。「いかなる罪を犯したとしても、すべての人間には生来尊厳が備わっており、その人格は不可侵である。人権の尊重は、犯罪者を含めあらゆる人に当てはまる」というものだ。さらに、人権的観点のみならず、死刑は「不可逆性」という重大な問題を抱えている。検察官や裁判官、陪審員、さらには既決囚を赦免できる政治家であっても、絶対に間違いを犯さないとは言い切れない。にもかかわらず、死刑は一度執行されてしまえば取り返しがつかない。冤罪(えんざい)による、あってはならない過ちを完全に回避するための最も確実な方法は、唯一、「死刑を廃止する」ことなのである。
EUは、犯罪者に刑罰を科すことの目的は、「本人に自らの過ちを理解させ、自責の念を持たせ、その人物を更生させ、最終的には社会復帰させること」にあると考えている。この点から言えば、死刑では刑罰の究極的目標が果たせない。さらに、死刑存続を擁護する際に用いられる、死刑の持つ犯罪抑止効果についても、欧州では死刑廃止後に重大犯罪が激増したという事実がなく、米国では死刑廃止州より存置州の方が殺人事件の発生率が高いというデータもあり、死刑の犯罪抑止力は証明されていない。また、同様に存続の大きな論拠となる、「命をもって罪を償う」という考え方については、死刑によっても被害者家族の喪失感が薄れることはない上、生命の絶対的尊重という基本ルールを監視する立場にある国家も、そのルールの例外であってはならない、とEUは考える。
今日EUに死刑はないといっても、すべての加盟国が、死刑廃止に向けて同じ道のりを、順調に歩んできたわけではない。
例えば、フランスでは、フランス革命が収まった1791年以降、数度にわたって死刑廃止の法案が議会に提出されたものの、いずれも否決された。転機となったのが1981年の大統領選。死刑存置の立場をとった当時現職のヴァレリー・ジスカール・デスタンを、国民議会議員選挙において社会党が過半数の議席を確保できた場合には死刑廃止法案を議会に提出する、と公約したフランソワ・ミッテランが破り大統領に就任。同年6月には国民議会選挙で社会党が圧勝し、ミッテラン大統領は公約通り、死刑廃止に尽力していたロベール・バダンテールを司法大臣に任命し、国民議会に「死刑廃止に関する法律案」を提出させた。法案は可決、10月10日に公布された。死刑廃止法制定時、世論は死刑廃止よりも存置を望む声のほうが優勢であったが、そのような状況の中でフランスが死刑廃止を実現できた背景の一つには、「政治家の強い意志」があったからだと言われている。
英国で最初に死刑廃止法案が出されたのは1948年にさかのぼる。シドニー・シルバーマンという下院議員が提出したが、議会の大きな反発にあい、否決された。ところが、1950年代に、一人の男性が殺人罪で死刑に処された後、真犯人が名乗り出るなど、誤審事件が相次いだことから、国民の間に「誤審の危険性」と「死刑の不可逆性」に対する問題意識が高まり、シルバーマン議員は1956年に再度法案を提出。再び否決されたものの、世論の圧力は高まり、政府としても廃止の検討に追い込まれる事態に発展。1965年には5年間のモラトリアム(死刑執行停止)を定めた法律が成立した。戦時の犯罪を含め、全面的に廃止となる1998年までは、スパイ罪、国家反逆罪、軍内部の犯罪に対して引き続き死刑が規定されていたが、実際には1964年以降は執行されなかった。
フランスと英国の2つの事例に共通するのは、死刑を廃止するには議論に長い時間がかかるということである。
(※1) ^ 欧州評議会
現在、欧州評議会には、EU28加盟国をはじめとする47の欧州諸国が加盟しているほか、日本、カナダ、米国などもオブザーバーとして活動に参加、支援を行っている。
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