2014.8.26
FEATURE
男女平等という基本理念の下、欧州連合(EU)では、これまでさまざまな取り組みを通じ、加盟国に対し政治経済における女性登用の促進を働きかけてきた。しかし2014年4月に発表された欧州委員会の「男女平等に関する年次報告書」によると、現在の進み具合では、EUが目標とする女性雇用率75%の達成には約30年、男女同一賃金の実現には約70年、そして加盟国の国会議員に占める女性の割合が40%になるには約20年もの歳月がかかることが予想されている。そこで、より迅速に、より効果的に男女平等を実現するための方策として打ち出されたのが、産業界に対する「上場企業の役員会におけるジェンダーバランス改善のための指令(女性役員クオータ制指令)」である。
2012年11月、EUの行政執行機関として政策立案を担う欧州委員会は、欧州の大手上場企業の非業務執行取締役における性別の比率が2020年までに(公営の上場企業については2018年まで)、男女どちらも最低40%になることを目標とする女性役員クオータ制指令案を、EU理事会と欧州議会の2つの共同立法機関に提出した。非業務執行取締役とは、二層型取締役会において監督の役割を担う取締役のことであり、社外役員を含んでいる。非業務執行取締役を対象としたのは、企業の管理職員の任命や人事政策策定などに関与するため、企業の意思決定過程におけるジェンダーの平等に一定の効果があると考えられたからである。
この指令の目的は、明確で男女の区別のない基準に照らし、客観的かつ透明性のある選考手続きを行い、40%の目標を達成させることにある。あくまで資質や能力が選考のカギとなるが、最終的に男女2人の候補に絞られた場合には、比率の少ない方の性(一般的には女性)が優先される。
指令案では、各加盟国と欧州委員会は報告書を作成し、指令の適用状況を監視する。上場企業は取締役の男女構成と目標達成のために取った方策について毎年報告書を作成し、目標未達成企業には制裁が科せられることになるが、具体的な内容は加盟国の裁量事項とし、各国の国内法に委ねることになる。ただし、企業が手続き義務を適正に運用している場合は、40%の目標達成に失敗した場合でも制裁は除外される。指令案は2028年に失効となる時限立法になっている。
ベルギー、フランス、イタリア、オランダ、スペインなどEU加盟国の中には、既に女性役員クオータ制指令と同趣旨の国内法を導入している国もあるが、加盟国が独自のより良い法制度や方策を持っているのなら、そちらを優先し、既存の方法で企業の取締役会の女性比率を40%まで引き上げるという目標を達成すればよい。すでに望ましい経過にある加盟国には指令は適用されない。業務執行取締役については、企業が独自により良いジェンダーバランスのために定量的目標を設定し、取り組むことを各加盟国が確保する必要があり、同じ期限が設定されている。業務執行・非業務執行取締役の区別なく、包括的に33%を目標とすることが求められている。
そして2013年11月、欧州議会は圧倒的多数(賛成459名、反対148名、棄権81名)で欧州委員会の提案を、部分的な修正のみで可決した。ビビアン・レディング副委員長/司法・基本権・市民権担当(当時)は提案可決を受け、「採決結果は欧州の男女平等における歴史的な瞬間だ」とその意義を強調した。今回の女性役員クオータ制指令は、中小企業は対象外であるが、EU内の7,500の上場企業のうち、約5,000社に影響が及ぶと見られている。
女性役員クオータ制指令の審議は現在EU理事会に移り、最終的な議論が進められている。理事会も全般的に企業取締役のジェンダーバランス確保に賛成しているが、目標達成のためにはどの方策が最適かについては認識に差がある。女性役員クオータ制指令の発動により、欧州の産業界にかつてない改革がもたらされ、男女平等と持続可能な経済成長に大きく寄与することが期待される。
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