2016.7.28
FEATURE
国際関係の中核に「文化」を据える新たな文化戦略を発表した欧州連合(EU)。その思想や背景などについて、欧州委員会教育・文化総局のマルティーヌ・ライシャーツ総局長に話を聞いた。
今、欧州で起きている危機を乗り越えるには、「違い」を「新たな関係」に発展させる前向きな何かが必要です。そして誰もが同意できるのが、文化ではないでしょうか。文化は人々の心の中心にあります。例えば、日本のお寺や神社に行けば、キリスト教徒であろうとイスラム教徒であろうとユダヤ教徒であろうと、精神性を感じると思います。EUは、そういった、人の心と心を繋ぐもの――お金ではなく――に基づいた関係を築きたいと考えたのです。
それが、EUの対外関係を担っているフェデリカ・モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表が、欧州委員会で文化を担当しているティボル・ナヴラチチ委員と共に、人間の共通の関心事項である「文化」に力を入れた戦略を打ち出した理由です。私たちが目指しているのは、お互いを責め合うのではなく、文化を軸に心を開いて付き合える関係を築くことなのです。
確かにわれわれには欧州もしくはEUの文化というのはありませんし、それは不可能です。しかし、日本人の皆さんはオペラをご存知ですよね。モーツァルトであろうとヴェルディであろうと、オペラは欧州から来たものだという認識はおありだと思います。
翻って日本だって、北と南では文化が違うし、赤ちゃんの誕生と結婚は神道で祝い、お葬式はお寺でなさる方が多いそうですね。マイノリティの人々もいます。これらも日本の文化であり、とても興味深いことです。問題は、一つの文化かそうでないか、ということではなく、物事を違う方向から見てみる、ということなのです。
欧州の若者はエラスムスなどの留学制度を利用して、国外に出て異文化を吸収して社会に出ます。多様性を体験すれば物の見方も変わり、異なるものを善悪で判断するのではなく、偏見のない広い心で捉えることができます。若い人には、多様性は楽しいもの、違っているのはおもしろいものだということを、もっともっと知ってもらいたいと思います。
歴史的文化遺産の保護、クリエーターをはじめ文化産業に関わる人々の関係強化、平和構築活動の一環としての若者の交流「ヤングアンバサダー」などがまず挙げられます。また、放射線研究で二度ノーベル賞を受賞しているキュリー夫人の名をとった、科学者対象の奨学金助成制度「マリー・スクウォドフスカ=キュリー・アクションズ(MSCA)」、EU域外の学生を対象にした「エラスムス・プラス(E+)」のような留学支援プログラムがあります。
MSCAではもっと日本の女性の科学者に応募してもらいたいし、E+を通してもっと日本人学生に欧州に来てもらい、欧州の学生には日本に行ってほしいと思っています。さらに、原住民の文化的アイデンティティを保護する活動やアラブ世界の若者を対象とした「ヤング・アラブ・ヴォイス」などもあります。特に力を入れたいのは、若者および市民社会との対話です。
文化遺産に関しては、盗品を売買する商業ルートを断ち切ることが課題です。また文化遺産を守ることも重要で、欧州委員会は2018年を、欧州文化遺産年に指定する提案を行っています。文化姉妹都市も素晴らしい取り組みですし、また毎年、欧州内の2都市を選んで開催している欧州文化首都を3都市に増やし、1都市は日本のような域外の国から選ぶことも考えています。
「文化と経済の関係」と「文化と教育の関係」です。それぞれの関係はかけ離れたもののように思われがちです。しかし、今、現代的な美術館に行くと、ヘッドセットを付けて双方向ゲームをしたり、美術品や建築物の3D映像を見たりすることができ、子どもたちは夢中になっていますね。これなどは、ハイテク産業、すなわち経済と文化の結合の良い例ではないでしょうか。
また、教室で芸術作品について学ぶのと実物を見て感動するのは全く違いますが、お互いは補完関係にあるのです。両者が批判し合うのではなく、良い関係を築いていけるのだ、ということを理解することが重要だと思います。あと、忘れてはいけないテーマは「食べ物」ですね(笑)。
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