2017.6.29
FEATURE
ヨーロピアン・セメスターの役割や構造、年間スケジュールについてはあまり知られていない。PART 2では、11月にスタートするヨーロピアン・セメスターの流れを中心に、加盟国への「国別勧告」についても触れる。
ヨーロピアン・セメスターの年間サイクルは、加盟国の経済を詳細に分析した複数の調査報告が発表される、11月にスタートする。中でも重要な調査報告が、EUの総体的な経済的・社会的優先政策を設定し、加盟国に対し翌年の包括的な政策指針を提示する「年次成長概観(Annual Growth Survey)」だ。このほかに「警告メカニズム報告書(Alert Mechanism Report)」と呼ばれる重要な調査報告があり、a)財政上の潜在リスクを早期に特定し、b)マクロ経済の過度な不均衡の発生を防ぎ、c)加盟国の経済に既に生じている不均衡を是正すること――を意図して作成される。欧州委員会が作成するこれらさまざまな調査報告に含まれる勧告(recommendations)は「国別勧告」に反映され、加盟各国に実施を求める「宿題」のリストのような位置付けとなっている。
ヨーロピアン・セメスターの主な流れは下記の通り。
2月に欧州委員会が加盟国の経済状況と改革アジェンダの実施状況を分析した国別調査報告書を発表。警告メカニズム報告書で名指しされた加盟国に関しては、国別調査報告書の中に「徹底調査(in-depth review)」と呼ばれる、加盟国が直面する潜在的な不均衡に関する分析が盛り込まれている。
3月には欧州理事会(EU首脳会議)が、EU共通の目標に関する指針を提示するために、「年次成長概観」と「警告メカニズム報告書」の2つの主要な報告書を検討する。その準備は閣僚レベルで進められる。
4月には加盟各国が欧州委員会に対して、自国の改革プログラムと3カ年予算計画を提示する。プログラムの中で各国は、雇用と成長の押し上げや、マクロ経済の不均衡の抑制や是正を図ることを目的に採用する個別政策と、未解決のEU国別勧告と財政ルールを確実に順守するための具体的な計画を報告する。
5月に欧州委員会は加盟国の計画を検討・評価し、各国に対して新たな国別勧告案を提出する。2015年にヨーロピアン・セメスターのサイクルの合理化を進めた結果、現在では国別勧告案は、より的を絞った、より少ない内容になっている。政策勧告案については6月にEU理事会の中で加盟国間での話し合いが行われ、欧州理事会が7月に承認する。その後、各国は勧告内容を翌年の改革プログラムと政府予算に組み入れる。
秋には、ユーロ圏の加盟国の予算への監視が本格化され、欧州委員会は全ての財政計画が「安定・成長協定」や関連する国別勧告の求めに応じた内容になっているか評価する。最終的には欧州委員会が11月に各国の財政計画に対する意見を出し、そのガイダンスが政府予算の最終決定の際に考慮される。
手短に言えば、欧州の経済は直面する重要課題に対してその強靭さをあらためて示したといえよう。2016年のEUとユーロ圏の経済成長率は2%近くまで上がり、財政状況は改善。雇用者数も約2億3,300万人となっている。失業率は2009年以降で最も低い水準まで低下し、幾つかの加盟国では欧州投資計画の支援もあり、債務危機前のレベルまで投資が拡大している。しかしながら、生産性の伸びの低さと国家間や地域内の格差に見られるような債務危機の負の遺産は、主に外的要因から広がる不確実性と同様に、欧州の経済にいまだ重くのしかかっている。
ヨーロピアン・セメスターの勧告の目的は、現在の景気回復の動きを強固なものにし、各国間やEU内の格差を収れんさせることにある。そのためには競争力やイノベーションの強化を含めた、より包摂的で広範かつ持続的な成長が欠かせない。勧告には、加盟国の社会的な優先事項や課題にさらに焦点を絞るという目的もある。直近では欧州委員会が「社会権に関する欧州の柱(European Pillar of Social Rights)」の概略を作成し、公平で正しく機能する労働市場と福祉制度を支えるための主要原則を提示している。
EU加盟国は平均して、国別勧告の約3分の2について一定の進捗を遂げており、EU全域で改革が遂行されていることを裏付けている。実際問題として重要な改革を計画し、実行するのは時間を要する作業だ。そのため単年単位よりも複数年を視野に入れた方が、改革の進展が見えやすい。大多数の改革には前進が見られるが、遂行の速度や深度は加盟国によって異なる。「財政政策と財政統治」に関連する政策分野を筆頭に改革が進んでおり、近年の緊急課題であった「金融サービス」の分野においても著しい成果を上げている。
2016年の国別勧告の採択以降、EU加盟国では財政政策と財政統治、労働市場に関する積極政策において大幅な改革が進んでいる。労働者に対する税負担の軽減といった課税政策、労働市場と社会政策(社会的包摂と児童保護を含む)、また金融サービス分野などでも取り組みが進んでいる。一方でサービス産業における競争やビジネス環境などの分野は最も進捗が遅れている。加盟国は引き続き改革の遂行に尽力しているが、これまでのところ2016年の国別勧告が示した大半の政策分野において、進展の度合いは「わずか」から「ある程度」までの範囲内といったところだ。
ドムブロフスキス副委員長は「景気動向は全体的に好ましい。われわれは、この絶好の機会を活かし、欧州経済の競争力と強靭さを高め、イノベーションを起こさねばならない。より包摂的な成長と生産性の向上が見込める改革分野を優先すべきである。構造改革、投資および責任ある財政政策へ引き続き留意することは、EUの景気回復強化と持続にとって必要不可欠である」と述べている。
またピエール・モスコビシ経済金融問題・税制・関税担当委員は、「EUは成長しており、2018年で6年目を迎え、なお継続する回復基調を満喫している。しかし回復は不均一でいまだ脆弱性を含んでいる。われわれは、経済成長を後押ししうるあらゆる手段を駆使しなければならず、それには賢い(smart)経済改革だけではなく、財政政策の知的な(intelligent)適用が含まれている。公共財政の持続可能性の確保、そして景気回復を損なうのでなく、強化するような財政政策の達成――この両者の適切なバランスを保つことを欧州委員会は今、加盟国に勧告する」。
景気回復によって手にした絶好の機会を活かし、今こそ各国が構造改革や投資拡大、そして財政強化に取り組むべきだ。これこそが2017年のヨーロピアン・セメスターが発したメッセージの核心だ。優先課題は加盟国ごとに異なるが、より包摂的で頑強かつ持続可能な成長を達成するためには、EUが一丸となったさらなる取り組みが欠かせない。
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