2013.4.12
FEATURE
1991年に定期首脳協議を開始して以来20年余りにわたり、拡大・深化してきた欧州連合(EU)と日本の関係は今春、2つの協定の交渉を始めることで、新たな次元の互恵的関係への第一歩を踏み出した。
3月25日、ヘルマン・ヴァンロンプイ欧州理事会議長とジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長は安倍晋三総理大臣と電話会談を行い、EUと日本の「戦略的パートナーシップ協定」および「自由貿易協定(FTA)」(経済連携協定〈EPA〉とも呼ばれる)の交渉を開始することを決定した。本来は、同日に東京で予定されていた第21回日・EU定期首脳協議(日・EUサミット)の席上で交渉開始を正式に決定するはずであったが、キプロスの経済危機対応のためヴァンロンプイ議長とバローゾ委員長の来日がかなわず、急きょ電話会談が行われた。戦略的パートナーシップ協定は、安全保障や科学技術など経済以外の包括的分野での日・EU関係の協力方針を求める法的拘束力を持つ政治協定(※1)であり、FTAは貿易や投資の自由化を推し進めて、双方の雇用の創出や経済成長に寄与することが期待される。
日・EUサミットは延期されたが、予定通り来日したカレル・ドゥグヒュト欧州委員会委員(通商政策担当)は日本経済団体連合会と欧州ビジネス協会(EBC)共催の昼食会の場でFTAについて、EUと日本は交渉を通じ双方の市場が提供しうる「あらゆる機会を最大限に活用する」ことになると強調した。
「EUと日本の経済関係が重要なことは明らかだ。双方の市場を合わせた価値は、世界の経済活動の3分の1以上に相当するのだから。しかも、将来さらに大きな経済的効果を生む可能性がある。EUだけをみても、日本と『野心的』なFTAを締結することで、GDPが0.8パーセント押し上げられる。だが、何よりも『野心的』という言葉を強調したい。つまり、障壁となる規制の撤廃を目指さないような合意なら、効果は上がらない」
同委員は「1年以内には重要な分野でおおまかな共通認識を得たい」とも述べ、早期の妥結を目指す考えを示した。
初回のFTA交渉は4月15日から19日にかけてブリュッセルで、政治協定交渉の初会合が19日と22日に東京で、それぞれ行われる。
日本は EU にとってアジアで 中国に次ぐ2 番目に大きな通商相手であり、日本にとって、EU は中国、米国に次いで3番目の貿易相手だ。両経済を合わせれば、世界のGDPの3分の1超を占める。
こうした前提を踏まえ、EUと日本は2011年5月の首脳協議で、戦略的パートナーシップ協定および FTAの締結に向け、「スコーピング」と呼ばれる、協定の範囲や目標を定める共同検討作業の開始が合意された。
欧州委員会の試算によれば、日本とのFTA締結により、EUのGDPは0.6~0.8パーセント押し上げられ、EUの対日輸出は32.7パーセント拡大する可能性があり、EU だけで40万人以上の新規雇用の創出が見込まれる。一方で、日本の対 EU 輸出額は 23.5パーセント拡大すると予想される。
1年間にわたるスコーピング作業は2012年5月に終結し、その結果を踏まえて、欧州委員会は各加盟国およびEU理事会に働きかけた。そして同年11月、EU理事会は欧州委員会に対し、日本とのFTA交渉を始めることを正式に認めた。同時に、日本と政治的・国際的関係および分野別課題を包括する戦略的パートナーシップ協定の交渉を始めることも認めた。2つの協定の交渉は並行して進められ、対日関係の総合的な枠組みを構築する。
日・EU経済のさらなる拡大の可能性 |
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日・EU貿易の近年の特徴と傾向を見てみよう。
このように、日・EU関係はすでに経済的結びつきが強く、互いの産業構造にそれぞれ組み込まれている。しかし、2つの経済の統合を図るのにわかりやすい指標である双方向の投資という面を見ると、経済関係には 深化の余地がまだかなり残されていることがわかる。 |
戦略的パートナーシップ協定は、日本とEUが民主主義や法の支配といった共通の価値を持つ重要なパートナーであることを踏まえた、法的拘束力のある枠組み合意で、安全保障や気候変動対策など地域レベルおよび地球規模の問題への取り組みにおける協力を定義する。
世界が抱える共通の問題および新たな安全保障上の脅威は複雑さを増し、20年前と比較するとより深刻で緊急性が増している。例えば、東アフリカ・ソマリア沖の海賊対策に日本は海上自衛隊、EUは艦船を派遣して協力してきた。しかし、本年1月に起きたアルジェリア人質事件などのように「危機対応」を必要とする事例は多様化しており、人道支援から平和維持までを含む、テロ対策を超えた国際協力構築が急務になっている。
EUも日本も緊急人道支援、開発援助、部隊派遣による平和維持活動などの「危機対応」には実績があり、パートナーシップ協定は円滑に協力し、役割分担するための枠組みとなる。防災・減災協力の強化も危機対応の関連分野として協議する。
気候変動の緩和や対応策、持続可能な成長、クリーンで安全なエネルギー、食糧安保、サイバーセキュリティーなどの分野でも、EUと日本が知識、技術、資金面で力を合わせれば、世界レベルでの問題解決に大きな前進があるはずだ。
すでに科学技術の分野では、アクティブエイジングや低炭素技術、新素材などの重点分野で協力関係が推進されている。現在実施中のEUの第7次研究・技術開発枠組み計画(Seventh Framework Programme for Research and Technological Development、略称FP7)では、のべ79人の日本人が関与する63のプロジェクトが資金助成対象に選ばれている。
FTAの柱となるのは、関税引き下げや非関税障壁の撤廃だ。具体的な争点はいくつかあるが、例えばEUは日本側に自動車の技術規格と安全基準や、鉄道など公共部門での資材調達での参入障壁が多いと主張している。
一方、日本のメディアは、日本にとっての最大の関心事は、EUが乗用車に課す10パーセントの関税撤廃だと報じている。
3月に来日したドゥグヒュト委員は、先に挙げたような近年の日欧貿易・投資の傾向に触れ、「こうした数値はFTA交渉が簡単でないことを明示している」と述べ、「良い結果を得るには、サービス、投資、調達、知的財産権、規制問題を含む幅広い項目を包含する深くて包括的なFTAを締結することだ」と強調した。それには、高度な政治レベルでの継続的で十分なコミットメントと決断力が要求されるとも捕足した。
こうした障壁撤廃に向けてのロードマップを日本に求め、2014年4月にはこの行程表に基づいて日本側の努力が十分でないと判断すれば、交渉の中断も視野に入れている。
一方で同委員は、共に経済が停滞している欧州と日本にとって、さらなる成長を模索する上で、FTA締結は必要だと強調している。
カレル・ドゥグヒュト欧州委員会委員(通商政策担当)のウェブサイト(英語)
(※1)^ 本協定の正式な名称は日本政府との間で協議中であり、「戦略的パートナーシップ協定」はEU側が提案しているもの。
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