2018.2.7
FEATURE
昨年12月に開催された、2017年を締めくくる欧州理事会(EU首脳会議)では、常設軍事協力枠組みの創設やEMUのさらなる深化、また英国のEU脱退に向けた交渉の次段階への進展などで合意が見られ、分断化が進む国際情勢の中で、団結して改革と前進を続けるEU首脳の強い政治的意志がうかがわれた。
2017年12月14日、15日に開かれた欧州理事会では、初日の14日に欧州連合(EU)28加盟国の首脳が、安全保障・防衛、社会問題、教育・文化、エルサレム問題などの幅広い議題について結論を採択した。続く15日には、英国を除く27加盟国の首脳が、英国のEU脱退を巡る交渉の進捗状況を評価して次の段階へと進むことに合意し、交渉の第二段階に関わる指針を採択した(英国のEU脱退交渉についてはEU MAG 2018年1・2月号「ニュースの背景」で詳細に報告)。また、ユーロサミット(ユーロを導入している国々の首脳会議)では、経済通貨同盟(Economic and Monetary Union=EMU)と銀行同盟の将来について協議された。
今回の欧州理事会は、「リーダーズアジェンダ(Leaders’ Agenda)」に基づいて議論が進められた、初めての公式首脳会合。リーダーズアジェンダとは欧州理事会のワークプログラム(作業計画)を指し、2017年9月28日にエストニア・タリンで開催された非公式欧州理事会において、首脳たち(Leaders)が欧州の現状や、欧州理事会が今後取り組むべき課題について議論した内容を踏まえ、ドナルド・トゥスク欧州理事会常任議長が、さらに個々の加盟国首脳と協議した上で作成したもの。同年10月20日に承認された本アジェンダには、2019年6月までに欧州理事会が取り上げる課題とスケジュールが明示されている(リーダーズアジェンダを見る)。最も異論の多い問題に対し、結論は出なくとも、より率直かつ直接的な政治討論を通して、各国の閣僚が参加するEU理事会での意思決定を迅速化することを目的としている。
12月14日の欧州理事会会合では、同月11日にEU理事会が決定した「常設軍事協力枠組み(Permanent Structured Cooperation=PESCO)」の創設を歓迎した。 PESCOには、EU加盟国のうち、デンマーク、マルタおよび英国を除く25カ国が参加する。
安全保障・防衛政策の分野で進められるPESCOによって、参加国がより緊密に協力し、防衛能力の共同開発や、共用プロジェクトへの投資を通じて、軍の作戦即応性を強化することが可能になる。初期プロジェクトの例として、欧州医療司令部の創設や、派兵の円滑化、速やかに展開できる危機対応作戦中核とサイバー即応チームの立ち上げなどが含まれる。
トゥスク議長は「長い間、PESCOに反対する最も強い意見は、それが北大西洋条約機構(NATO)の弱体化につながるというものだったが、全く反対である。強力な欧州の防衛は、おのずとNATOを強化する」と述べ、加盟国首脳たちもまた、EU・NATOの協力関係を全面的に推し進めるよう要請した。
EUの移民・難民政策については、リーダーズアジェンダの一環としてトゥスク議長が提示した、(1)EUの対外国境で大量の移民・難民の到来を防ぐ、(2)移民・難民が発生する根本的な原因に取り組む、(3)政策の発展を妨げる内部の行き詰まりを解決する、という3つの点に基づいて行われた。
欧州理事会の議論では、対外的側面において、国境警備への重点的な取り組みや、第三国との協調といったあらゆる要素を広く支持。また、非正規移民の流れが発生する根本的原因に対処するために、次期多年次財政枠組み(Multiannual Financial Framework=MFF)の中で、恒久的な資金調達メカニズムを確立する必要性がある、との意見でまとまった。一方、域内対応としては、移民・難民の各国への義務的な割り当てについて意見の一致は見られなかったが、割り当てを止めることにも合意はなかった。全てのEU加盟国は合意を探ることに賛同し、首脳たちは2018年6月に結論を出すことを念頭に、3月に現状を精査することとした。
12月15日には、拡大版ユーロサミットが開催され、ユーロ圏19カ国に、英国を除く残り8カ国の首脳が議論に加わった。議論の中で、EMUと銀行同盟の将来について幅広く意見の合致が見られたことは、リーダーズアジェンダに基づいた進め方の良き一例といえる。さらには以下の点を巡って、将来起こり得る経済的ショックに直面する際、いかに適切な手段を確保するかについて意見交換が行われた。
● 可能であれば、欧州安定メカニズム(European Stability Mechanism=ESM)※1からの信用枠の形で、単一破綻処理基金(Single Resolution Fund)のための共通のバックストップ(安全装置)を実施する
● いわゆる欧州版IMFと呼ばれる欧州通貨基金(European Monetary Fund)となるよう、ESMをさらに発展させる
● 欧州預金保険制度(European Deposit Insurance Scheme)の段階的な導入を含め、銀行同盟を完成させる
これらの問題は短期間で合意される可能性が高く、本年3月に再び欧州理事会で話し合われることになっている。
以上の議題のほか、首脳たちは社会問題、教育・文化、エルサレム問題などについても意見を交換した。
社会問題では、2017年11月にスウェーデン・ヨーテボリで開催された「公正な雇用と成長のための社会サミット」において「欧州社会権の柱(European Pillar of Social Rights)」が採択されたことを受け、これをEUおよび各加盟国レベルで優先的に実施するほか、男女間の賃金格差を解決する「EU行動計画」の優先事項を追求することなどが話し合われた(「欧州社会権の柱」についてはEU MAGで詳細に報告予定)。
教育・文化の分野では、EU域外国との学生・高等教育機関交流を助成するプログラム「エラスムス・プラス(Erasmus+)」を、より包括的に促進していくことや、複数のEU加盟国での研究を組み合わせて学位を取得できるようにすることなどが検討された。
米国が発表した新たな方針で揺れるエルサレムの地位を巡る問題では、イスラエルとパレスチナの双方の人々に恒久的な平和と安全をもたらす唯一の現実的な方法として、EUは「2国家共存による解決」をこれまでどおり堅持することを繰り返し表明した。
以上が、2日間にわたって行われた欧州理事会の特筆すべき結論。リーダーズアジェンダに基づいて行われた初めての議論が次にどうつながっていくのか。首脳たちが合意したように、アジェンダの成功は、加盟国の連帯と全員参加に掛かっている。
※1 債務危機に見舞われたユーロ圏の国々に対する支援手段の一つで、2012年10月に発足。7,000億ユーロの資金枠、5,000億ユーロの融資可能額を有するユーロ圏の常設セーフティネット
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