2015.1.26

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気候変動枠組み ―パリ会議での合意を目指して

気候変動枠組み ―パリ会議での合意を目指して

COP20では全ての締約国が温暖化ガス削減目標を出すことに合意

2014年12月1日から12日まで南米ペルーの首都リマで開催された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第20回締約国会議(COP20)にて、2020年以降の新しい気候変動枠組みについて協議され、2015年12月のパリ会議(COP21)での国際合意に向け前進が見られた。UNFCCCは地球温暖化問題に対する国際的枠組みを設定する条約で、1994年に発効した。現在UNFCCCのサイトによると、条約を締約しているのは、国連加盟国数を上回る195 (オブザーバーを除く)の国と1機関(EU)に上っている。

地球温暖化の影響とみられる異常気象が世界各地で相次いでいる。2013年11月にフィリピンを襲った観測史上最大規模の台風30号は甚大な被害をもたらした(2013年11月8日 フィリピン・レガスピ) © European Union, 2015.

1997年に京都で開催されたCOP3でまとめられた気候変動枠組み「京都議定書」は、気温上昇を食い止めるために、温室効果ガス排出量を削減する義務を先進国に課す初の試みであった。しかし、2008年~2012年の第一約束期間は米国を除く多くの先進国が参加したものの、2013年~2020年の第二約束期間では日本やロシア、ニュージーランドなど第一約束期間に参加した多くの国が不参加を表明、結局、EUとオーストラリアのみの参加となった。

昨年12月に開催されたCOP20では、かつて削減義務の対象外とされた国々が現在では著しい発展を遂げ、これまでとは経済状況も異なっていることに加え、全世界規模で温室効果ガス削減に貢献する必要性を重視。地球の気温上昇を工業化以前から2℃未満に抑えるための温暖化対策に関し、全ての締約国に対し自国の削減目標案を出すことを求める「リマ要請」に合意した。各国の目標は明確で透明性のあるものでなければならず、案には基準年や取り組み期間なども盛り込むことが決定している。

各国は自主的に2015年3月までに目標案を提出することが望まれているが、UNFCCC事務局は10月1日までに提出された各国案を対象に、「気温上昇を2℃未満に抑える」という目標の達成に十分か、また公平かつ意欲的かを評価する統合報告書を11月1日までに作成する。リマ会議ではまた、気候変動への適応、損失や損害、資金調達などへの支援を新枠組みに組み込むことにも合意された。新たな枠組みの法的位置付けについては、議定書とするのかも含め、今後の交渉に委ねられる。

排出量取引制度改革などで温室効果ガス排出量4割減を目指すEU

これまで気候変動対策で世界を先導してきた欧州連合(EU)は、2014年1月22日に欧州委員会が発表したコミュニケーション(政策文書)を、欧州理事会が10月23日に合意する形で、2020年以降の新たな目標をCOP20開催前にいち早く発表した。その直後には、米国、中国が首脳会談でそれぞれの新たな目標を共同発表。バラク・オバマ米大統領は、米国の温暖化ガス排出量を2025年までに05年と比べて26~28%削減する新たな目標を、また習近平国家主席は、国内の二酸化炭素(CO2)排出量に関して、30年ごろをピークに減らす方針を示した。EU、米国、中国の出した新たな目標はいずれも、これから他の国々が出す目標と同じ効力を持つものとして統合報告書に組み入れられる。EUに加え、世界の二大排出国である米、中両国の目標が出揃ったことで関係者からは「COP21で目指す温暖化対策の新たな枠組み合意に弾みがついた」との見方も出ている。

EUが発表した新しい目標は、温室効果ガスの排出量を、2030年までに1990年比で少なくとも40%削減するものであり、加盟国が共通の目標として削減を進めていく。これはEUが自らの方針として設定した「2050年に1990年比80%削減」という長期目標の過程にある数値であり、EUはこの野心的な目標を、費用対効果の高い持続可能な産業を構築するために推進する。EUはまた、40%削減の目標達成のため以下の施策も同時に発表した。

① EU域内排出量取引制度(European Union Emission Trading Scheme 略称:EU ETS)の改革

EUは排出量取引制度によるキャップアンドトレードとキャップ引き下げで温室効果ガス総排出量の削減を目指す © European Union, 1995-2015

EUで既に実施中のEU ETSは、排出量の上限(キャップ)を企業や施設に割り当て、その過不足分を市場で取引するキャップアンドトレードであり、そのキャップを徐々に引き下げることにより総排出量を減らしていく制度だ。2030年で1990年比40%減の達成にはEU ETS対象内の分野で2005年度比43%、EU ETS対象外の分野で同年比30%を削減しなければいけない。このためEU ETSを改革し、2020年までの毎年1.74%の削減率を2021年からは2.2%の削減率へと強化する。キャップアンドトレードの活性化は新たな市場形成を可能にする。欧州委員会は2014年1月、EU ETSの取引価格を安定させるため、2021年から温室効果ガスの余剰排出分を積み立てる「市場安定化リザーブ制度(Market Stability Reserve)」の立ち上げを提案した。

② 再生可能エネルギーの割合を少なくとも27%に拡大

EUは2030年までに域内の消費エネルギーで再生可能エネルギーの占める割合を27%に拡大する © Free

2030年までにEU域内の消費エネルギーで再生可能エネルギーの占める割合を少なくとも27%に拡大する。再生可能エネルギーは競争力があり、安全で、持続可能なエネルギーシステムへと変革するために重要な役割を果たす。

③ エネルギー効率を27%向上

EU域内で既に達成されたエネルギー効率の向上度を考慮して、2030年までのエネルギー節減率30%という目標を欧州委員会は提案した。これに対し欧州理事会は、30%を目標としつつも、2020年に再検証するという前提で27%の指示的目標(indicative target)を承認した。エネルギー効率を向上させる技術を確立すれば、より少ないエネルギー消費で経済を発展させられる。

欧州、米国、中国に続く次の主要排出国が出す目標に注目

主要排出国に対し自国の削減案の提出を求める、欧州委員会のカニェテ気候変動・エネルギー担当委員(2014年12月8日、リマ) © European Union, 2015

EUはCOP20の結果を、パリで締結される予定の新しい気候変動枠組みに向けた前進であるとして歓迎している。COP20に出席した欧州委員会のミゲル・アリアス・カニェテ気候行動・エネルギー担当委員は「欧州は真っ先に自身の目標を発表した。中国や米国も迅速な行動に出た。我々が次に注目するのは、共に歩む他の主要な排出国の回答だ」。

日本を含む多くの国々は、温室効果ガスの排出量削減が自国の経済成長の停滞を招くとして及び腰になりがち。これに対しEUが積極的に排出削減を進めるのは、経済成長にとって好機と捉えているためだ。経済成長と排出削減は決して相反するものではない。そして何より、子孫に生存可能な地球環境を残すことは、今を生きる我々全てに課せられた使命なのである。COP21までの間、EUは国連気候変動枠組み条約事務局の統合報告書策定作業を支援するとともに、他の国々と、その目標策定について建設的に協議していく予定だ。なお、欧州委員会気候行動総局では気候変動の現状と環境への影響、必要な対策のための参考情報として「気候変動-その原因と影響(Climate change- causes and consequences)」と題する啓発ビデオを制作しているのでぜひご覧いただきたい(英語、字幕なし)。

現在、世界各地で異常気象が問題となっているが、世界の気温上昇が2℃を超えると地球環境や生態系に壊滅的な被害を及ぼすことは、多くの科学者により指摘されている。産業革命以前と比べ気温上昇を2℃未満に抑えることは、世界的に共有されている目標でもある。本年末のパリ会議での合意は将来的な地球の運命を左右すると言っても過言ではないだろう。各国の先見性のある賢明な議論への参加に期待したい。

関連情報

2014年1月号特集「世界の気候変動対策を先導するEUの取り組み」

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