2020.3.9

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新型コロナウイルス感染症拡大へのEUの対応

新型コロナウイルス感染症拡大へのEUの対応

2019年末に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が中国・武漢市で報告されて以来、この新型肺炎は国境を越えて拡大し、世界中の人々に不安を与え、その健康を脅かしている。EUは加盟国と調整しながら、またEU独自の手段・方策を取りながら、このウイルスの急激な感染拡大と関連リスクに全方位で取り組んでいる。

域内外での初動対応

欧州連合(EU)は、2020年1月末には「EU市民保護メカニズム(EU Civil Protection Mechanism)」を発動させ、EUと加盟国の共同出資で個人用防護具など58トンの支援物資を中国に送ったほか、中国や日本(ダイヤモンド・プリンセス号乗船客)などからEU市民を帰還させるためのフライトが円滑に行えるよう、資金面を含めて援助することとした。2月24日、EUの行政執行機関である欧州委員会は、感染封じ込めの国際的努力を支援するため、2億3,200万ユーロの資金を拠出すると発表した。その内訳は、世界保健機関(WHO)に1億1,400万ユーロ、アフリカでの予防策に1,500万ユーロ、ワクチン開発と他の研究資金に1億ユーロ、EU市民保護メカニズムを通じて武漢からEU市民を帰還させるフライトに300万ユーロである。

EUはまた、欧州経済領域(EEA)参加国であるリヒテンシュタイン、アイスランド、ノルウェー、ならびに英国とも連携しており、欧州疾病予防管理センター(European Centre for Disease Prevention and Control)では、EU域内およびこれらの国々の感染状況に関する情報を公開している。日々更新されるウェブサイトのリンクはこちら

EUとEEA、英国における新型コロナウイルス感染の地理的分布
(2020年3月8日時点)

出典:ECDC「Geographic distribution of COVID-19 in the EU/EEA and the UK, as of 8 March 2020」。上記のリンク先で最新情報が確認できる

新型コロナウイルス感染の予防と封じ込めのために、EUは国際的な支援や連携を積極的に行い、感染状況を克明に調査して情報公開している
© European Union, 2020

新型コロナウイルス対策本部設置

さらに欧州委員会は3月2日、新型コロナウイルス感染拡大防止の取り組みを統括するため、5人の欧州委員から成る対策本部を設置し、「医療」「モビリティ」「経済」の3つを主要な柱に行動することとした(3つの柱については後述)。5人の委員は以下のとおり。

  • ヤネス・レナルチッチ(危機管理担当)
  • ステラ・キリアキデス(保健・食品安全担当)
  • イルヴァ・ヨハンソン(内務担当)
  • アディナ・ヴァレアン(運輸担当)
  • パオロ・ジェンティローニ(経済担当)

新型コロナウイルス対策にあたり、記者会見を行う欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長(中央)と、(後列左より)ジェンティローニ、レナルチッチ、キリアキデス、ヨハンソンの各委員
© European Union, 2020 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Jennifer Jacquemart

欧州委員会は同日、新型コロナウイルス感染に関する専用のウェブサイトを開設。同サイトでは、EU加盟国の専用ウェブサイトへのリンク、直近の調査結果など関連情報のほか、医療、市民保護、モビリティ、経済、統計情報など幅広い分野の主な活動に関する情報を提供している。

EUではこのほか、共同調達協定(JPA)の下、20加盟国で個人用防護具の早期共同調達手続きを開始し、多くの企業に入札案内が送付された。JPAは、2009年のH1N1インフルエンザに教訓を得て、将来の世界的な感染症の流行に備え、ワクチンや薬剤などの共同調達を容易にするため締結されたもので、2020年2月現在、25のEU加盟国と英国が署名している。

なお、渡航勧告は加盟国の権限であるが、EUの外務省に当たる欧州対外行動庁(EEAS)は職員に対し、中国、香港・マカオ、イラン、シンガポール、日本、韓国およびイタリアの4地域(エミリア=ロマーニャ、ロンバルディア、ピエモンテ、ヴェネト)への不要不急の渡航は控えるよう勧告している(3月5日付)。また上記の国・地域への出張もしくは個人旅行から帰ってきた職員は、14日間(10勤務日)を在宅勤務とし、1日2回体温を測って健康状態をチェックすることが求められている。

また欧州議会は、人々の移動による感染リスクを下げるため、3月9日からの会合を仏ストラスブールの議会ビルではなく、ベルギー・ブリュッセルの議会ビルで開くこととした。さらに欧州中央銀行(ECB)も、役員会(総裁、副総裁、4人の専務理事)のメンバーとECB職員の不要不急の渡航を4月20日まで制限、金融政策に関する記者会見以外の会議を延期、などの措置を取った(3月4日付)。

新型コロナウイルス対策本部の3つの柱:「医療」「モビリティ」「経済」

医療

予防、資材調達、救援措置、情報提供と予測に関する活動を行う。この第1の柱について対策本部は、欧州疾病予防管理センター(ECDC)および欧州医薬品庁(EMA)と緊密に連携して取り組む。

© ECDC 2005-2020

モビリティ

運輸から渡航勧告やシェンゲン圏(出入国審査を廃止したEU22カ国と欧州自由貿易連合<EFTA>4カ国からなる領域)関連、対外国境での措置まで対応する。この関係で、欧州委員会が既に明らかにしている主要点は以下のとおり。

〔域内国境での対応〕

  • 加盟国は公共政策また国内治安にとって、ウイルスが脅威であると考え、必要かつふさわしい場合にのみ、EU域内の自国国境で入国審査を再導入することができる。
  • 欧州委員会はシェンゲン国境規定に基づき、加盟各国の国境での審査再開を監視する責任を持つ。
  • 同委員会は、加盟各国がどのような措置を取る場合にも、査証(ビザ)や国境審査の実務が異なったものにならないよう、それらの措置がEUレベルにおいて加盟国間で調整されるべきだと考えている。

〔ビザ〕

  • シェンゲン圏の短期滞在ビザおよびシェンゲン圏への入国について、公衆衛生上の理由から加盟国がこれを拒否することは可能である。

〔旅客運輸〕

  • 各国の運輸管轄当局が、国境を越える列車・航空運輸の停止を決定することについて、何らかの権限を与えるEU法は存在しない。加盟国当局は、EUレベルで一致した措置を望んでいるが、そのためには科学的に検証された保健当局からの勧告を必要とする。
  • ほとんどの航空会社が自主的に中国発着のフライトをキャンセルしているが、これは従来の慣行に従った形である(2010年のアイスランドでの火山噴火後、運輸大臣によるEU理事会で協議され、合意された)。
  • 加盟国はまた、中国対象の発着便を一時停止することもできる。例えば、現在のイタリアのケースがこれに当たる(これは特に、欧州航空危機調整チーム〈European Aviation Crisis Coordination Cell=EACCC〉のファクトシートに従った措置である)。

© European Union 2020 – Source: EP / Photographer: Benoit BOURGEOIS

〔市民の旅行に関する勧告〕

  • 市民の旅行に関する勧告もまた、各国の権限である。
  • 2月25日にローマで開催された近隣諸国の保健大臣会合では、国境閉鎖が「現時点では不釣り合いで効果のない措置」であることが強調された。
  • 欧州委員会は、国境での措置に関連し、ビザ発給や国境管理の実務が異なったものになることを避けるため、EUレベルで加盟国間の全措置を調整すべきだと考えている。このため、同委員会は加盟国間の調整を開始し、EU理事会議長国であるクロアチアと連携する。

3月5日現在、EUは感染者の多い国々からのEU入域を制限する統一措置は取っていないが、例えばドイツでは中国、韓国、シンガポール、イラン、日本から到着した乗客に国際空港で所在追跡・健康質問票の提出を義務付け、ラトビアでは入国者に14日間健康状態の観察を求めるなどの措置を導入している。

経済

バリューチェーンやマクロ経済のほか、観光、運輸、貿易など、さまざまな業種について詳細な分析・調査を行う。欧州委員会が既に行った分析等の例は以下のとおり。

〔観光業界〕

  • ほとんどの欧州系航空会社は、1月末から3月中旬まで中国行きのフライトを運行休止している。中国の旧正月中の欧州内の予約の大部分がキャンセルされ、観光業界の重要なMICE分野(会議、インセンティブ旅行、大会、イベント)も、欧州の主要な見本市が縮小またはキャンセルされ始めたことで影響を受けている。欧州の対中投資(ホテルチェーン)にも影響する。事態の収束後、この分野の完全な回復には、平均10カ月を要するだろう。
  • 2020年1月から2月のEU観光産業には、25万人の中国人旅行者と200万泊の損失が見込まれる(暫定予測)。
  • 欧州委員会は、国連世界観光機関(UNWTO)や経済協力開発機構(OECD)など、観光業に関連する国際機関と緊密に連絡を取っている。また、非営利組織である欧州旅行委員会(European Travel Commission)の支援を得て、欧州の専門組織が情報交換できるネットワークを構築した。

© Pixabay

〔高級品とファッション〕

  • 中国での経済活動の混乱は、たとえ一時的なものであっても、世界経済に対して過去に受けたものよりはるかに大きな影響を与える。今日、中国は世界のGDPのほぼ20%を占めるが、(2002年の)SARS発生時には約9%だった。
  • さらに世界経済は、より複雑で高度な製品と中間財の市場および製造拠点として、2002年の時点よりもはるかに大きく中国に依存している。
  • あるアナリストは、今年上半期に中国の消費が10%減少すると、高級品メーカーの収益が2%減少し、年間利益は最大4%まで減少すると予測している(英ファイナンシャル・タイムズ、2020年1月27日付)。
  • 欧州委員会は、新型コロナウイルスの影響と経済的影響を評価するため、高級品業界の代表者との定期的な情報交換を含め、状況を観察している。

 

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