2019.6.6
OTHER
2019年5月23日から26日にかけ、5年に一度の欧州議会選挙がEU加盟各国で行われた。過去20年で最高の投票率を記録した本選挙の結果は、EU懐疑派が大躍進するとの事前の懸念を覆し、親EU派が議席の3分の2を占める形となった。フロア駐日EU大使の分析も交えながら、今回の選挙結果を振り返る。
今回、欧州連合(EU)加盟28カ国における平均投票率は51%に上昇し(2014年は42.6%)、直接選挙となった1979年の第1回以降、低下の一途をたどっていた傾向が初めて反転した。国別で見ると、投票が義務付けられているベルギー(89.6%)とルクセンブルク(84.1%)がトップ2だが、3位以下はマルタ(72.6%)、デンマーク(66.5%)、スペイン(64.3%)、ドイツ(61.5%)と投票が義務ではない国々が続く。この数値は、EU市民の選挙への高い関心と、彼らにとってEUがより重要となったことを表していると考えられる。また、以前から必要とされていたEU――特に欧州議会――の民主的正統性を高めたことになる。さらには、欧州議会が他のEU機関に対し、より自信を増すことにもつながるだろう。
新議会の構成における最も大きな変化は、1979年以来40年間にわたり安定的過半数を占めてきた中道右派の欧州人民党(EPP)と中道左派の社会民主進歩同盟(S&D)の2大政党グループの総議席数が過半数割れになったことである。しかしその一方で、同じ親EU勢力であるリベラル派の欧州自由民主連盟(ALDE&R ※改称されたが、本稿の日本語訳では旧名称を引き続き使用)と緑の党・欧州自由連合(Greens/EFA)が議席を伸ばし、明らかな成功を収めた。すなわち親EU派が議席の3分の2を占め、依然として議会多数派であることは明確だ。今後は、長年続いた2大政党の大連立から、ALDE&RやGreens/EFAが重要な役割を担う複数政党連立へと拡大していくとの予想もある。
一方、極右政党グループおよび欧州統合懐疑派の政党グループ――つまり欧州保守改革グループ(ECR)、自由と民主主義の欧州(EFDD)、国家と自由の欧州(ENF)――は、3党で約25%の議席を獲得したものの、予想されていたような地すべり的な勝利は起きなかった。イタリアでは、マッテオ・サルヴィーニ氏率いる「同盟(Lega)」が、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が所属するキリスト教民主同盟(CDU)の29議席とほぼ並ぶ28議席を獲得し、明らかな勝利を収めた。しかし、Legaと同盟を結んだマリーヌ・ル・ペン氏を党首とするフランスの国民連合(RN)は、同国内では第一党に躍り出たものの、2014年に獲得した議席数には至らなかった。欧州のほとんどのメディアが、全体的には「EU懐疑派の議席はわずかに伸びただけで、前回とさほど変化はない」という論調で報道している。また、極左政党グループの欧州統一左派・北欧緑左派同盟(GUE/NGL)は、議席を減らしている。
EU脱退が延期されたために今回の選挙に参加した英国において、ナイジェル・ファラージ氏率いる新党、ブレグジット党(Brexit Party)が31.69%で29議席を獲得して第一党になったことは、同国での欧州議会選挙運動ではEU脱退問題のみに焦点が当てられていた、という特異な背景を考慮しておく必要がある。
2019年5月30日、パトリシア・フロア駐日EU大使は欧州議会選挙の結果を受け、日本記者クラブで記者会見を行った。大使は「今回の欧州議会選挙を巡ってさまざまな懸念や憶測が持たれていたが、結果的に今の国際的状況にあって、強く結束したEUが世界のパワーバランスにとって重要だということが反映された」と前置きした上で、次の4つのメッセージを提示した。
① 有権者4億2,700万人が参加する、国境をまたぐ選挙としては最大である欧州議会選で、熾烈な運動が繰り広げられたことは、欧州の民主主義にとっての勝利である。投票率の上昇は、欧州議会に対してより高い民主的正統性が与えられたことを意味する
② 従来の2大政党グループが退潮したにもかかわらず、純粋にEUとその政策を支持する運動を展開したリベラル派と緑の党が票を伸ばし、最終的に3分の2以上の議席を確保して親EU派が勝利した
③ さまざまな難しい状況があるにしても、EUと欧州の未来にとって今回の選挙は新たな明るいスタートをもたらした
④ これまでと異なる様相を持ちながらも、欧州議会はEU予算、条約の批准、欧州委員会委員長の選任など、実態のある権限を行使していく
特に、4点目の欧州委員会委員長の選任については、EU条約で「欧州理事会は欧州議会選挙の結果を考慮して、新しい委員長の指名を行う」と定められている。大使は、「新委員長の選任については、新議会の新たな構成からすると、予定より時間がかかるかもしれない」と予測した。
さらにフロアEU大使は、「欧州自由民主連盟と緑の党・欧州自由連合という新たな親EU派の2政党こそが、EUの新たな基盤を築いていくだろう。新しい欧州議会がこれらの多種多様な勢力から構成されるということは、EU加盟国の社会の進展を反映している」と議会構成の多様性を歓迎した。
前述のとおり、5月末の欧州議会選挙後、7月2日に新議員が就任し発足する新たな欧州議会は、EUの執行機関である欧州委員会委員長および27名の委員から成る次期欧州委員会の構成に対して、決定的な発言権を持つ。まず欧州理事会でEU加盟各国の首脳が、リスボン条約に明記されているように本選挙の結果を考慮し、欧州委員会委員長候補者を定めて欧州議会へ提案する。その上で、候補者は欧州議会に選任される。その結果は、続く欧州理事会の常任議長、EU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長の選出などに大きな影響を与えると見られている。
今回、欧州委員会委員長候補として擁立された主要候補は、EPPのマンフレート・ウェーバー氏(ドイツ)、ALDEのマルグレーテ・ヴェスタエアー氏(デンマーク)、S&Dのフランス・ティーマーマンス氏(オランダ)が主要候補と見られている。ウェーバー候補は欧州議会議員として15年の経験を持つベテラン政治家であり、他方、ヴェスタエアー候補とティーマーマンス候補は、それぞれ現欧州委員会の委員と第一副委員長だ。
そのため、5月28日夜にドナルド・トゥスク欧州理事会議長は、欧州議会の選挙結果について話し合い、EU主要ポストの任命プロセスを開始する目的でEU加盟国首脳による非公式夕食会を開催した。今後、トゥスク議長はEU加盟国首脳と欧州議会議長、政党グループ代表それぞれの意見を聞いた上で、6月20日と21日の欧州理事会で候補者を選出することとなる。
なお、英国選出の73名の欧州議会議員は、英国とEUが脱退協定案を6月30日までに批准し、英国が7月1日にEUを脱退した場合、7月2日の新欧州議会には出席しない。また、英国が脱退した際には、欧州議会の総議席数を705に削減し、人口比補正のために14カ国で27議席が再分配されることになる。
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