2019年欧州議会選挙について教えてください

© European Union, 2019 – Source: European Parliament

EUにとって2019年は、5月下旬の欧州議会選挙に始まり、秋のEUの首脳人事および新欧州委員会の発足を控え、大きな節目の年となっている。中でも欧州議会選挙の結果は、EUの将来のみならず世界の他の地域の政治にも影響を与えるだろう。注目を集める欧州議会選挙の仕組みや課題、英国脱退(離脱)との関係などを説明する。

Q1. 欧州議会選挙のプロセスを教えてください。

1979年にEU市民による直接選挙が導入されて以来、欧州議会選挙は5年に一度行われてきており、9回目となる今回の選挙は、5月23日から26日までのいずれかの日程で、EU全域で行われます。各加盟国によって選挙日が異なることにも表れているように(図1参照)、欧州議会選挙法は、選挙の原則(普通、自由、秘密投票、比例代表制など)の大枠のみを規定し、加盟国がそれぞれ欧州議会選挙法細則を定めて選挙を行っています(図2参照)。

図1:各国の選挙予定日

出典:欧州議会「2019 European elections: National rules」Expected election dayより抜粋

図2:加盟各国の投票制度

出典:欧州議会「2019 European elections: National rules」Voting systemより抜粋

選挙権年齢(16歳のオーストリアとマルタ、17歳のギリシャを除き全て18歳以上)や被選挙権年齢(18歳から25歳までさまざま)が異なるほか、投票が義務の国(ベルギー、ブルガリア、ルクセンブルク、キプロス、ギリシャ)もあれば、そうでない国もあります。在外投票を認めない国もあれば、EU加盟国在住者に限定する国、あるいはEU域外からの投票を認める国もあります。事前投票が認められ、投票方法も郵送、在外自国大使館・総領事館・領事館での投票、電子投票やインターネット投票、代理人による投票まで認める国もあります。いずれの方法も、投票は1回しか認められていません。二重投票を阻止するため、各国は違反者に対する罰則規定を用意しています。

欧州議会選挙では、選挙権の年齢や投票方法など、EU加盟国によってそれぞれ個別の欧州議会選挙法細則が定められている
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前回の2014年選挙から、欧州議会内の各政治会派(political group、政党グループともいう)は、次期欧州委員会委員長候補者を指名して選挙運動を行い、その選挙結果を欧州理事会が考慮し、かつ適切な協議を行った後、特定多数決で委員長候補者を欧州議会に提案することになりました。そのため、今年も4月から5月にかけて選挙活動が展開され、欧州委員会委員長候補者による討論会も行われることになっています。

選挙結果は、最後の投票(今回は5月26日)が終わった翌日に公表されます。当選した議員候補者は、議会内の政治会派を結成するための交渉を行います。その上で、新欧州議会(2019年~2024年)が7月2日に招集され(図3参照)、議長と役職者を選出し、任期5年の活動を開始することになっています。

図3:欧州議会 2019年の主要な日程

Q2. なぜ欧州議会選挙が大事なのですか? また、EU域外にはどのような影響がありますか?

欧州議会は元々、EUの立法手続きにおいて諮問的な役割を担っていました。しかし、EUの深化とともに、特に1993年11月発効のマーストリヒト条約から2009年12月発効のリスボン条約に至るまでの度重なる基本条約の改正によって、立法機関としての権限が強化され、多くの政策領域で、加盟国の閣僚レベルの代表で構成されるEU理事会と肩を並べ、「共同立法」の権限を有するようになりました。さらに、欧州委員会委員長候補者を承認し、その後に提出される新しい欧州委員会委員候補者リストを「一体として」承認する権限を有し、実際に、新委員候補者の一部を差し替えさせた(2014年に1名、2009年に2名)こともあります。

欧州議会は、日本などEU域外国にとっても、より重要になってきています。例えば、2019年2月1日に発効した日・EU経済連携協定(EPA)は、欧州議会の承認とEU理事会の決定を経て、EU内の手続きを完了しました。日・EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)も同議会の承認と同理事会の決定を得ています。ただし、SPAについては全加盟国の批准が必要なため、2月1日より暫定的に一部が適用されています。

日・EU間でEPAの交渉が最終段階になって急速に進展した要因の一つには、EU側では「現会期内に欧州議会の承認を得て発効させたい」というタイムリミットがあった、との見方もあります。

Q3. 今回の選挙の注目点はどこにありますか?

一つは、投票率の低下に歯止めがかかるか否かです。1979年に第1回直接選挙(9カ国)が導入された時の投票率は61.99%でしたが、以後、毎回投票率は下がり続け、前回の2014年(28カ国)は42.61%と最低の投票率を記録しました。EUが立脚する基本原則の一つが民主主義であり、「民主主義の赤字」と批判されるEUにとって、欧州議会選挙は重要です。欧州の将来を決めるのは市民であり、市民の意見を反映させる手段の一つが欧州議会選挙なのです。

しかし、最も注目すべきは選挙結果です。1979年以来、中道右派でキリスト教民主党系の「欧州人民党(EPP)」と、中道左派で社会民主党系の「社会民主進歩同盟(S&D)」が2大政治会派を形成し、慣例として議長などの職務を2年半ずつ交替で務めてきました。2014年の選挙でも、EPPは221議席、S&Dは191議席と、2009年選挙よりも獲得議席は減少させましたが、過半数の376を上回る412議席を獲得しました。

今回の選挙では、2つの政治会派を合わせても過半数に届かないのではないかと予想されています。しかもEPPでは、難民の流入に対する壁の建設、難民割り当ての無視、大学の閉鎖など、EUの基本的価値に抵触するような問題を起こしてきたハンガリーのヴィクトル・オルバン首相の「フィデス・ハンガリー市民連盟」を除名する動きがありました。3月20日のEPP総会では、除名ではなく資格停止とすることによって、選挙直前の分裂という悪印象を避けようとしました。EPPは、ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長の後任にドイツのマンフレート・ウェーバーEPP代表を選出することを考慮していますが、それでも苦戦が予想されます。

その原因は、多くの加盟国で総選挙や大統領選挙などで大衆迎合主義的なポピュリスト政党が躍進し、連立内閣に入閣したり、イタリアのようにポピュリスト2政党(「同盟」と「五つ星運動」)による連立内閣も誕生したりしているからです。すでに前回の2014年欧州議会選挙でも、フランス、英国、デンマークでポピュリスト政党が第一党となり、全体としても反緊縮政策、反外国人、反移民・難民、反イスラムなどを訴える欧州懐疑的な議員が約25%を占めました。

今回の選挙では、右翼にはフランスの「国民連合」(旧「国民戦線」)、イタリアの「同盟」、ドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」、オランダの「自由党(PVV)」、オーストリアの「自由党(EPÖ)」、左翼にはギリシャの「急進左派連合(SYRIZA)」、スペインの「ポデモス(私たちはできる)」、イタリアの「五つ星運動」など、ポピュリスト政党の大躍進が予想されています。

このため、欧州委員会委員長候補者の選出をはじめとするEUの主要ポストの人事やEUの諸政策について、政治会派の連立交渉がこれまでと比べてはるかに難しく、複雑になることが予想されています。

EU加盟各国でポピュリスト政党が躍進する中、今年の欧州議会選挙の行方が注目される
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Q4. 選挙に向けてEUが取り組んでいるディスインフォメーション対策について、背景と現状を教えてください。

昔から選挙には、誇大公約、偽情報の流布、買収や脅迫など、内外から情報操作や選挙干渉などが行われてきました。しかし、今回の欧州議会選挙では、これまで以上にディスインフォメーション(虚偽情報)への対策が求められています。

その背景には、ロシアによるウクライナに対するサイバー攻撃をはじめ、2016年4月6日にEU・ウクライナ連合協定批准を巡りオランダで行われた国民投票で反対派が多数を占めた際、ロシアによる世論操作が疑われたことがありました。同年6月23日に英国で行われたEU離脱を巡る国民投票では、偽の数字を大書したラッピングバスによる脱退運動が展開されたこともありました。さらに米国では、同年11月4日の大統領選挙運動の中で、情報のハッキングやインターネットを使った世論操作を行うなど多様な問題が頻発しました。英国の『オックスフォード英語辞典(Oxford English Dictionary)』は、2016 Word of the Yearに「post-truth(ポスト真実。客観的な事実より、虚偽でも個人の感情に訴えるものの方が強い影響力を持つことを指す)」を選んだほどでした。

欧州の人々の83%が「フェイク(偽)ニュースは民主主義にとって脅威である」と考えている、また、インターネット利用者の73%が「選挙前の期間におけるオンライン上のディスインフォメーションについて憂慮している」との世論調査結果もあります。

これらを受け、特に2019年欧州議会選挙を念頭に、欧州委員会とフェデリカ・モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表は、共同政策文書『ディスインフォメーションに対する行動計画(Action Plan against Disinformation)』を2018年12月5日に公開しました。

具体的には、第1の柱:ディスインフォメーションの探知、分析、公表の改善(EU諸機関や加盟国で、デジタル機器、データ分析技術、専門職員への投資を行うなど)、第2の柱:ディスインフォメーションに対する共同の対応と協力の強化(早期警戒システム〈RAS〉の設置、情報交換のための加盟国の窓口の指定など)、第3の柱:ディスインフォメーションに取り組むための民間部門の動員(ディスインフォメーション対策に関するEU規模の実務規範の実施、GoogleやFacebook、Twitterなど主要なオンラインプラットフォーム運営企業との協定を締結し、虚偽と判断された投稿や情報の削除、2019年1月に公開されたこれらの企業の対策・取り組みの実施に関する定期現状報告および対応が不備な場合の規制行動)、第4の柱:注意喚起と社会的レジリエンスの改善(欧州内外で対象を絞った啓発運動の喚起、ディスインフォメーションを認識し、公表する上での市民社会の積極的参加、独立したメディア、ファクトチェッカーと大学などの研究者との協力支援など)があります。

以上のように、4つの柱から成るEU諸機関と加盟国の行動計画を通じて、ネット時代における公正な欧州議会選挙の実施を目指しています。

欧州議会選挙でのディスインフォメーションに対するEUの取り組みの一つ、「早期警戒システム」について説明するビデオ
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Q5.英国のEU脱退(離脱)と議席配分はどうなりますか?

英国は、2016年6月23日の国民投票の結果を受け、2017年3月29日にEU脱退の意向を正式にEUに通告し、2019年3月29日に脱退することが予定されていました。

英国がEUから脱退すると欧州議会の総議席数と国別配分はどうなるのでしょうか。現行のEU条約は、第14条第2項で、議員数を750名に、議長1名を加えて総議席数を751名と定め、その国別配分を最少6議席、最大96議席としています。前回の選挙(2014年)で英国に配分されていた議席は73議席で、英国が脱退することを前提に、そのまま73議席を削減して総議席数を678議席とする案、73議席全てを人口比補正のために再配分する案、それを「汎欧州候補者リスト」とする案などが提案されていました。結局、2018年2月に総議席数を705名に削減し、27議席を人口比補正のために再配分し、46議席を将来の拡大のために残しておくことが決定されました。

その結果、フランスとスペインに5議席、イタリアとオランダに3議席、アイルランドに2議席、ポーランド、ルーマニア、スウェーデン、オーストリア、デンマーク、フィンランド、スロヴァキア、クロアチア、エストニアに1議席が、それぞれ追加配分されました。この結果、96議席のドイツはそのまま最大で、エストニアが7議席となり、6議席の最少国のグループ(キプロス、ルクセンブルク、マルタ)から脱しました。

図4:欧州議会選挙の議席数(2014年と2019年)

 2014年  国名  2019年  変更
 21  ベルギー 21
 17  ブルガリア 17
 21 チェコ 21
 13  デンマーク 14  +1
 96 ドイツ 96
 6  エストニア  7  +1
 11  アイルランド  13  +2
 21  ギリシャ  21
 54  スペイン  59 +5
 74 フランス  79 +5
 11 クロアチア  12 +1
 73  イタリア  76  +3
 6 キプロス  6
 8 ラトビア  8
 11  リトアニア  11
 6  ルクセンブルク  6
 21  ハンガリー 21
 6  マルタ  6
 26  オランダ  29  +3
 18  オーストリア  19  +1
 51  ポーランド  52  +1
 21  ポルトガル  21
 32  ルーマニア  33  +1
 8  スロヴェニア  8
 13  スロヴァキア 14 +1
 13  フィンランド 14 +1
 20  スウェーデン 21 +1
 73  英国
 751  合計  705  

出典:欧州議会「European elections in 2019」を基に作成

ところが、2018年11月半ばに英政府とEUとの間で合意したEU脱退協定と政治的宣言の案を巡り、英国内の政治は大きく迷走し、欧州議会選挙も影響を受ける可能性が出てきました。

本稿執筆時点では、英下院はいまだに脱退協定案を採択しておらず、3月29日から延長が認められた期限、つまり4月12日までに英国は今後どのような道を取るのかを示す必要があります。まだ「合意なしの脱退」もあり得ます。欧州理事会は、「2018年11月の脱退協定案そのものは再交渉の対象としない」としていますが、1年の「柔軟な延長」の提案もあり、英国での総選挙や2度目の国民投票を視野に入れながら、英国が長期の交渉期間延長(例えば2020年末日)を求め、他の27加盟国が再度の延長を認めれば、それも可能になります。

ともあれ、5月23日~26日以降になっても英国がEUに残留する場合には、英国も欧州議会に選挙民の代表を送り、欧州議会選挙を行う義務があります。

その場合、いろいろな問題が考えられます。英国選出の議員数は元の73議席となるのか? 欧州議会の総議席数は、778議席とするのか? あるいは再配分された27議席は凍結され、751議席が維持されるのか? 英国では、2014年と同じような選挙方式で、5月23日~26日の間に行うのか? あるいは2019年7月1日まで任期のある現議会(2014年~2019年)の議員について、そのまま任期を延長するなど、いろいろな案が取り沙汰されています。

全ては、英国のEU脱退が協定に基づいて実現するのか、あるいは協定なしで脱退するのか、いつ脱退するのか、あるいは「脱退通告」を撤回して脱退しないのかなどの選択肢にかかっています。

(2019年4月8日 脱稿)
執筆=田中俊郎(慶應義塾大学名誉教授、ジャン・モネ・チェア・アド・ペルソナム)

※本稿は執筆者による解説であり、必ずしもEUや加盟国の見解を代表するものではありません。

 

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関連情報
欧州議会選挙2019 (公式ウェブサイト、英語)