2016.11.22
EU-JAPAN
駐日欧州連合(EU)代表部は、政策研究大学院大学(GRIPS)と共に、2016 年10月1日に「第7回日EU科学政策フォーラム」を開催した。例年のように日本とEU双方から政策立案者、研究助成機関長、大学学長ならびに企業トップが参加、最も重要なテーマの一つにもなっている「次世代の人材育成」を議題に、活発な議論が展開された。フォーラムの模様を中心に、科学技術イノベーション(Science, Technology and Innovation=STI)分野における日本とEUの最新の政策や課題、さらに新たな展開などについても報告する。
EUにとって戦略的な重要性を持つ日本との協力関係。とりわけSTI分野においては、情報交換などが活発に行われている。このような両者の協力関係を一層強化するため、2009年には「科学技術における協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定」(日・EU 科学技術協力協定)が署名され2011年に発効した。
さらに2011年には、科学技術政策に関する情報・意見交換、両者に共通した研究上の優先事項や関心事項の特定、研究・イノベーションプログラムへの相互参加などを討議する場として「日EU科学技術協力合同委員会」が発足。合同委員会は、これまでに2011年、2013年、2015年の3回にわたって開催され、2015年のブリュッセル会合では「日・EU 間の研究・イノベーションにおける新たな戦略的パートナーシップに関する共同ビジョン」が採択されている。
この中では、多様なレベルでの頻繁な協議、戦略的分野における分野別協力への集中、協力を円滑化する枠組み,STIに関する政策の意見交換、および支援活動と市民参加の5分野における行動を明確化。情報通信技術、航空および希少原料を含む材料分野における日・EU間の実体的な研究イノベーション協力を認識するとともに、これらの分野に加え、健康・医療分野研究、環境、エネルギーおよび高エネルギー物理学の分野において、協力強化の戦略的な意義に関し共通の見解を有するものになっている。
このように科学技術分野において緊密な連携を行っている日本とEUでは、科学技術政策分野における相互理解をさらに深め、研究における優先事項や社会的課題の多くを共有し、パートナーシップを強化していくことを目的に日EU科学政策フォーラムを開催している。同フォーラムは毎年10月上旬、「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(Science and Technology in Society forum=STSフォーラム)」※1の前日に開催されている。
今回で7回目となった本フォーラムは、2016年10月1日に京都市内のホテルで開催され、日本と欧州から、40名以上の政策立案者、研究助成機関長、大学学長ならびに企業トップが参加したほか、40名のオブザーバーが一堂に会し「STI分野における次世代の人材育成に向けて」をテーマに、日・EU間のパートナーシップについて議論した。
STI分野における人材の育成に関しては、将来有望で創造的かつ革新的な研究者や専門家を教育・育成する方法や改革の導入、研究助成、女性参画の奨励、学界・産業界間の流動性、博士号以降のキャリアの開発、また研究者を支援し、研究成果を最大限に生かすSTI分野において専門家の体制を整えることなどについて、世界的なレベルで話し合いが行われている。
例えば、主要国首脳会議(G7サミット)の一環として開催された本年5月の「G7茨城・つくば科学技術大臣会合」では、「次代を担うSTI分野人材の育成」が議題に上がり、特に女性や次世代のリーダー育成に焦点が当てられた。また本年1月に閣議決定された日本の「第5期科学技術基本計画」においても、若手の人材育成・活躍促進、大学の改革・機能強化が中枢の一つに挙げられている。またEUでも同様に、STI分野に投じる予算の見直しや、人材流動性の支援、また社会全体における科学的文化の向上といった多岐にわたる構想が紹介されている。
フォーラム開催にあたって、ヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラ駐日EU大使が「(フォーラムの目的は)STI 政策分野における日・EUの相互理解、パートナーシップを深めることにある」と確認したのに続き、尾身幸次STSフォーラム理事長が「日・EU間における将来の協力関係を築いていくための土台になると考えている」と述べ、さらに角南(すなみ)篤政策研究大学院大学副学長が「率直で形式張らない議論を奨励する場であることも重要」とそれぞれ挨拶した。
フォーラムでは、まずEUと日本双方からSTI 政策分野の概要に関する報告が行われた。アントニオ・ビセンテ欧州委員会カルロス・モエダス研究・科学・イノベーション担当委員官房長は、次期資金助成プログラム「第9次研究・技術開発枠組み計画」※2の方向性や、卓越した科学の重要な役割、そして社会の幅広い分野と国際的パートナーとの関係構築について最新の報告を行った。また、日本とEUにおける研究の優先順位と政策課題に関して、「両者が足並みを揃えることも肝要だ」と述べた。そして、多様な分野に卓越した科学を導入すること、産業界を引き込むこと、そしてその成果を測定することの重要性を強調した。
ポール・ルビック欧州議会科学技術選択評価委員会(STOA)委員長は、部門、機関、研究分野間の壁を取り除き、それぞれの橋渡しをする重要性を強調した。また、現在まさに開発が進行中の新しいテクノロジーの役目、STI分野の重要性を全面に打ち出している日欧双方の共通性、起業家を助成することの重要性について語った。
日本側からは原山優子内閣府科学技術イノベーション会議常勤議員が、第5期科学技術基本計画における人材育成の重点を説明。必要なモノやサービスがユビキタス化されることにより、生き生きと快適に暮らすことのできる「超スマート社会」の実現に向けた一連の取り組み「Society(ソサエティー)5.0」※3に触れ、科学技術分野と社会がより密接に関係し合うことの必要性に言及した。
また、島尻安伊子元科学技術政策担当大臣も、原山議員と同様に、社会の重要性を強調するとともに、「Industrie(インダストリー)4.0」※4の焦点が工業分野だけに限定されていることを指摘し、イノベーション政策の目的は産業だけではなく社会のためでもあると述べた。
政策概要の報告後は、助成機関、大学、政府官公庁など6つの機関を代表する日欧の専門家によるプレゼンテーションが行われた。起業家精神、性の多様性、公共的関与(public engagement)、研究者の国際交流、研究と産業の連携促進のほか、年金制度と共働き、評価基準、博士号取得に要する期間、専門職博士号、中小企業(Small & Medium Enterprises=SMEs)への取り組みなどについて報告があった。
また人材育成面では、国際的な研究開発に参画できる人材の育成、専門的な研究管理者の必要性、さまざまな学問領域をつなぐ革新的な教育プログラム、人工知能や「モノのインターネット(Internet of Things=IoT)」といった革命的な研究やテクノロジーの重要分野に取り組む人材訓練など幅広いテーマに関するプレゼンテーションや討議が展開された。
科学技術分野で緊密に連携する日本とEU(EU MAG 2015年11月 特集)
欧州研究会議~最先端研究支援で未来に貢献~(EU MAG 2016年4月 政策解説)
※1 ^ 世界中から科学政策分野の指導者層が集まり、科学技術と社会に関する問題を人類に共通なものとして議論する「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」は、同分野において世界でもっとも重要なフォーラムの一つ。
※2 ^「研究・技術開発枠組み計画(Framework Programme=FP)」は1984年に研究イノベーション分野の多年次資金助成プログラムとして開始された。2014年から2020年までを対象とした現行の第8次計画は「ホライズン2020」と呼ばれ、800億ユーロの規模を持つ。
※3 ^ 狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く新たな社会を生み出す変革を科学技術イノベーションが先導するという意味。
※4 ^ 工業のデジタル化によって21世紀の製造業を根本的に変革しようとするドイツ政府の取り組み。第4次産業革命という意味合いがある。
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