2015.11.6
EU-JAPAN
2015年9月に駐日欧州連合(EU)代表部の政治部に着任した、フィエスキ公使参事官・政治部部長、サンチェス一等参事官、スタニェツキ一等書記官の3人に、自身の抱負、今後の日欧関係、そして日本への想いなどを聞いた。
ファビアン・フィエスキ公使参事官・政治部部長
学生時代の日本への交換留学を皮切りに、その後も複数回の日本滞在を経験しているフィエスキ部長は、母国フランスの大学で日本語の授業を持っていたことがあるほど日本語が堪能な、対日関係のエキスパート。これまでフランスの外交官として働いてきたが、今回初めて、EUの外交官となることを自ら選んだ。「第二次世界大戦後、難しい決断をしたEU創設の父たちに感謝しています。おかげで、われわれの世代は、永続的な平和、自由な行き来、EU市民としてのアイデンティなど、EUの遺産を享受しています。だからこそ、私はEUを信じているし、そこに貢献したいと思ったのです」
EUの職員はいずれかの加盟国の国民であるが、自国の利害を離れ、EU全体の利害を考え行動しなければならない。「EUの場合は枠組みが明確なので、EUの立場を主張することは、ある意味、楽です。フランスがEUの議長国として、自国の考えを持ちつつ加盟国をまとめようとしていたときの方が大変でした」とのことで、フィエスキ部長はそこに難しさは感じていない。
今、日本とEUは、より強固なパートナーシップを築くため、戦略的パートナーシップ協定(Strategic Partnership Agreement=SPA)と自由貿易協定(FTA、日本では経済連携協定〈EPA〉と呼ばれている)の2つの協定の締結に向けた交渉の真っ最中である。本年5月の日・EU定期首脳協議では、交渉の進捗を歓迎し、望ましくは2015年末までに合意に至るよう交渉を進めることが確認された。
駐日代表部の政治部は、東京とブリュッセルで交互に開かれるSPA交渉会合をつぶさに追い、必要なサポートを提供している。その陣頭指揮にあたるフィエスキ部長は、「地理的に遠く離れ、文化的にも大きく異なる日本とEUの間には、さらにより良い関係を築き保つためのポテンシャルが残されています。車やワインなど、たびたび取り沙汰される個々の通商上の問題の解決はもちろん必要ですが、SPAは、例えば気候変動や人の健康などの問題に、日本とEUがさらに協力して取り組めるような、新しい法的な枠組みを提供するのです」と説明する。加えて「私は何度も日本を訪れ、ここで学び、生活し、仕事をし、結婚も子育てもしてきました。私のバックグラウンドは、EUの持つさまざまな意義を日本の人々にうまく説明することに役立つだろうし、身につけたスキルもここで活かせると思っています」と、貢献への意欲を見せる。
日本人の妻と2人の子どもを持つフィエスキ政治部長。滞日経験が豊富とあって武道などの趣味も多彩だ。「前回の日本勤務時には、合気道で黒帯まで取りました。しかし、それから何年も経ってしまい、黒帯を締めるのははばかられ、かといって締めないと嘘をついていることになるし、どのタイミングでどのような顔をして道場に行けばいいのか、再開のタイミングを測りかねているところです」と笑うフィエスキ部長。道場再デビューの日が近いことを期待したい。
アナ・サンチェス一等参事官
スペインの大学と大学院でEU法を学んだサンチェス一等参事官(以下、参事官)は、その知識を活かし、ブリュッセルのEU本部で、組織犯罪に対する国家間警察協力や不法移民をめぐる対外国境管理などの司法協力分野の職務に就いたほか、死刑制度を含む人権問題を中心に、対スイスや対米関係を担当してきた。そして今回はその範囲がアジアに広がった。
「EU全体の利益のために構築された超国家的法律であること」に関心を持ち、EU法を専攻した彼女が、EUで働くのは極めて自然の成り行きだろう。「加盟国にはそれぞれの事情があり、むろん反EUの考えの人もいますが、長く学んだEU法の成り立ちと同じような視野に立ち、EU加盟国どうし、そこに住む人々どうしがより協調して共存する一助となれることに誇りを感じています」と、自分が選んだキャリアに納得している。日本勤務では「私自身が、日本とEUをつなぐ『目』となり、『耳』となり、『口』になりたい」と望んでいる。
EU諸機関で働く職員はだいたい、少なくとも3言語は話せるそうだが、その中でもサンチェス参事官のように6つの言語(スペイン語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語)を操る外交官は珍しい。大学在学中から外交官を目指していた彼女にとって、外国語を習得することはEU法を学ぶ上でも、キャリアを獲得するためにもとても重要だった。EU本部に勤務するようになって驚いたことは、職員のみならずブリュッセルで働く多くの一般の人が3言語以上を話すこと。それに触発されていろんな言語を学んだ。「でも、授業をさぼって落第したこともあるんですよ」と照れ笑いしてお茶目な一面も見せた。日本勤務にあたり、「仕事面はもちろん、東京での私生活においてもとても役立つ」と考え、日本語の学習も始めた。
妻であり、小学生の男の子の母でもある。仕事においては、家族を持ちつつ任務についている他の外交官と変わりはないので、女性である自分の立場が特殊だと感じることはない。「ただ、夫はとても協力的ですが、料理が得意じゃないので、仕事で遅くなっても私が作らなきゃならないんですよね」と苦笑い。仕事に、家事に、育児に忙しい毎日でゆっくり何かの趣味に取り組む時間はなかなか作れないと言いつつも、プライベートでは家族と一緒にプールに行ったり、ブリュッセルから連れてきた愛犬と散歩をしたり、息抜きの時間は忘れない。
食べるのが大好きだという彼女の好物は「天ぷら」。これまで生魚を食べる習慣がなかったため躊躇していた「刺身」についても、これからチャレンジしていきたいという。公私にかかわらず、広島や長崎をはじめ、可能な限り日本の各地に足を運びたいというサンチェス参事官。東京の魅力について「ここは買い物天国だわ……お金がかかって仕方がないけれど」と微笑んだ。
ヴィクトル・スタニェツキ一等書記官
中欧のポーランド出身のスタニェツキ一等書記官(以下、書記官)は、自国がEUに加盟したことによってもたらされた”自由”と”可能性”に大きな意義を見いだしている。「かつて、私の祖国はEUとは違う陣営にありました。しかし、(EUに加盟したおかげで)私はポーランド人でありながら、ブリュッセルに10年住み、子どもたちはそこで生まれてフランス人学校に通いました。そして今は日本にいます。こんなチャンスにあふれた環境で、チャレンジをしないなんて考えられません。これこそが、私がEUで働く理由です」と力強く語る。
日本での勤務を希望した理由は、日本は魅力にあふれているからだと言う。文化やそこに住む人々などについて、ポーランドや欧州諸国とは大きく異なりミステリアスなところに引き付けられるのだそうだ。「そうであるならば、日本に住んで日本や日本人への理解を深め、EUとのよりよい関係を築くために役立とう」と考えた。言語体系が共通する他の欧州の言語と違う日本語は「相当難しい」とスタニェツキ書記官。とはいえ、「日本語の習得にも積極的に取り組み、任期を終える4年後には日本について相当に詳しくなっていたいと思ってがんばります」と笑顔を見せた。
スタニェツキ書記官は、11月中旬に開催される「EUがあなたの学校にやってくる」と銘打った、EUおよびEU加盟国の大使や外交官が日本各地の高校を訪れて高校生と直接の交流を図る出張授業で、講師として都内の高校を訪れるのを心待ちにしている。既に地方のEU協会のイベントにも参加した彼は、「仕事で日本の各地を訪問するのに加え、日本から近いアジアの各地にも家族とともに積極的に足を運ぶつもり」と意欲満々だ。
スタニェツキ書記官は、これまで自身が担当してきた米国やブラジルに比べて、「反応の仕方や協力する姿勢などは、日本の方が、欧州に近い部分があると感じます」と言う。日本人の几帳面さや真面目さも影響しているのか、日本では「仕事がスムーズに進み、快適だ」という。「私たち自身もまだまだ学ぶことの多いEUについて、過去の仕事上の経験を含め、より詳しく日本の人々に伝えることが、自身の日本での役割の一つでもあります」と話す。趣味は家具などの木工だが、大きな道具を持ってこられなかったため「趣味はブリュッセルに置いてきてしまったんですよ」と笑う。それでも、小さな物を作って少しずつ楽しんでいきたいと考えている。
プロフィール
ファビアン・フィエスキ Fabien FIESCHI
駐日EU代表部公使参事官・政治部部長
パリ政治学院卒業。在学中に慶應義塾大学との交換留学プログラムに参加。1995年~1997年、在東京フランス領事館勤務。外交官試験合格後1998年~2001年フランス外務省戦略局にて軍縮・不拡散担当。2001年~2002年日仏外交官交流事業で日本の外務省に派遣。2002年~2006年、在日フランス大使館一等書記官。2006年~2009年国連フランス政府代表部一等書記官。2009年~2012年フィヨン仏首相官房技術顧問。2012年フランス外務省アジア・オセアニア局極東課長を経て2015年まで在ボストン・フランス総領事。2015年9月より現職。
アナ・サンチェス Ana SANCHEZ
駐日EU代表部政治部一等参事官
1993年、スペインのサラゴサ大学ロースクール卒業。2005年にEU法、国際法の博士号取得。2001年~2003年欧州委員会不正対策局、2003年~2010年同司法・自由・安全総局。2010年より欧州対外行動庁(EEAS)でスイス担当デスク、後に米国デスクを歴任。2015年9月より現職。
ヴィクトル・スタニェツキ Wiktor STANIECKI
駐日EU代表部政治部一等書記官
ポーランドのアダム・ミツキェヴィチ大学卒業、フランスのナンシー大学で欧州概論の学位取得。2004年にポーランド経済省に入省の後、2005年に欧州委員会企業総局において中小企業政策を担当。2006年~2008年ベルギー・ブリュッセルのパーソン・マステラ社にて広報コンサルタントとして勤務。2008年~2015年EU欧州対外行動庁(EEAS)本部において、米国およびブラジル担当などを歴任。2015年9月より現職。
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