2019.6.18
FEATURE
一年を通して、欧州各都市の魅力を世界へアピールするEUの文化事業「欧州文化首都」。2019年は、ブルガリア第2 の都市・プロヴディフとイタリアの古都・マテーラで開催される。長い豊かな歴史遺産を生かしつつ、国内外のアーティストやネットワークがつながって未来志向のメッセージを発信するイベントづくりが、両都市で開かれる欧州文化首都の特徴だ。日本人アーティストも参加し、EU・ジャパンフェストが支援するプログラムのほか、盛りだくさんのイベントが歓迎してくれる。
欧州文化首都は、欧州の各都市が持つ文化的な価値をアピールしようと1985年に始まったEUの通年プロジェクトで、初回はアテネ、近年は毎年2カ国・2都市で開催されている。世界各国から観光客が訪れ、開催国の他文化と触れ合う場になっていることはもちろん、地元の市民が自分たちの街を見直す良い機会であり、長期的な経済発展にもつながっている。芸術や食、歴史、文化、伝統、ライフスタイルといったさまざまなテーマで、講演会やワークショップ、演劇、コンサートなどの多彩なイベントが開かれ、街の魅力を余すところなく堪能できる。本年はブルガリア・プロヴディフ(Plovdiv)とイタリア・マテーラ(Matera)が選ばれた。
2007年にEUの加盟国となった東欧ブルガリアは、北はルーマニア、東は黒海、南はトルコとギリシャ、西は北マケドニアとセルビアに接している。プロヴディフは、ブルガリア中南部に位置する都市で、人口は首都ソフィアに次ぐ約35 万人。古来、欧州とアジアに挟まれた交通の要衝地であり、商業が栄えてきた一方で、ローマ帝国やオスマン帝国の支配下にあった苦難の歴史を経てきた。ローマ時代に造られた古代の円形劇場をはじめ、旧市街は時間を忘れさせるような歴史的たたずまいを見せる。1972年に岡山市と姉妹都市提携しており、岡山市から寄贈された桃太郎の像もある。
欧州文化首都「プロヴディフ2019」のモットーは「Together(一緒に)」。これは、より一体化したコミュニティーへの道筋にとどまらず、文化がもっと身近になることで、人生をより意味深いものにし、街を活気に満ちた魅力的なものにしていこうというプロヴディフのビジョンを示している。アーチや丘、古代劇場、川、キリル文字、多層な歴史など、プロヴティフの愛すべきもの、誇りとしているもの全ての意味が、7本の曲線で描かれた象徴的なロゴの中に込められているそうだ。
音楽や演劇、芸術、オペラ、スポーツなどのさまざまな分野で、300以上のプロジェクトが用意され、歴史や文化遺産、そして街が直面している課題を取り上げている。ブルガリアが発祥とされるキリル文字について展示したイベントをはじめ、西バルカン半島やローマ、トルコのコミュニティーとの共同演劇作品もある。11月には、岡山県のお祭り「うらじゃ」の紹介も予定されている。
夏に催されるイベントのハイライトとして、市内を流れるマリツァ川の岸辺でピクニックやパレードなどを行うもの。橋の上で繰り広げられる、音楽と光を駆使したイブニングショーも見逃がせない。
プロヴディフで最も長く続いているアートプロジェクトの一つ。市内70カ所以上で、さまざまな趣向を凝らしたさまざまな野外アートプログラムが無料で開かれ、何千人もの人々がアートの世界を楽しむために足を運ぶ。例年通り世界各国のアーティストが参加し、日本からはベルリンを拠点に活躍するダンサー・美術家のハラサオリが、ダンスフィルムプロジェクト『A horse will never concern』を披露する。
ブルガリア出身の多才な写真家・映像作家ユーリアン・タバコフが撮った、同国の名女優ズラティナ・トデヴァの最晩年の写真と、共演アーティストのマリイ・ローゼンの肖像写真を展示している。トデヴァの年老いた肉体が、道徳や審美感について、また老いや死、愛、始まり、そして終わりについて問いを投げ掛ける。
マテーラはイタリア南部のバジリカータ州に位置する、人口約6万人の都市。1993年にユネスコの世界遺産に登録された「マテーラの洞窟住居と岩窟教会公園」で知られる。旧石器時代から、凝灰岩の岩壁を利用したサッシと呼ばれる洞窟住居群に古代の人々が住んでいたといわれ、中世にはキリスト教の修道士が住み着き、13世紀のドゥオモ(大聖堂)のほか、約130の岩窟教会などを建造した。貧困と衛生状態悪化のため、20世紀半ばには“イタリアの恥”とさえ呼ばれ、サッシの住民は一時強制退去を余儀なくされたが、現在は観光地としてサッシを利用したホテルが開業するなど、街は活気を取り戻している。
欧州文化首都「マテーラ2019」では「Open Future(開かれた未来)」をモットーに、「古代の未来」「継続性と混乱」「熟考とつながり」「ユートピアとディストピア」「ルーツとルート」という5つのテーマから提起された疑問に答えて、未来の発展に寄与することを目指す。365日の間に50のオリジナルプロジェクト、4つの大型展示会、1,500もの大小のイベントが開催され、各テーマに沿った5つの巡回コースが設けられる。
「マテーラ2019パスポート」を購入することで(大人19ユーロ)、観光客も一時的にマテーラ市民となったと考えて、会期中のあらゆるイベントに参加できる。現地のインフォメーションセンターで入手可能な欧州文化首都マップでは、イベントがそれぞれ5つのテーマごとに色分けされていて分かりやすくなっている。
2つのプロジェクトでマテーラの夜を光で満たす。『ルーメン』では市内15カ所をライトアップする一方、『ソーシャルライト』では4,000以上の人々がオープン・デザインスクールのワークショップに参加し、バッグライトという持ち運べる明かりを作って歩き回り、マテーラの通りを照らす。
「1,000年の歴史を持つ地下環境での知識は、未来都市や他の惑星での生活に役立つだろうか?」と見る人に問い掛ける。地下景観や建築、文明を作り出した洞窟と芸術を通して、旧石器時代から今日までの時空間を旅する、洞窟住居で有名なマテーラならではの展示会。
かつて貧しさ故に“イタリアの恥”とまで呼ばれたマテーラ。「恥」を「美」へと昇華する若きアーティストたちの挑戦として、コメディータッチで描かれる意欲的な舞台パフォーマンスだ。イタリアや北マケドニア出身の俳優陣に混じり、日本の俳優、田代絵麻も出演する。
ベルギー・アントワープでの欧州文化首都開催に際して設立された「EU・ジャパンフェスト日本委員会」は、1993年以来、日本関連プログラムを継続して支援している。今回の第27回EU・ジャパンフェストでも、能や武道などの伝統文化はもちろんのこと、現代的なインスタレーション、アニメーション作品など、今や欧州・日本を問わずグローバルに広がる文化のイベントが両都市や日本で企画されている。
プロヴディフでは、6月29日、30日にアニメ&ゲームフェスティバルが開かれ、日本のポップカルチャーについての講演や展示、上映会をはじめ、コスプレコンテストやEスポーツ、コンピュータゲームなどが繰り広げられる。9月26日~28日には、欧州の精神も融合した山本能楽堂の新作能『オルフェウス』が古代ローマ劇場で上演され、ブルガリア出身の俳優も参加する。
1999年から続く国際青少年音楽祭では、子どもたちが早い時期でグローバルに言語を超えた活動を通して友情を育むことを目的に、現地でホームステイと2回のコンサートを体験する。今年は埼玉県から所沢フィーニュ少年少女合唱団、鳥取県から山陰少年少女合唱団リトルフェニックスの2団体が出場。
マテーラでは、「境界」を強く意識した現代美術家の栗林隆によるインスタレーション作品『A Letter from Einstein』および『Entrances』が展示されるほか、気鋭のオーディオビジュアルアーティスト、黒川良一が繰り広げるサウンドアートプロクジェクト『IN ViTRO』が9月7日~8日に催される。自身もイタリア留学を経験したアコーディオン奏者Cobaも、満を持して10月のアコーディオン・フェスティバルに参加予定だ。
プロヴディフ、マテーラ両都市と日本の間で、50名ずつ日欧のアーティストが交流する「パスポートプログラム」は、さまざまなジャンルのアーティストを結び付ける未来志向のプロジェクトとして、来年以降も継続していく予定である。
欧州文化首都は、2020年のリエカ(クロアチア)とゴールウェイ(アイルランド)の2都市、2021年のエレフシナ(ギリシャ)、ティミショアラ(ルーマニア)、そしてノヴィ・サド(セルビア)の3都市が決定している。それ以降は、3年ごとにEU加盟を目指す国の参加枠が確保されることになり、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、北マケドニア、モンテネグロ、セルビアの各都市にとっても開催の可能性が高まっている。欧州各地の多様な文化に触れることができ、互いの理解が進むきっかけとなるだろう。
欧州文化首都は、開催までに数年に及ぶ準備期間が必要だ。一例を挙げれば、ドイツ北部のハノーファーは、2025年の開催に向けて2018年に立候補を表明。現在、市民なら誰でも参加できる会合を定期的に開いたり、市内20カ所で約5,000人の市民に対し、同市の文化に期待することを尋ねたりするなどの準備を進めている。現在ドイツでは8都市が名乗りを上げているが、2019年の終わりに国内で第一次審査があり、さらに2020年の国内第二次審査で1都市に絞られる。それからは他国との競争となるが、文化首都の目的は開催もさることながら、その都市ならではの価値を生み出すことにほかならない。多くの人々を巻き込み、過去を振り返って現在について熟考し、未来を展望する、実に壮大な挑戦なのだ。
古代遺産を有する欧州でも最古の都市の一つとして、私たちが誇りに思うプロヴディフ。この都市と市民のアイデンティティーは、幾重にも重なる歴史の層から生まれました。異なる文化やさまざまなコミュニティー、グループが出合うことが常に大きなチャレンジであるとともに、街の発展にとって最高の推進力となっています。欧州文化首都のモットーである「Together」は、私たちのコミュニティーが一体化するための道筋であるだけでなく、活気ある魅力的な街づくりのビジョンでもあります。EU・ジャパンフェストは、日本のアーティストが欧州でも積極的な活動ができるように、また欧州のアーティストが来日してプロジェクトを展開できるようにサポートし、欧州文化首都に貢献してくれています。日本の読者に心からの敬意を表し、この経験を“一緒に”共有できるよう、みなさまをご招待します!
マテーラ2019のプログラムは、私たちの地元であるバジリカータ州と、幅広いジャンルの国内外のアーティストやネットワークがつながって作られたものが半分を占めていますが、残りの半分は、もう一つの欧州文化首都であり、友人でもあるプロヴディフの人々をはじめ、EU・ジャパンフェストの協力も得ながら実現した国際的なコラボレーションによるもので、実に多彩な活動が予定されています。これらのプロジェクトは、EU・ジャパンフェストに関わってくれたアーティストやチームのみなさんとの、平和と揺るぎない関係のたまものであり、日本の深い精神と本質を私たちに教えてくれます。 2019年だけでなく、将来にもこのレガシーを残していきたいですね。日本の人々にも私たちの美しい街、欧州文化首都を発見していただけますように、心からみなさんのお越しをお待ちしています。
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