2017.6.6

FEATURE

欧州文化首都2017

欧州文化首都2017

欧州連合(EU)加盟各国の魅力を伝える「欧州文化首都」。本年は北欧オーフスと南欧パフォスの2都市が、特色を生かした活気ある文化的な催しで世界各地から訪れる観光客や参加者を魅了している。両都市の注目のイベントとともに、EUとつながりの深い日本が関わるプログラムも紹介する。

「欧州文化首都」であまり知られていない街の魅力を発信

欧州文化首都は、「真の欧州統合のためには経済や政治だけでなく、文化の相互理解が不可欠」という考えに基づき、1985年に始まった通年文化事業だ。第1回のギリシャ・アテネを皮切りに、現在は毎年2カ国・2都市で開催されている。選ばれた都市はEUから文化助成金を受け、1年間にわたって音楽や演劇、文化紹介などのさまざまな催しを実施する。地元や開催国だけでなく、欧州中、また域外からも訪問客があることから、経済的効果が大きく、地域が活性化する。32年目を迎えた本年の開催都市である、北欧デンマークのオーフスと、地中海の東に浮かぶキプロスのパフォス。国土や人口規模が比較的小さい国の、これまであまり知られていなかった2都市がこの一大イベントで活気づき、地元住民や訪れる人々の誰もが楽しめる魅力を発信している。

「再考しよう」を合言葉に、街の魅力を引き出すオーフス

デンマークといえば、日本でもなじみのあるアンデルセンの童話や、おもちゃのレゴが生まれた国。オーフスは北海に突き出たユトランド半島の北東部に位置し、人口30万人を擁するデンマーク第2の都市である。約1,200年前にバイキングが発見した要所で、北欧の中でも古い歴史を誇り、現在は中世の町並みと近代建築が共存した活気ある街を作り出している。

左:昔ながらの佇まいを再現した野外博物館「デン・ガムレ・ビュ(古い町)」の伝統的な家屋/右:往時の雰囲気を味わえる観光客に人気の馬車 © VisitAarhus

デンマークにおける欧州文化首都の開催は、1996年のコペンハーゲンに続いて2度目である。本年の通年イベントでは、芸術や演劇、舞踊、音楽、文学、料理、建築、デザインなどの幅広い分野で、街の魅力を演出する。

欧州文化首都「オーフス2017」のテーマは「再考しよう(Let’s Rethink)」。今、人々が置かれている環境は、新しいソーシャルメディアやグローバル化する社会の中で大きく変化しながら、さまざまな課題に直面している。活路を見いだすためにも、既存の価値観を文化の面から「再考」して、新しい実践やパートナーシップ、ビジネスモデル、成長のあり方を模索していこうという試みだ。

左:2017個の電灯によって「RETHINK」の文字が浮かび上がる演出で盛り上がった、カルチャーナイトの様子。文化首都への最終立候補に先立って行われた(2011年10月14日) © Dav Jacobsen/右:開会式ではオーフスの伝統をモチーフにした歌や踊りも披露された(2017年1月21日) © Henrik Bjerregrav

このテーマを基盤として創られた芸術や文化に関わるイベントが数百以上も用意され、特に4つの「メガイベント」と12の「フルムーンイベント」は、どちらも屋外で繰り広げられるスケールの大きいアートパフォーマンスで圧巻である。幾つか代表的なものを見てみよう。

ガーデン

3つの展示を巡ることで、人類と自然を「再考」できる「ガーデン」。写真はFUTUREのインスタレーション  Credit: Meg Webster, Concave room for Bees, 2017.ARoSTriennial, The Garden, The Future. Photo: Maja Theodoraki

オーフス2017では最大規模を誇る展示イベントで、開催場所の異なる、PAST(過去)、PRESENT(現代)、FUTURE(未来)の3つのテーマごとの展示で構成されている。ARoSアートミュージアム内で開かれているPASTは、1600年代半ばに流行したバロック風の庭園建築から1960年代に確立されたランド・アート※1までの幅広い美術様式や思想を通して、景観と自然が表現されている。

オーフス市内の都市空間を使ったPRESENTは、自然が果たす近代社会での地位や役割に着目し、現代を浮き彫りにしようと試みる作品群だ。海岸沿いの4キロメートルに及ぶFUTUREは、環境の変化を美術的に捉えながら、人類と自然の関係を問い直した意欲作が並ぶ。

メガイベントの一つとして国際的なアーティストが数多く参加しており、日本を代表する現代芸術家の中谷芙二子が加わっていることも特筆すべきだろう。

開催日:PASTは4月8日~9月10日、PRESENTとFUTUREは6月3日~7月30日/開催場所:ARoSアートミュージアム、オーフス各地

ウォーターミュージック

英国のダンスカンパニーや、スペインの映像アーティストとの国際的なコラボレーションが見所の「ウォーターミュージック」 © Søren Pagter

毎月、満月に合わせて年間12回行われるフルムーンイベントと呼ばれる催しの中の一つ。デンマーク出身の国際的歌手Oh Landらが歌い上げる曲に合わせて、光と映像で演出された空間でアクロバティックなパフォーマンスが次々と展開する、ラブストーリー仕立てのショー。幻想的な雰囲気の中で美しく水しぶきが上がり、見る人を夢の世界へいざなう。

開催日:9月2日~3日/開催場所:ランダース港周辺

オペラフェスティバル「GrowOP!」

GrowOP!はオペラを「再考」して、子どもや若者も参加できるモダンなアートとして発信  © Kaare Viemose

GrowOP!は、小さい子どもや十代の若者にもオペラに親しんでもらえるように趣向を凝らした、デンマークで唯一のオペラフェスティバル。乳幼児を対象にした『Musical Rumpus』や若い世代が演じる家族向けの『白雪姫』がプレミア上演されるなど、今までにない新しい形のオペラが話題を呼んでいる。

開催日:11月15日~26日開催場所:学校やミュージアムなど

欧州と中東の懸け橋として、全ての人々にオープンなパフォス

地中海の北東、トルコの南に浮かび、ちょうど欧州と中東の橋渡しとなる位置にあるキプロス島。現在、キプロスは事実上南北に分断されていて、南部はギリシャ系住民、北部はトルコ系住民が多く住む。パフォスはギリシャ語圏の南西海岸にあり、地理的にも文化的にも十字路の役割を果たしてきた。新石器時代にまでさかのぼる長大な歴史を持ち、ギリシャ人やローマ人によって築かれた古代都市である。

左:サランタ・コロネス(40の柱)と呼ばれる初期ビザンチン様式の遺跡 右:ギリシャ神話の女神アフロディーテが誕生したと伝えられるペトラ・トゥ・ロミウの巨大岩石 Photographs courtesy of the Cyprus TourismOrganisation, www.visitcyprus.com

パフォスは神話や伝説の舞台として知られる。サンドロ・ボッティチェリの有名な絵画『ビーナスの誕生』に登場する愛と美の女神アフロディーテは、大海原の白い泡から生まれ、西風に運ばれてキプロス島に到着したといわれる。それが古代パフォスと呼ばれ、現在のパフォスより25キロメートルほど離れた場所だと伝えられている。その景観の美しさから1980年にユネスコの世界遺産に認定された。紀元前から中世にかけて造られた劇場やモザイク画、教会などの歴史的な見所が多い。

「パフォス2017」は欧州文化首都のテーマとして、「オープン・エア・ファクトリー(Open Air Factory)」を掲げている。地元市民はもちろん、移民や観光客など全ての人々がコミュニケーションやコラボレーションできる共通スペースを生み出そうというもの。多様な文化やアイデア、信条を分け隔てなく受け入れようという壮大なコンセプトだ。キプロスに住むギリシャ系とトルコ系の人々の懸け橋となる意味合いも含んでいる。

左:開会式で披露された新体操風のダンス/右:歴史的な遺跡でもある劇場「パフォス古代オデオン」は、演劇はもとより音楽コンサートの舞台にもなる © foto LARKO, Pafos

プログラムには数千年の歴史を基盤にしているものが多く、悠久の時間を感じさせる一方で、ストリートアートなどの現代的な催しがあり、そのコントラストが楽しい。主なプログラムを紹介しよう。

パフォス2017のプログラムでは、古代ギリシャ三大悲劇詩人の一人、ソポクレスが書いた『エレクトラ』が目玉の演目となっている © foto LARKO, Pafos

古代ギリシャ劇国際フェスティバル 

キプロスで開催される最も重要なフェスティバルの一つ。イノベーションと歴史、現代と古典との間の懸け橋となり、時代を超えたアプローチで魅了する。2世紀に造られた屋外劇場は重厚な歴史的雰囲気に包まれ、古代ギリシャ劇の真髄を満喫できる。

開催日:7月9日/開催場所:パフォス古代オデオン

ストリートアートスクエア

道路や建物の外壁などをキャンバスとしたストリートアートは、都市空間の重要な現代アートの一つとなっている。パフォスでは最近まであまり見られなかったが、過去3年間にわたってストリートアートのイベントを開催し、欧州やアジアからのアーティストが個性的なアイデアを開花させた。今ではパフォスの日常の風景に溶け込み、街に彩りを添えている。パフォスならではのストリートアートは刺激に満ちている。

開催日:10月15日/開催場所:パフォス各地

ストリートアートスクエアは2015年に始まり、キプロスの他にも欧州・アジア各地からアーティストが集った一大プロジェクト。写真は日本から参加したUsugrowによる、書と“落書き風アート”を融合させたカリグラフィティ © foto LARKO, Pafos

倭-YAMATO 和太鼓コンサート

「侍の伝統を誇る」と紹介文にも書かれているように、極東にある日本は欧州の人々にとってエキゾチックな印象を与えるのだろう。その日本から来た和太鼓集団「倭-YAMATO」による迫力満点の演奏が聴ける貴重な機会として、大いに期待されている。コンサートの前にワークショップも予定されており、和太鼓の魅力に触れることができる。

開催日:6月30日/開催場所:タウンホール スクエア(10月28日記念広場)

日本の古代文化のふるさと、奈良県明日香村を拠点とする和太鼓集団「倭-YAMATO」は、本年も国内外のツアーで世界を駆け巡る  © YAMATO THE DRUMMERS OF JAPAN

日本人ならではの感性で欧州へ発信する文化プログラム

欧州文化首都での日本の文化プログラムは、1993年よりEU・ジャパンフェスト日本委員会の支援によって開催されている。本年で25回を数えるこの日本関連プログラムは、伝統文化の紹介にとどまらず、前衛アートやポップミュージック、現代劇などの幅広い分野で活躍する、現地と日本のアーティストの間の意欲的な共同制作も行っており、毎年好評を博している。

なお、2018年の欧州文化首都は、オランダのレーワルデンとマルタのヴァレッタで開催される。

タイトル写真協力:Mark Allan, Michael Groen Billedmageren, Linda Nylind, Søren Pagter, JJ Film, M2Film / foto LARKO, Pafos

 

※1^ 1960年代末から実践された、屋外で土や砂などの自然の物質を用い、土木工事に匹敵する大規模な制作プロセスを経た美術作品のこと[出典:ウェブマガジン『artscape』(DNP大日本印刷・発行)http://artscape.jp]。

 

関連情報

オーフス2017公式サイト(英語)
パフォス2017公式サイト(英語)

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