2016.2.16
EU-JAPAN
母国スウェーデンのテレビでアニメ版『美少女戦士セーラームーン』を初めて見たのは13歳の時。以来、日本のアニメと漫画にはまってしまったオーサ・イェークストロムさん。憧れの日本で2015年、『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』で漫画家としてデビューを果たしたオーサさんに、アニメ、漫画、そして外国人の目で見た日本について、語ってもらった。
スウェーデンでは1990年代にテレビで日本のアニメが放送され始め、ブームとなっていた。「『セーラームーン』を見るまでは、女の子向けのアニメや漫画をほとんど見たことがなかったので、とても新鮮で、びっくりしました」――3人きょうだいの末っ子で、6歳上の兄と4歳上の姉が全くアニメに興味を示さない中、オーサさんは、以降、アニメにどっぷりはまっていった。
男の子向けの『ドラゴンボール』が人気を集める一方,『美少女戦士セーラームーン』は、少女たちの心をつかんだ。「強い女性キャラクターにあこがれました。『セーラームーン』は子ども向きに作られたのかもしれませんが、登場人物が死んでしまうなど、内容は大人の話だと思うんです。それで悲しくなったりあるいはうれしくなったり。気持ちが引き込まれるような場面が毎回あり、すごいと思いました」。今一番好きなアニメは『少女革命ウテナ』とのこと。「『セーラームーン』より、もっとキャラクターが熱いんですよ」。
日本アニメの強い女性主人公に共感を持ち、少女時代を過ごしたオーサさんは、次第に漫画家になりたいという夢を持つようになった。「もともとイラストを描くのが好きでしたし、ストーリーを考えるのも好きでしたので、その二つを組み合わせることができる職業はないかなと。で、やっぱり漫画しかない、と思ったのです」。
高校卒業後、スウェーデン南部のマルメにある漫画の専門学校に入学。「漫画家デビューは入学して1年経った頃でした」。スウェーデンには時事漫画作家は多いが、ストーリー性があり、娯楽性も備えた作品を描く“漫画家”は極めて少ないとのこと。「スウェーデンの漫画市場はあまり大きくないので、漫画家の大半はフリーランスのイラストレーターとして働いています。私もイラストレーターとして働きながら、漫画を描いていました」。
しかし日本へのあこがれは強く、その後9カ月ほど、日本語を勉強しながら日本に住んでみたそうだ。が、日本語を学ぶモチベーションが続かず帰国。「ところが、スウェーデンに帰ったら、本当に日本が恋しくなってしまって」、再度来日することとなった。日本に本格的に移り住んだのは2011年。「日本で漫画家として仕事をするのは難しいと思ったので、日本で暮らすためのプランを立てました」。まず前回のリベンジで日本語学校へ3カ月間通学し、日本語検定2級を取得。その後、東京デザイナー学院でグラフィックデザインを専攻した。「グラフィックデザイナーとして仕事をしながら、趣味で漫画を描こうと考えたんです」。
在学中の2014年、それまでブログに描いていた「日本の不思議なこと」をテーマにした漫画を持って、自主出版作品の即売会「コミティア」に参加。そこで知った「持ち込み」という売り込み方が成功し、2015年3月、コミックエッセイ『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』(KADOKAWA)を出版し、ヒット。売れっ子漫画家として、見事プロデビューを果たした。
2015年9月には第2巻を刊行。また同年7月には、スウェーデンで2006年から2011年にかけて描いた作品『さよならセプテンバー』全3巻(クリーク・アンド・リバー社)も翻訳出版され、こちらは翻訳海外漫画の年間ベストを決める「ガイマン賞2015」で1位を獲得した。ガイマンとは海外漫画の略で、京都国際マンガミュージアム、京都精華大学国際マンガ研究センター、明治大学米沢嘉博記念図書館、北九州市漫画ミュージアムが、海外の漫画の魅力を伝えるため、毎年主催している。
スウェーデンは、センスと機能性を兼ね備えた「北欧デザイン」で世界中に知られる国。家具をはじめ、建築、インテリア、日用雑貨などのデザインは日本でも定評がある。でも、オーサさんは日本のデザインが好きだという。「日本のデザインは両極端が共存しているところが面白いと思います。たとえばお酒のラベルやお菓子のパッケージデザインはとてもシンプルで上品。一方、漫画雑誌や週刊誌の表紙デザインは爆発的。絵や写真の上に文字があふれ、たくさんの書体と色を使っています。そのギャップがすごいですね」。
「“かわいいもの”も、“キモカワ”も好きです。“Kawaii文化”、原宿ファッション、ゆるキャラ、いろいろありますよね。インスピレーションをたくさんもらえます」。お気に入りは杉並区の公式マスコットキャラクター「なみすけ」。食べ物で好きなものは味噌や豚骨のラーメン。ただ、日本人のような食べ方はできないのが残念だ。「ズルズルってすすることができないんです。肺活量が足りないのでしょうか……」。
漫画や文化以外にも魅力を発見した。「今一番好きなのは、やはり“人”です。日本人はやさしいです。日本語に慣れていない頃、『体調、いかがですか?』と言うべきところを『体重、いかがですか?』と言い続けていたのですが、皆、『体調って言いたいんだね』とわかってくれました」。受け止めてくれるやさしさが、オーサさんには居心地よく感じられたようだ。ただ、本音と建前の判断については難しいと感じているそう。「たとえば家に招待されて、『ご飯を食べていきませんか?』と聞かれたとき、素直に『はい』と答えるか、それは建前ととらえて『いいえ』と答えるべきなのか、悩んでしまうことがあります」とのこと。
逆に、「スウェーデン人と日本人は、シャイなところが似ていると感じます。お酒を飲むとよくしゃべるようになるところも……。あと、自然が好きなことも同じです」。両方の共通点を見つけたときは、うれしくなるそうだ。
「日本の漫画が海外でウケる理由は、まずは絵のレベルが高いということ。そして、キャラクター設定がとてもいいと思います。欧米の漫画は、ストーリー展開を重視するのに対し、日本の漫画は登場人物のキャラクターを大切にしています。キャラクターが成長していく中、読者が一緒に喜んだりがっかりしたりすることで、いつの間にかのめり込んでしまう。感情移入しやすいのだと思います」。ストーリー重視だと、文化、習慣、好みの違いによって面白く思えなかったりして、読者の心をつかめない。一方、キャラクターの心の動きを中心にした作品は、国を越えて理解できる。「喜怒哀楽は誰でもわかるから、日本の漫画、アニメは海外でもウケるのだと思います」とオーサさん。
オーサさんが尊敬する漫画家は、「高橋留美子先生です。先日、偶然会うことができたのですが、緊張して全然話せませんでした」。数ある高橋作品の中では『犬夜叉』が特に好きとのこと。「日本の妖怪がとてもよく描かれていると思います。そこにちょっとラブストーリーが入っているのがいいですね」。
自らも日本の妖怪が登場する漫画を描いてみたいとオーサさん。「まだ日本の妖怪には詳しくないので、まずはスウェーデンの妖怪を描きたいですね」。日本で言う“妖怪”は、スウェーデンでは“妖精”だが、美しかったりかわいかったりするわけではないそうだ。「木の妖精は、前から見れば美しい女性ですが、背中が腐っています。振り向いたら怖い姿になるんです。川に棲む日本の河童のような妖精は、人間の裸の男性みたいな姿です」。
出版界では「外国人から見た日本」というテーマに人気があるが、日本人作家による作品が多い。そんな中、オーサさんの作品は「外国人が描いた」というところが新鮮で、人気となったようだ。今、「北欧女子」シリーズの3冊目を制作中とのこと。
オーサさんは、外国人であることを忘れさせるほどよどみない日本語で話す。担当編集者の話では、外国人作家の制作中に一番大変なのは、文字。校正にはとても時間がかかるが、オーサさんの下書きは完成度の高い方で大幅にネタを修正したことはないそうだ。「外国人に会う機会のない日本の方も多いと思いますから、私の漫画を通して知っていただけたらうれしいです。この一年、外国人である私の作品に素晴らしい反応があって、とてもびっくりしました。読んでいただいて本当にありがとうございます」と、終始笑顔のオーサさんだった。
プロフィール
オーサ・イェークストロム Åsa Ekström
1983年生まれ。スウェーデン・ストックホルム出身の在日漫画家。13歳でアニメ『美少女戦士セーラームーン』を見て衝撃を受け、以来、漫画『らんま1/2』、『犬夜叉』等を読むようになる。スウェーデンでイラストレーター・漫画家として活動の後、2011年に東京へ移住。2015年に『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』(KADOKAWA)で日本デビュー。同年7月に『さよならセプテンバー』(クリーク・アンド・リバー社)を日本で出版。
「北欧女子オーサが見つけた日本の不思議」
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