2023.12.4
Q & A
二酸化炭素排出量に価格を付けてそれに見合う金銭的負担を企業などに求める仕組み「カーボンプライシング」。1990年代の北欧諸国を皮切りに2000年代以降欧米やアジア各国で導入が進み、日本では2023年5月に成立した「グリーン・トランスフォーメーション(GX)推進法」により、カーボンプライシングを段階的に発展させる計画です。手法としては、主に排出量取引制度(ETS: Emissions Trading System)と炭素税がありますが、今回は欧州連合(EU)の排出量取引制度(EU-ETS)と炭素国境調整メカニズム(CBAM)について説明します。
EU-ETSは、エネルギー多消費産業の温室効果ガス排出抑制を促す政策手段として2005年に導入されました。世界で最も歴史の長いETSの一つであり、各国・地域の排出量取引制度のモデルにもなっています。電力部門や製造部門、航空輸送部門(2012年より)などの施設を対象に、毎年の温室効果ガス排出量に上限(キャップ)を設定し、余剰排出枠や不足排出枠の売買(トレード)を可能とするキャップ&トレード方式を採用。EUの全27加盟国に、アイスランド、リヒテンシュタインおよびノルウェーの3カ国を加えた欧州経済領域(EEA)内で運用され、約1万施設が対象となっています。2005年の導入以降、EU-ETSの対象となる施設からの排出量は35%以上減少しており、2024年には海運部門も対象に加わる予定です。
制度の適用期間は、第1フェーズ(2005年~2007年)、第2フェーズ(2008年~2012年)、第3フェーズ(2013年~2020年)および第4フェーズ(2021年~2030年)に分かれています。導入当初は、京都議定書(1997年採択)の下で掲げた排出削減目標(2008年~2012年に1990年比で8%減)の達成が目的でしたが、フェーズ3以降はEUの気候目標の引き上げに合わせて制度を随時改定しています。
温室効果ガス排出の実質ゼロを目指しつつ、経済成長を確保することを目指すEU「欧州グリーンディール」戦略の一環として、2021年6月に「欧州気候法」が正式採択され、2030年までに1990年比で排出量を55%以上削減するという新たな目標に法的拘束力が生じると、欧州委員会翌月、目標達成のための政策パッケージ「Fit for 55」を発表し、EU-ETSの見直しなどを提案しました。1年以上の議論を経て2023年4月、EU理事会は「Fit for 55」に関する以下5本の主要法案を採択。EU-ETS の強化と対象範囲の拡大や「炭素リーケージ」※1に対応するための炭素国境調整メカニズム(CBAM)の立ち上げなどが確定しました。
EU-ETSとは別に、新たな制度として道路輸送と建物の暖房、およびEU-ETSの対象外の産業部門で消費される燃料を対象とするETS 2が、2027年から導入されます。直接排出を対象としていたEU-ETSとは異なり、ETS 2では燃料の販売事業者が規制対象となります。排出枠は全量がオークション(入札)方式によって有償で配布されます。
ETS 2の開始後数年間は、排出枠の価格の安定化を図るため、ETSとは別に市場安定リザーブが設けられます。また、エネルギー価格の高騰が続いた場合には、ETS 2の開始年を2028年に延期します。
ETS 2のオークション収入から最大650億ユーロを社会気候基金に充当し、加盟各国からの拠出も合わせて基金規模は総額867億ユーロとなる見通しです。ETS 2の残りの収入は加盟国に直接支払われ、各国はその資金を気候変動対策および社会的プロジェクトに利用することができます。
CBAMとは、特定の製品グループの生産過程における炭素排出量を評価し、EU域内の製品と域外から輸入される製品の炭素価格を均等化する仕組みです。いわゆる「炭素リーケージ」、すなわち、EUに拠点を置く企業が、緩い基準を利用して炭素集約度が高い生産をEU域外に移したり、EUの製品がより炭素集約度の高い輸入品に置き換わったりすることを防ぐことを目的としています。CBAMは8年間かけて、EU-ETSの下で与えられている無償の排出枠に徐々に取って代わります。
当初の対象製品は、セメント、鉄鋼、アルミニウム、肥料、水素、電力です。これらの製品は生産過程で大量の炭素を排出し、炭素リーケージの最大のリスクをもたらします。適用範囲の拡大は、移行期間(2023年10月1日~2025年12月31日)中の輸入業者からの報告に基づいて検討されます。移行期間中、輸入業者はCBAMの対象となる商品に含まれる排出量を四半期ごとに報告しなければなりませんが、その際、金銭的な支払いを行う必要はなく、2026年から最終的な制度が導入されるまでの時間を確保します。
2026年1月1日に完全導入されると、輸入者は前年度の輸入品の量と炭素排出量を申告し、輸入品の排出量に相当する分の「CBAM 証書」を購入、納付します。EU域外で既に支払われた炭素価格は、CBAM証書の購入から差し引くことができます。
欧州委員会のジェラシモス・トーマス税制・関税同盟総局長は2023年11月13日に発表した寄稿で、「日本でのCBAM適用対象は大半が鉄鋼分野に集中しており、日本の対EU輸出総額の約3%だ」と指摘。その上で、「最終的な制度設計に向け、私たちは改めて日本の政策立案者と企業の意見を重視する。相互理解を深め、関係する日本企業の報告負担を軽減できるよう、あらゆる意見や懸念に耳を傾けていく」と強調しました。
※1温室効果ガスの排出規制が厳しい国の企業が、規制の緩やかな国へ生産拠点や投資先を移転し、結果的に世界全体では温室効果ガスの削減が進まないこと。
※2EU-ETSでは、炭素市場における排出枠の需給不均衡を解消するため2019年からMSRを導入し、あらかじめ定められた条件下でオークションにかけられる排出枠の供給量を自動的に調整している。
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