2014.8.19
Q & A
EUのシンボルには、「旗」、「歌」、「記念日」、「標語(モットー)」があります。青地に円環状に配置された12個の金色の星で構成される「欧州旗」は、議会や国際会議等の公式の場で掲揚されており、最もなじみのあるシンボルの一つです。「歌」はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーベンの交響曲第9番第4楽章「歓喜の歌」の主題部分、「記念日」はヨーロッパの平和と統合を祝う「ヨーロッパ・デー」が5月9日に制定されています。また「モットー」は 「多様性の中の統合(United in diversity)」です。
かつて、これらのシンボルをEUの基本条約に盛り込もうという動きがありました。2004年6月に合意された欧州憲法条約には「旗」、「歌」、「記念日」、「標語(モットー)」に加え、「ユーロ」をEUの正式なシンボルとして法定化する条文が含まれていましたが、その後2カ国で同条約の批准が否決、発効には至りませんでした。これらのシンボルを条約で規定すると「連邦制」の色が濃くなりすぎるという懸念も一部にあったのです。2009年に発効したリスボン条約ではシンボルについての規定は除外され、現在EUのシンボルは条文では触れられていません。しかし、欧州議会は、「本会議場やすべての会議室、公式の場において欧州旗を掲揚する」など、シンボルの積極的利用に関する議院規定を2008年10月に圧倒的多数で可決しました。このようにEUのシンボルは、条約に規定こそないものの、EUのみならず欧州全体を象徴するものとして、事実上広く受け入れられています。さまざまな歴史や言語、文化を有する5億人の欧州市民にとって、EUのシンボルは共通のアイデンティティーとして認識されているのです。
現在のEUの旗「欧州旗」は1985年にEUのシンボルとして採用されました。青地に12個の金色(表示は黄色)の星が円を描くように均等に配置されていますが、この星の数はEU加盟国の数には関係なく、12個で固定されています。この12という数字は「完璧さ」と「統一」を表現しています。そして、時計の文字盤に書かれた数字と同じように均等に配置された12個の星が描く円は、欧州市民の団結と調和を表しています。
「欧州旗」はもともと、欧州評議会(※1)が、1955年12月8日に自身の旗に採択したものです。欧州評議会は、市民の団結を強めるための共通のシンボルとして、欧州旗を他の組織・機関でも採用するように強く働きかけました。そのため現在では多くの組織・機関で利用されるようになり、欧州評議会とEUを象徴するのみならず、欧州全体の統一の象徴となっています。またEU域内の運転免許証やナンバープレート、ユーロ紙幣にも欧州旗は描かれており、市民にとっても身近なシンボルだといえます。
「EUの歌」は、1823年ベートーベンによって作曲された交響曲第9番第4楽章「歓喜の歌」の主題部分です。「歓喜の歌」は、ドイツの詩人フリードリヒ・フォン・シラーの人類愛と平和を理想とする心にベートーベンが共感して作曲したとされ、その理想はEUと共通しています。ヨーロッパ・デーや他のさまざまなEUの公式行事の際にEUの歌として披露される場合は、オーケストラが演奏するのみで、歌は付きません。
1972年にヘルベルト・フォン・カラヤンによって編曲された「歓喜の歌」が、欧州評議会によって「欧州の歌」として発表され、1985年にミラノで開かれた欧州理事会(EU首脳会議)において「EUの歌」として承認されました。メロディーのみで構成される「EUの歌」は音楽が共通の言語となり、欧州の自由と団結を表現しています。また欧州の共同体意識と各国市民の平和に対する賛歌であるとともに、EUに加盟しようとする他の国民をたたえる意味もあります。「EUの歌」は加盟国の国歌に置き替わるものではなく、あくまで各国の市民が共有するEUの基本的な価値をたたえる歌なのです。
「EUの歌」はこちらからダウンロードして聴くことができます。
「ヨーロッパ・デー」は、1985年にミラノで開かれた欧州理事会で、5月9日に設定することが決まりました。この日はEUの前身である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の設立につながる「シューマン宣言」が発表された日です。
第二次世界大戦が終結して間もないころ、欧州の国同士が憎み合ったり対立したりしている状況に終止符を打とうと、ロベール・シューマン(当時のフランス外相)やコンラート・アデナウアー(ドイツ連邦共和国〈西ドイツ〉首相)、ウィンストン・チャーチル(英国首相)など、勇気ある政治家たちが行動を起こしました。その中でシューマンは、戦争の原因の一つであったフランスと西ドイツの石炭・鉄鋼産業を共同管理するよう、1950年5月9日にパリで提案しました。これが「シューマン宣言」です。
この「シューマン宣言」をきっかけに、戦争の原因となっていた鉱物資源が現実的かつ象徴的な和解の手段へと転換され、EUが誕生する基礎が形成されたのです。宣言の中でシューマンは欧州統合の構想について、「ヨーロッパは一日にしてならず、また、単一の構想によって成り立つものでもない。事実上の結束をまず生み出すという具体的な実績を積み上げる事によって築かれるものだ」と述べています。このシューマンの言葉は現在も変わる事なく真実を物語っています。ちなみに毎年ヨーロッパ・デーには、EU加盟各国をはじめ世界中にあるEU関連機関で祝賀式典やイベントが催されています。また、ブリュッセルやストラスブールにあるEUの機関では施設の一般公開も行われます。
EUはモットーとして、「多様性の中の統合(United in diversity)」を掲げています。このモットーは2000年に青少年を対象に開催された欧州のスローガンを募るコンテストで、2,000余りの応募作品の中から選ばれました。非公式なコンテストではありましたが、選ばれたモットーはEUの指導者たちに認められ、EUのシンボルの一つに含まれました。このモットーは、EUの24の公用語すべてに翻訳されています。モットーの意味するところを、欧州委員会は次のように示しています。「欧州市民はEUを通じて平和と繁栄を共に分かち合える絆で結ばれています。そして欧州の文化や伝統、言語の多様性は欧州全体として見た時に、とても大きな原動力になるものです」。
(※1)^ 欧州評議会
Council of Europe。欧州における民主主義、人権および法の支配の確立を目指して1949年に設立された、現在47カ国が加盟する機関。EUの機関ではない。
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