2015.3.23
Q & A
「EU市民保護メカニズム(EU Civil Protection Mechanism)」とは、域内外で重大な自然災害、テロ、原子力災害などが発生した際、迅速に援助を提供することを第一義に、欧州連合(EU)が2001年に立ち上げた制度です。
現在、この制度には全EU加盟28カ国と域外の4カ国(マケドニア旧ユーゴスラビア、モンテネグロ、アイスランド、ノルウェー)の32カ国が参加しており、危急の際には、その中から何カ国かが連携して物資援助の提供および捜索救助チームや医療チームの派遣などの緊急援助を行います。また、インフラの修復・整備や防災の啓発活動、早期警報発出など、その活動は多岐にわたります。
気候変動に伴う風水害などの自然災害、政情不安、人口の増加などさまざまな要因が複雑に絡み、昨今、世界各地で発生する「危機」は深刻さを増し、対応も難しくなってきています。ひとたび災害が発生すれば、その被害は国境を越えて拡大する危険性もはらんでいます。例えば、災害である国が危機に陥り、経済が停滞すれば、それは一国だけの問題ではなく世界的な危機へと波及する可能性があります。
そうしたことから、危機に直面する人々の支援に対する必要性は高まっています。重大な災害が発生し、被災者の救済およびインフラの回復に必要とされる物的・人的支援を自国だけで行うことが困難な場合、EU市民保護メカニズムが動き出します。メカニズム参加国同士で調整して支援内容を取りまとめ、欧州全体として活動することで、援助活動の重複を避け、被災地域に本当に必要な支援を届けることができるのです。
EU市民保護メカニズムは2001年の発足以来、300件超の災害について調査し、180件超の災害について支援を行ってきました。2012年には21件、2013年には16件発動しています。
具体的な出動例としては、世界が直面した最も甚大な災害である、米国のハリケーン「カトリーナ」(2005年)、ハイチ地震(2010)、日本の東日本大震災(2011年)、フィリピンの台風「ハイエン」(2013年)が挙げられます。東日本大震災の際には、毛布やマットレスをはじめとする物資と1,720万ユーロの資金援助を行いました。また、2012年~13年には、ギリシャ、ポルトガル、モンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アルバニアで発生した壊滅的な森林火災被害への支援に取り組んだほか、紛争を逃れてきたヨルダン国内のシリア難民のキャンプに救急車、テントヒーター、毛布などの物資援助を行いました。
最近の例では、2014年5月にボスニア・ヘルツェゴビナとセルビアで発生した洪水被害でそれぞれ支援要請を受け、22のメカニズム参加国が支援を表明。同年7月には、世界保健機関(WHO)からの要請でエボラ出血熱対策として、西アフリカの感染国で医療施設への患者の搬送、車や備品、生活必需品の供給を行っています。
EU市民保護メカニズムの核となるのが、世界中の災害発生を24時間体制で監視し、支援要請の窓口と調整の役割を担っている、緊急対応調整センター(ERCC)です。ERCCは前身の「監視情報センター(MIC)」を拡充したもので2013年5月に設立され、EUの執行機関である欧州委員会の人道援助・市民保護総局(ECHO)の管轄の下、運用されています。
ERCCはリアルタイムの情報を収集・分析し、加盟国と協力して被災国のニーズに合った援助をどのように提供していくかを調整します。ERCCはまた、災害予防、災害対策の啓発も行っています。
また、人道援助活動に関わるボランティアの育成も積極的に推進しています。同メカニズムを中心として、被災国、参加国、人道支援活動ボランティアが連携して取り組むことで迅速、効果的な支援が可能となります。
迅速な「対応(Response)」はもちろん、「備えと予防(Preparedness and Prevention)」、つまり防災、減災も重要だと考えます。「備えと予防」があるからこそ災害発生時に効果的な対応が取れるようになります。欧州委員会では、同メカニズム参加国の訓練計画策定や専門家の派遣といった「備えと予防」への取り組みも支援しています。
「備えと予防」に関しては、収集する災害情報の質の向上や支援が必要な対象に届きやすくすること、人々の災害管理に対する意識の啓発、リスクアセスメントとハザードマップのガイドライン策定、早期警告手段の強化、災害に対する予防策、災害からのレジリアンス向上が役立つとEUは考えます。EUはこれらの方策についての手法を開発し、定期的に更新、実施しています。
2014年初頭より、防災・危機管理・災害への備え、という考え方を取り入れたEUの新しい市民保護法が施行されました。さらに、災害援助に関しては新たに「緊急対応能力(Emergency Response Capacity)」という制度が導入され、加盟国が自主的に人員や設備、また専門家などを常時いつでも出動できる状態で準備しておき、欧州全体として介入する際、必要に応じて即座に活用できる態勢を整えることとしました。ERCを通じて豊富なリソースを常に欧州内にストックすることで、より災害予測可能で信頼性のあるシステムが構築され、災害対策計画の実行が円滑化します。
新しい法制度では、EU加盟諸国による災害対策計画策定および共有、また、支援のための輸送手段確保・調整の簡素化なども定められました。またQ4でも触れた「備えと予防」の一環として、被災地に送られた各国のチームの相互運用力を高めるための訓練も提供します。関係国の要請に応じ、災害の「備えと予防」についてアドバイスする調査団を派遣することも検討されています。
「EUの人道援助 結束と挑戦の20年」(EU MAG 2012年4月号 政策解説)
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