2016.1.12
Q & A
欧州諸国では、1970年代まで選挙権年齢は21歳が一般的でしたが、多くの国で国政選挙における選挙権年齢の引き下げが実施され、EU加盟国の選挙権年齢は現在、オーストリアの16歳を除いて18歳となっています。なお、選挙権年齢はEUで統一されているのではなく、各加盟国の権限でそれぞれ決められています。
引き下げの背景にはさまざまな理由が存在しますが、第一に、戦後から時が経ち、若者の教育水準が向上したことが挙げられます。第二に、日本でもそうだったように、1960~70年代は世界的に学生運動の機運が高まり、若者の存在やその主張を無視できなくなっていったといえるでしょう。1990年代後半からは、さらに選挙権年齢を引き下げる動きがあり、オーストリアでは国政選挙を含めて16歳、その他でも地方選挙において16歳まで引き下げる国が増えています。
欧州では、高齢化社会の進展や若者の政治に対する関与の低下が進む中、若者の政治参加を促す手段として、選挙権年齢の引き下げが検討されてきた経緯があります。
欧州で積極的に選挙権年齢の引き下げを主導しているのは、各国の若者団体やその連合組織である若者協議会、そしてEUレベルの連合組織の欧州若者フォーラム(European Youth Forum)です。同フォーラムは、2011年から「Vote@16」というキャンペーン運動を展開しており、選挙権年齢の引き下げは、政治・市民教育の充実、 若者の投票率の向上、高齢化社会の中で政策決定過程における若者の意見反映に寄与するとする一方で、その他の義務や権利(納税、自動車の運転、飲酒、刑罰)の年齢との整合性の観点から、16、17歳に選挙権がないことを問題視しています。
英国 | マン島やジャージー島などの英国自治領 スコットランド地方選挙 ウェールズ地方は地方選挙の分権化にかかる法案を審議中 |
エストニア | 地方選挙で2017年から導入 |
オーストリア | 国政・地方選挙 |
ドイツ | 州・市町村選挙で導入:ブランデンブルグ州、ブレーメン州、ハンブルグ州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州 |
市町村選挙で導入:バーデン・ヴィッテンべルグ州、ベルリン、メクレンブルグ・フォアポルメン州、ザクセン州、ノルトライン・ヴェストファーレン州、ザクセン・アンハルト州 | |
マルタ | 地方選挙 |
スイス * | グラールス州および市議会選挙 |
ノルウェー * | 地方選挙における社会実験に選ばれた自治体のみ |
各種データより筆者作成 *非EU加盟国
引き下げ反対派の人たちは、今でも政治に関心の低い若者が選挙権を持つようになれば、低い投票率がさらに下がるだけでなく、「選挙の質の低下(単なる人気投票になるなど)」につながるのではないかとして、慎重な立場を取っています。これまで欧州では選挙権年齢の引き下げに反対する意見が多数派でしたが、近年、16歳選挙権の事例研究が進んだことで、16歳への引き下げの効用は高いという見方が出てきています。
デンマークの研究者は、デンマークの地方選挙の事例から、若者と親との同居率が投票率と相関関係にあり、さらに18、19歳の投票率は20代前半に比べて高いという傾向を明らかにしました。実際に選挙権年齢を引き下げている国では16、17歳の投票率が高くなる傾向が明らかになっています。一方で、選挙権の付与による若者の政治的成熟度(Political Maturity)への影響についてはまだ論争がありますが、オーストリアの事例からは、学校教育や選挙キャンペーンなどを通じて政治的成熟度は向上し、16、17歳と18歳の投票行動において明白な差は見られないとの結果があります。
出典:http://www.bundeswahlleiter.de/en/index.html
欧州諸国では、単に選挙権年齢を引き下げるだけでなく、地域や学校などの日常的な場面で政治を学んだり関わったりする機会を作ることが重視されており、さまざまな取り組みが行われています。全体的な取り組みとしては、学校における政治教育(ドイツやオーストリア)、市民性教育(英国やオランダ)の推進とともに、地域における若者団体やユースクラブ、ボランティア団体での社会的な活動を積極的に支援しています。
特に、最近の注目すべき事例として、2013年9月のドイツ国政選挙に合わせてドイツの若者協議会が実施した「立ち位置(Standpunkt)」という署名キャンペーンがあります。このキャンペーンは、若者に関わる政策分野に予算を振り向けてもらうことを目的として、若者が「若者のために全力を尽くします」という趣旨が書かれたポスターを持っていき、地元の国会議員の候補者に署名してもらうというものです。
若者らは、ポスターに署名した国会議員と一緒に写真を撮ってSNSなどで拡散します。そして国政選挙が終わった後、国会議員に対して「あなたは署名をしたが、その後、若者に対するどういう働きかけをしているか」とリマインドするというものです。こうしたキャンペーンは、若者が当事者として主体的に行えるものであり、国・州・市町村選挙などのさまざまな場面で気軽に実施できるという点で汎用性も高いといえるでしょう。
若者に関わる政策分野(Youth Policy)は、加盟国の排他的な権限領域として位置付けられており、EUの役割は加盟国の施策の情報共有、調整や支援に限定されています。EUの行政執行機関である欧州委員会は、選挙権年齢の引き下げについては加盟国の権限でもあり立場を示していませんが、若者政策の核となる要素としての若者参画(Youth Participation)を重要視しており、若者をステークホルダーとして意思決定に関与させ影響力を高めることを推進しています。
特に欧州委員会が注力しているのは、若者を政策決定に組み込むための「構造的対話(Structured Dialogue)」です。構造的対話は、まず18カ月の期間を1つのサイクルとして特定の大きなテーマを定め、さらに6カ月ごとに同テーマに対応したサブテーマを設定し、加盟国内の若者団体やその連合体である若者協議会との意見交換を行うものです。
これまで2010年から2015年まで、若年失業、若者参画、社会的包摂、若者のエンパワーメントなどのテーマについて政策対話を行ってきました。こうした制度的な政策対話の機会を設けることで、遠くなりがちなEUにおける政策形成過程に関与できるとともに、若者自身のエンパワーメント、若者団体同士の関係緊密化を図っています。
執筆・監修 = 小串聡彦(おぐし・としひこ)(EUスタディーズ・インスティテュート〈EUSI〉研究員、 NPO法人「Rights」副代表理事)
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