2013.7.19
Q & A
「ヨーロピアン・セメスター(European Semester)」とは、直訳すると「欧州半期」。欧州連合(EU)において、各国の財政政策と経済政策の協調を行う半年のことを指しています。具体的に「半年間」とは、1年の前半、1月から6月までです。この期間にEU加盟国は、自国の財政政策と経済政策が、EUのレベルで合意された目的に合致していることをお互いに確認し、もしある国の政策がEUの目的から外れていれば、修正するのです。
では合意された目的とは何でしょう。大きく分けると3つあります。
第1に、各国が健全な財政状態を確かなものにすることです。各国の財政政策を予算の段階からお互いに監視し合い、一部の国が過大な財政支出を行い巨額の財政赤字を積み上げることを防ぎます。結果としてルールに合わない国が判明した場合には、罰金などの是正措置や過剰な赤字を是正するための制裁などが科されます。この点に関しカギとなる言葉が「経済ガバナンス」です。ガバナンスとは、日本語では統治などと訳されますが、ここではEUの各国がお互いの経済政策を監視しあうことを意味します。
第2に、構造改革を進め、長期的な経済成長を達成することです。加盟各国が雇用や産業について構造改革を進め、成長戦略を実現するための行動計画を設定し、それをお互いに監視しあうことになります。実行が不十分な国については早期の警告や改善勧告がなされます。
第3にEU各国間で財政赤字や経済成長などマクロ経済について過度な不均衡が生まれることを防ぐことです。この点についても不均衡が問題となった場合には、勧告などの是正措置や過剰な不均衡を是正するための措置が採られます。
欧州における債務危機の深刻化が背景にあります。EUには、財政政策の協調を実現するための「財政と安定・成長協定」を含め、さまざまな手続きやプロセスがありました。
しかし2009年秋にギリシャの財政危機が表面化。危機はEU全体にまで波及しました。財政危機を回避するには、EU各国の政策をお互いに監視する仕組みを1年の早い段階から実施し、目標を達成できない国についてはより厳しい措置を採ることが必要になります。そこでヨーロピアン・セメスターという考え方が生まれました。各国の経済運営をめぐりさまざまな仕組みが併存していたのをお互いに関連付け、全体として効果的な手続きへと発展させようとしたのです。
ヨーロピアン・セメスターが検討されたのは2010年。まず3月に欧州理事会により経済ガバナンスを強化すること、特に各国の財政政策への監視を強めることが決定されました。これを受け、欧州委員会が、従来の「財政と安定・成長協定」と2010年6月に承認された中期成長戦略「欧州2020」を基に、総合的に各国の政策を監視する手続きとして、ヨーロピアン・セメスターの導入を提案。2011年から開始と、短期間で実現しました。
まず、毎年1月に、欧州委員会が、その年のEU加盟各国の成長見通しである「年次成長概観」を中心とする調査報告を発表します。この報告をEU理事会(閣僚理事会)と欧州議会が検討し、その結果に対し3月に行われる欧州理事会(EU首脳会議)が政策に関する戦略的アドバイスを示したガイダンスを提示します。一方、加盟各国は、欧州委員会の調査報告を前提に、予算・財政計画と構造改革の2点についてプログラムを作成し、4月に欧州委員会に提出します。
欧州委員会は各国のプログラムを検討・評価し、「国別勧告案」を作成、6月にかけEU理事会に諮り、欧州理事会の承諾を経て、最終的にEU理事会が承諾し、各国に対する政策の勧告が行われます。
各国が翌年の予算案作りなどに取りかかるのは7月以降。その前の半年間に、EUで議論を重ね、各国の政策に対する勧告を行うというのが、「ヨーロピアン・セメスター」の最大のポイントです。EUレベルで行われた検討が、各国の予算や構造改革に具体的に生かされることになるのです。
2011年から開始された「ヨーロピアン・セメスター」は2013年で3年目となります。欧州委員会により作成され、2013年6月にEU理事会により承認された勧告を見てみると、各国の財政政策に対する評価が中心となっています。イタリア、ラトビア、リトアニア、ハンガリーおよびルーマニアについては過剰財政赤字に対する是正手続きが完了したことを確認する一方で、ベルギーに対してはその赤字是正の措置が十分でないことを通知しています。スペイン、フランス、オランダ、ポーランド、ポルトガルおよびスロヴェニアに対しては赤字是正のための期日を延期し、今後の政策対応状況を監視する姿勢を示しています。また、マルタ、アイルランド、ポルトガルなど、これまで財政面で問題の生じた国々についてもそれぞれに応じた勧告を行っています。
財政政策以外にも、ラトビアが2014年1月1日よりユーロを自国通貨として採用することを了承すること、環境や税制など各国の構造改革のあり方についても述べています。
現在、ヨーロピアン・セメスターは各国が毎年の予算案や構造改革を立案する上で必要不可欠な手続きといえるでしょう。
執筆=林 秀毅(一橋大学国際・公共政策大学院客員教授、EUSI事務局長)
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