2013.10.17
OTHER
10月10日の世界および欧州の死刑廃止デーに際し、駐日EU代表部は世界のあらゆる国から死刑をなくすEUの活動の一環として、「永山事件~日本の死刑を考える」と題したシンポジウムを開催した。同代表部で開かれたシンポジウムには、弁護士、元裁判官、学生がパネリストとして参加し、100人を超える聴衆の前で死刑制度に対するそれぞれの考え方や体験を語った。
開会の挨拶に立ったハンス・ディートマール・シュヴァイスグート駐日EU大使は、「人権を重んじるEUでは死刑廃止は加盟の前提条件であり、現在欧州で死刑を存置しているただひとつの国であるベラルーシはそれゆえ加盟候補国にはなれない」と説明した上で、「EU各国でも世論の多くは制度維持であったが、政治的な決断により説得を果たし死刑廃止を実現することができた」と、国民感情を論拠のひとつとする日本の現状に対して示唆を含む発言を行った。また、しょく罪の意志を持ちながらも極刑に処せられた永山則夫氏の事件に焦点をあてた本シンポジウムは、死刑というセンシティブな問題を議論するには格好のテーマであろう、と期待を寄せた。
日本弁護士連合会の死刑廃止検討委員会事務局長で本シンポジウムのモデレーターを務める小川原優之氏の「死刑廃止については欧州から繰り返し問いかけられている」との導入に続き発言した元東京高等裁判所判事の木谷明氏は、死刑の執行が減っていた1980年代に一連の審理が行われた永山事件に関し「このままでは死刑制度が廃止されるも同然と考えた検察が、量刑不当で最高裁に上告という前例のない手段に打って出たのではないか。永山事件の結末(※1)は、差し戻し控訴審で東京高裁が原判決(無期懲役)を維持していれば、その後日本は死刑制度を廃止する国際的すう勢に遅れなかったかもしれない、という意味で大変に残念なものであった」と述べた。また、いわゆる永山基準(死刑を科す際に考慮すべき9つの基準)について、「本来はこれ以上軽ければ死刑を言い渡してはならない、というのが基準であるべきで、その意味で永山基準はあいまいである」との見解を示した。
永山事件で弁護人を務めた大谷恭子弁護士は、永山氏個人とかかわった当事者の立場から事件を眺め、「日本の福祉の貧困から幼少時に過酷な体験をしたことが事件につながったが、若者の人格は必ず変わる。そのチャンスを死刑で人為的に奪ってはならない」と、自殺志願者であった永山氏が執筆を通じ、しょく罪する道を歩み始めようとしていた点を挙げて主張した。また、本事件を通して自身が「死刑廃止論者」となったと明かし、犯罪者も障害者もマイノリティもみなが共生できる社会を目指すことが重要である、と説いた。
永山元死刑囚の最後の面会人で、著作の印税を世界の貧しい子どもたちのために使ってほしいという永山氏の遺志で設立された「永山子ども基金」のスタッフ、市原みちえ氏は、自身が管理する永山氏が残した膨大な著作・メモなど関連資料を死刑廃止に向けて活用してほしい、と訴えた。
学生の立場から議論に参加した早稲田大学大学院の手島一心さんは、日本と米国の現状を比較考察した上で、日本では死刑制度について議論することが少ないことに加え、議論の土台となる死刑に関するデータが少ないことが問題である、と指摘した。同じ早稲田大学の竹内美保子さんも、アムネスティインターナショナルでインターンをした経験から、「自らは完全に死刑廃止の立場をとっているわけではないが、死刑は犯罪の抑止効果はないとされる中で、日本では死刑について考えるための情報が少ない。まずは情報公開を進めることが必要である。同時に、面会や通信が制限され死刑執行の事前通告もなされない現在の死刑囚の処遇を改善することが、世論の意識に変化をもたらすのに重要」と訴えた。
モデレーターの小川原氏は、「どの裁判所が審理しても死刑の判決がでるであろうと判断される場合以外は死刑を言い渡してはならない、というのが本来の永山基準の精神。裁判員裁判でも裁判官と裁判員の全員一致を条件とするべきである」との日弁連の立場を強調した。
会場からも多くの質問が寄せられた本シンポジウムは、具体的な事例を通して死刑について考察する場を提供することができ、その目的を十分に達成できたといえよう。駐日EU代表部では、本シンポジウムに加え、永山事件に関する資料展を同代表部で開催している。同展は10月17日まで代表部で行われた後、22日から31日まで一橋大学図書館(国立キャンパス)で開催される。
なお、EU、EU加盟国、ノルウェーおよびスイスの駐日大使は、日本で死刑制度に関する国民的議論を促進するため「欧州は死刑に反対しています。議論に加わろう(Europe against death penalty – Join the discussion)」と銘打った取り組みを10月10日に立ち上げている。
本シンポジウムのプレスリリース (当日の模様が動画で見られます)
人権と死刑(駐日EU代表部のウェブサイト)
リーフレット『EUは死刑制度のない世界を求めています』(駐日EU代表部 2013年10月発行)
「世界の人権擁護をリードするEU」(2012年7月号特集)
(※1)^ 1968年に19歳で4人を殺害した「永山則夫連続射殺事件」の審理において、一審は死刑判決。東京高裁の控訴審で死刑判決が破棄され無期懲役となった後に、検察が量刑不当で最高裁に上告。最高裁が上告を認め、高裁に差し戻され、1987年に一審判決維持の判決となった。1990年に死刑が確定し、1997年に執行された。
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