2018.12.10

EU-JAPAN

高校生がEUについて学ぶ出張授業「EUがあなたの学校にやってくる」

高校生がEUについて学ぶ出張授業「EUがあなたの学校にやってくる」

日本の若い世代にEUや欧州への理解を深めてもらう出張授業、「EUがあなたの学校にやってくる」。2018年11月15、16日の2日間で、駐日EU代表部と在日EU加盟国大使館から大使や外交官ら総勢50人が、全国23都道府県の62の高校(生徒数約2万4,500)を訪問した。本稿では一例として、國學院大學久我山中学高等学校(東京都)で行われた授業を紹介する。

人気の理由は「大使や外交官から直接EUについて学べること」

欧州連合(EU)が創設された経緯や理念をはじめ、その役割や置かれている現状、また多様性に富んだ欧州の歴史・文化を知ってもらうことを目的に、日本の若者に向けて授業を行う「EUがあなたの学校にやってくる」。このプロジェクトは、2005年の「日・EU市民交流年」に市民レベルでの日欧交流が活発化したことを受けて、ローマ条約調印50周年を記念し、2007年に企画・実施されたことに始まる。以来、駐日EU代表部の主導で毎年開催され、今年で12回目の開催となる。

この授業のユニークな特徴は、生徒が日常生活ではなかなか出会うことのないEUおよび加盟各国の大使や外交官と、授業および質疑応答や意見交換を通して、直接交流できる点だ。豊かな外交経験を生かした講師の話に耳を傾け、生徒自身が英語で質問したり、意見を伝えたりする経験は、若者たちの欧州への関心を高め、もっと学びたいという意欲にもつながる。実際に、駐日EU代表部に寄せられたフィードバックでは、「授業を受けた生徒や学校関係者の満足度は高い」という。

2018年11月16日、國學院大學久我山中学高等学校(東京都杉並区)を訪れた駐日EU代表部のフリオ・アリアス広報部部長は、出張授業(詳細は後述)に先立って次のように述べた。

「日本とEUにとって2018年は、経済連携協定(EPA)と戦略的パートナーシップ協定(SPA)の2つの主要な協定が結ばれた、記念すべき年。政府間、貿易・ビジネスにおける協力関係はもちろんのこと、今後は観光や雇用など、人対人のつながりがさらに強くなると期待されている。今日の授業が日本の若い人々にとって、日欧関係の視野をさらに広げるきっかけになればうれしい」

またアリアス部長は、欧州の文化に対する日本の若者の興味は高いと語り、「欧州と日本は地理的に距離があるが、古くから友好の絆はとても強い。この日のために入念な準備をしてくれた生徒たちのためにも、私もベストを尽くしたい」と語った。

高校生にEUをより身近に感じてもらうために -出張授業レポート-

今回取り上げるのは、國學院大學久我山中学高等学校の高校1年生約450人を対象にした、駐日EU代表部のアリアス広報部部長による授業。事前に生徒たちは、EUから提供された冊子『Let’s explore Europe!』や最近のニュースなどから情報を収集して、部長への質問を各クラスで考えて臨んだという。最後には合計12問もの質問が飛び出した、活気ある授業の模様をレポートする。

授業は、「EUとは」「世界の中のEU」「日本とEU」の3つの観点から、分かりやすいスライドの図解を使いながら進行した。まずアリアス部長は、EUとは安定と平和、繁栄のために共に協力する欧州の国々の集まりで、人口は日本の約4倍に相当する約5億人を擁し、28の加盟国から成り、24の公用語があるなど、多様性を尊重した統合であることを紹介。また第二次世界大戦後、「二度と戦争を起こさない」という決意の下に、わずか6カ国で設立したことなどを、時折質問を投げかけつつ、生徒の関心を引きつけて説明した。

スライドを使いながら分かりやすく生徒に向けて講演するアリアス部長(左)
© European Union, 2018 / Photo: Keiichi Isozaki

次いで、EUは「対立ではなく協力」「国境のない暮らし」の2つを目標とし、2012年にはノーベル平和賞を受賞していることや、12個の星が描かれたEUの旗が欧州の調和を象徴していることなどを紹介。「国境のない暮らし」の実現に向けて、現在19カ国が導入している単一通貨ユーロについては、片面は共通のデザインだが、もう一方の面には各国を象徴する絵柄が施されており、EUの多様性を表していると紹介した。

EUの加盟条件は、「民主主義」「市場経済」「法の支配」「人権尊重」の4つ。またこれらの条件を全て満たしていても、地理的に欧州圏に位置しない日本は、EUには加盟できない。EUに入りたくても入れない国がある一方で、来年3月にEUから脱退する予定の英国についても触れ、「それも民主的な決断として尊重」しながら、両者は脱退がスムーズに進むように交渉を続けていると話した。

「今日の授業が高校生にとって、日欧関係の視野をさらに広げるきっかけになればうれしい」
© European Union, 2018 / Photo: Keiichi Isozaki

2番目のテーマ「世界の中のEU」では、国際社会の中でEUが果たす役割について解説。EUは主要7カ国首脳会議(G7)や主要20カ国・地域首脳会議(G20)、アジア欧州会合(Asia-Europe Meeting=ASEM)などに参加しており、世界のパートナーの国々と緊密に連携しているほか、世界各地で展開されている開発援助の約6割を提供していること、10億ユーロ(約1,300億円)をかけて人道援助に貢献していること、地球環境保護や中東・アフリカ諸国からの難民・移民の地中海における人命救助に、取り組んでいることにも言及した。

3番目の「日本とEU」では、日本にとってEUがいかに重要な存在であるかを説いた。2018年7月にEUと日本の間で、EPAとSPAが署名されたことに触れ、EPAによって商品やサービスの関税障壁が撤廃されれば、双方にとってメリットが大きく、日・EU間の経済交流は一層進展していくだろうと述べた。また、安全保障および研究・イノベーション分野においても、日本とEUは協力関係にあると強調した。

文化的な面では、欧州留学を目指す日本の学生に向けて、毎年「欧州留学フェア」を東京と関西圏で開催していること、欧州の良質な映画を紹介する「EUフィルムデーズ」(2018年は東京・京都・広島の3カ所で開催)、また欧州の文学を日本の人々に身近に感じてもらう「ヨーロッパ文芸フェスティバル」(東京)などのイベントを、定期的に開催していることを紹介。誰でも気軽に参加できることが、生徒の興味をかき立てた。

好奇心旺盛な生徒との活気に満ちたコミュニケーション

アリアス部長による講演後に行われた質疑応答では、12人の生徒が英語で意欲的に質問した。EUの仕事に就いた理由や、「自分の夢は?」と問われた興味津々な質問に対し、アリアス部長は「EUで働くと決めたのは、いろいろな国々に行って新しい文化を学び、新しい友達を作りたかったから。人を豊かにできる国際貿易に関わることが夢であり、平和・安定・繁栄をもたらす国際貿易を推進するEUで、ぜひ働きたいと思った」と答えた。

12人の生徒から英語で質問を受け、アリアス部長は1人1人に対し丁寧に回答した
© European Union, 2018 / Photo: Keiichi Isozaki

「大学生になったらドイツへ留学したい」という生徒は「日本人留学生でもEUの国々を自由に旅行できるか?」と質問。それに対しアリアス部長は、「伝統があり、ハイレベルな教育機関が多数あるドイツは、とても良い選択だと思う。もちろん日本人留学生でもシェンゲン圏を自由に旅行ができるし、おいしい食べ物や異文化に出合えるチャンスがたくさんある」とアドバイスした。

英国のEU脱退問題をはじめ、日本のテロ対策や移民・難民の受け入れなど、タイムリーな話題に関する意見を求める生徒もいた。米国での生活経験がある生徒からは、「今の日本にとって、最も強い関係があるのは米国だが、EUと日本が日米のような強固な関係になるためには、何が必要だと思うか?」という鋭い質問もあった。アリアス部長は、「安全保障の面は別だが、貿易や投資においてEUは日米関係と同等、また文化面ではそれ以上の強いつながりがある」と回答。

それを裏付ける「秘密の話」として、アリアス部長は自らの出身国であるスペインと日本の間で起きた、興味深い歴史的エピソードを1つ挙げた。江戸時代のはじめ、仙台藩主の伊達政宗の命により、支倉常長率いる使節団がスペインとローマに派遣された際、数十人の侍が最初の上陸地であるスペイン・セビリアで、支倉常長たちがローマ教皇に謁見して戻ってくるのを待っていた。侍たちがその間スペインの食や人を大変気に入り、彼らの多くが日本へ帰国せずに現地に残ったこと、そしてその子孫がセビリア南部のコリア・デル・リオ村で暮らし、約400年たった今でも、日本を意味する「ハポン(Japón)」という苗字を引き継いでいることを紹介すると、会場からは驚きの歓声が上がった。

また、「良いコミュニティーを作るにはどうしたらよいか?」という質問に対し、EUの礎は「欧州で再び戦争を起こしてはならない」という強い信念の下に結集した、フランスの元外相ロベール・シューマン、同国の政治家ジャン・モネ、西ドイツ(当時)の首相コンラート・アデナウアーらわずか3人の勇気から始まったと語ると、生徒たちは感動した様子で目を輝かせた。

「EUは意外に近いと分かった」-生徒の感想

講演終了後、3人の生徒が代表して授業の感想を語ってくれた。海外留学に興味があるという永見菜々瀬(ながみ・ななせ)さんは、「大学進学は海外も視野に入れており、経済学に加えて第2外国語も習得できるドイツの大学に興味が湧いた。今日一番の収穫は、世界で活躍できる仕事に就くことを具体的にイメージできたこと。EUの映画祭や文芸フェスティバルにも行ってみたい」と話した。

幼い頃からバレエを習い、オーストリアの芸術が好きな三島彩摘(みしま・あづみ)さんは、「侍の話、EU設立の目的、『貿易に関わる人は平和を望んでいる』という言葉が印象に残った。欧州へバレエ留学したい気持ちが湧いてきたし、将来は国際貿易に携わる仕事に就きたいと考えている」という。

「3人の理想を基に、EUが創設されたことに感動した。EUが財政支援したギリシャとイタリアが今後どのように発展していくのか、自分の目で見てみたくなったし、EUは意外に身近な存在だと思えた」と話すのは生駒樹(いこま・たつき)さん。三人三様、アリアス部長の講演から大いに感銘を受け、鼓舞されたことを語ってくれた。

(左から)高校1年生の永見さん、三島さん、生駒さん。國學院大學久我山中学高等学校では、英国への語学研修など、さまざまな海外教育に力を入れている
© European Union, 2018 / Photo: Keiichi Isozaki

世界で活躍したい高校生に向けて、アリアス部長は次のようにアドバイスしている。

「EUの企業も、欧州の言語を話せる日本人を雇用したいと思っている。さまざまな言語を習得し、異文化を理解することは、日本の学生にとって将来大きな強みになる。駐日EU代表部でも欧州留学ための充実した資料をそろえているが、一番大事なのは自分の行きたい国へ留学した経験がある人から、直接話を聞くこと。欧州の大学の中には東京に同窓会組織や事務所を置いている所もあるので、まず情報収集から始めることをお勧めしたい」

 

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