2013.12.13
EU-JAPAN
11月19日、東京で開かれた欧州連合(EU)と日本の第21回定期首脳協議は、経済分野のみならず、サイバーセキュリティ対策や宇宙の平和利用などを含む広範な政治・安全保障分野での連携強化を進めることで合意した。
2011年5月以来2年半ぶりとなる今回の日・EU首脳協議は、本年3月25日に開催予定であったところ、EU首脳がキプロス経済危機に緊急対応する必要があったために延期され、再設定されたものである。その間、4月に自由や人権といった共通の価値を確認する政治分野の戦略的パートナーシップ協定(SPA)および経済分野の自由貿易協定(FTA)の並行交渉が始まった。協定の交渉に関連して安倍晋三総理大臣とヘルマン・ヴァンロンプイ欧州理事会議長、ジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長は首脳協議後の記者会見で、SPAおよびFTAの「可能な限り早期」の締結への決意をあらためて表明した。
また、ヴァンロンプイ議長は「これまでの交渉の進展には満足してはいるが、まだ解決しなければならない問題は多く、時間は迫っている。私たちは関係大臣と欧州委員に対し、来年4月に予定されているEU側のFTA交渉進捗状況評価までに、一層本腰を入れて成果を挙げるように指示した」と述べた。
議長はさらに、1991年の第1回協議以来、さまざまな分野で築き上げてきた協力関係がSPAとFTAの基盤にあり、この2つの協定の締結が日本とEUの経済成長と雇用、そして日欧関係に抜本的な進化をもたらすだろう、と強調した。
また議長は、首脳協議の中で安倍総理に、ユーロの安定を図り持続可能な成長を促すために欧州が取った財政健全化策などの一連の措置によってユーロ危機を克服したこと、成長と投資を促進するための行動を進めていることなどを説明したと述べた。一方、実質経済にその効果が表れるには時間がかかるとも付け加えた。ヴァンロンプイ議長によれば、EUの経済成長は2014年に1%、2015年に1.5%が予測されている一方、2014年~15年にはユーロ圏で雇用が1%拡大するとされている。
他方、安倍総理は協議の中で、「三本の矢」で構成されるアベノミクスと銘打った経済政策、および第三の矢である成長戦略の実施について説明した。
定期協議後に発表した共同声明では、FTAの締結に向けて、具体的に「関係大臣/欧州委員は、物品貿易、サービス貿易、調達における野心的な市場アクセスのオファーを遅滞なく提示し、非関税措置および鉄道の課題に取り組む」と明記した。
日欧はこれまでもアフリカの内戦後のマリへの復興支援やソマリア沖や西インド洋における海賊行為対策など、安全保障分野の協力で成果を挙げてきた。今回の協議でEU首脳はあらためて日本の「積極的平和主義」の考え方に基づく安全保障政策を歓迎し、双方は危機管理、平和維持活動における連携強化への関心を表明した。
日・EU協力の新領域としては、サイバーセキュリティと宇宙の平和利用に関する協議開始で合意した。宇宙活動においては、「国際行動規範が早期に必要」であり、多国間協議の場において双方の首脳が緊密に協力するため、日・EU宇宙政策対話の立ち上げを決定。サイバー分野では「オンライン上の人権を保護し、また、インターネットへの安全で信頼できるアクセスに向けた能力構築を支援する」ために、定期的な対話の立ち上げを検討する。
共同声明では、東アジアと欧州の安全保障は密接に関連しており、また東アジアにおける安全保障環境が不確実性を増しているという認識を示した。その上で「東アジア海域を含む緊張状態への懸念」を共有するとし、「法の支配」の原則に基づく解決を求めるべきだとの見解を明記した。南シナ海に関しても、世界の人々の公共財として自由で開かれた海洋を維持するために、国際海洋法条約を含む国際法の遵守を強調した。北朝鮮問題ではミサイル発射および核実験を非難し、拉致問題の解決の必要性で一致した。
バローゾ委員長は、東アジアの安全保障に関し、「日本とEUは常に同じ船に乗って航海している運命共同体とまでは言えなくとも、同じ海を航海していることに変わりはない」と例え、「アジアの安定と安全は欧州の安全と安定に結びついている。EUにとって、この地域の国々が安定して平和な関係を保てることが重要であり、それがアジアにとって、そして国際社会にとっての利益であると考える」と続け、この地域の安定が欧州の関心事であることを強調した。
そのほか、地球規模の課題をめぐっては、エネルギー問題で、グローバルなガス市場の発展促進へ向けた協力の進展を歓迎するとし、気候変動問題では、ワルシャワで11月中~下旬に開催の国連気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)の成功に向け緊密に協力する決意を再確認した。
このように、日・EUの首脳は多岐にわたる分野での連携強化に合意したが、持続的な成長の基礎となる研究・イノベーション分野でのパートナーシップの推進は特筆すべきであろう。この分野では2011年に日本とEUの科学技術協定が発効して以来、アクティブエイジングや低炭素技術、新素材などの重点分野で協力関係が推進されている。
現在実施中のEUの第7次研究・技術開発枠組み計画(Seventh Framework Programme for Research and Technological Development、略称FP7)では、のべ79人の日本人が関与する63のプロジェクトが資金助成対象に選ばれている。
来年はFP7の後継プログラムである「ホライズン(Horizon)2020」がスタート、7年間にわたり800億ユーロを研究やイノベーションの実現に向けて投資する。今回の協議で日・EU首脳は、日本の関係者の次期プログラムへの参加を円滑化するための連絡窓口(日本産業協力センター)を指定するナショナル・コンタクト・ポイント(NCP)システムの活用で合意した。
もちろん、日・EU関係の深化は、文化の分野でも着実に進んでいる。俳句愛好家として知られるヴァンロンプイ議長は首脳協議に先立ち、近代俳句発祥の地、愛媛県松山市を訪問し、特別名誉市民の称号を授与された。受賞にあたり議長は、以下の句を詠んでいる。
How these short stanzas/ Can make a city greater/ Haiku capital
[俳都たる 力を薫る 詩片かな (はいとたる ちからをかおる しへんかな)]
なお、松山市は日本の外務省とEUが2010年から開催している「日EU英語俳句コンテスト」のEU側の最優秀賞受賞者を受け入れている。今回の首脳協議では、同コンテストを含めた文化および学術分野での事業や人材交流の促進強化に関しても合意した。この関連で、2014年2月あるいは3月に、日本政府が欧州から若手有識者および研究者を招へいすることを決定した。
なお、ヴァンロンプイ議長は共通の価値を抱くパートナーとしての日・EU関係への思いを込めた俳句を定期首脳協議後の共同記者発表の場で披露した。
People far away / But sun and stars on our flags / Belong together
[離れ居て 星日の旗に 集い来る(はなれいて ほしひのはたに つどいくる)]
2014年は、日本とEUの20年以上にわたる対話、交渉が実を結び、日・EUが包括的な戦略的パートナーとして新しい次元の関係に飛躍する年となることを期待したい。
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