2017.10.16
FEATURE
昨年6月に英国で行われた国民投票により、英国のEU脱退が決定して1年余り。本年6月に脱退に関する交渉の第1回会合が開かれて以来、EUと英国の間で討議が進んでいる。本稿では、これまでの会談や交渉の過程を振り返る。
2016年6月23日、過半数をわずかに上回る(51.9%の)賛成票により、英国国民は、欧州連合(EU)からの脱退を決定した。2017年3月29日、国民投票の9カ月後に、英国はテリーザ・メイ首相から欧州理事会のドナルド・トゥスク議長に宛てた脱退を通告する書簡によって、EU条約(Treaty on European Union)第50条(脱退条項)を発動させた。
トゥスク議長は同書簡に対し、欧州理事会共同声明をもって迅速に対応し、EUの最優先事項は、英国の決定によって生じた不確実性を最小化することにあると述べた。声明ではまた、EUは合意を見いだすことに努めると強調した。
EU条約第50条に基づく通告により、欧州理事会が英国との合意の上で全会一致によって2年の交渉期間を延長することを決定しない限り、2019年3月29日に英国はEUから脱退する。交渉された脱退協定は、EU理事会において、英国を除く27加盟国の72%、つまり27カ国の総人口の65%を代表する20カ国の賛成票による特定多数決で採択される必要がある。また最終協定は、欧州議会の単純多数決によっても承認される必要がある。
協定が成立すると、英国は第三国となる。EU条約の適用が終了するまでは、英国はEU加盟国としての全ての権利と義務を有し続ける。移行のためのいかなる取り決めも期間限定的でなければならず、また現行の執行のメカニズムにのっとったものでなければならない。現行のEUの規制、監督、司法および執行の手段と仕組みが適用される必要がある。
貿易政策に関して、英国は共通商業政策についてのEUの排他的権限、さらに全般的には、誠実な協力の原則を順守しなければならない。つまり、英国はEUからの脱退以前に、第三国と貿易協定交渉を行うことはできない。EU27カ国は、英国がEU加盟国としての義務を怠らない限りにおいては、将来の独自の貿易政策を準備する道を見いだすことにオープンである。同時に、EU27カ国は第三国との新しい貿易協定交渉を続けるが、その協定には、脱退後の英国はもはや含まれなくなる。
2017年4月5日、欧州議会は、英国の脱退協定を承認するための主要原則と条件を正式に明記した決議を採択した。また、EU首脳(英国を除く27カ国)は2017年4月29日、英国のEU脱退交渉の政治的指針を採択した。この指針は、「秩序ある脱退」のための取り決めに合意するのに必要な手続きと条件を提示している。交渉の第一段階の目的は、「英国のEU脱退によって即時に影響を受ける市民、企業、利害関係者、国際的なパートナーに対し、できる限りの明確さと法的な確実性を与えること」、そして「EUから、および加盟国として行ったコミットメントにより発生する全ての権利と義務から、英国を分離していくこと」にある。
欧州理事会が、交渉の第一段階で十分に進展が見られたと判断すると、速やかに交渉は「将来の関係のための枠組みに関する包括的な理解」を確認するための第二段階に入る。2年後という期限(2019年3月29日)までに批准の手続きを完了させるために、秩序ある脱退に関する合意は、2018年10月までに達成されなければならない。EUと英国の間の将来の関係に関する合意は、英国が第三国となって初めて確定、締結させることができる。
欧州委員会は、2017年5月3日、英国との第50条(に基づく)交渉開始について、EU理事会への勧告を採択した。この勧告は、交渉指令群の草案を含む。この文書は、交渉の第一段階を実施するにあたっての政治的指針を補完し、必要な詳細を提供している。2017年5月22日のEU理事会は、交渉開始を承認する決定(欧州委員会をEUの交渉役として任命)と交渉指令群(英国の秩序あるEU脱退をめぐる交渉の第一段階において、市民の権利、未払い分担金清算、およびアイルランドとの関係を含む、EUの立場を提示したもの)を採択した。
2017年6月19日の第1回交渉会合において、EUの首席交渉官であるミシェル・バルニエと、英国側の交渉相手であるデービッド・デービスEU離脱担当大臣は、主に交渉の実際面について討議した。双方は、交渉の構成、日程、将来の交渉会合における優先事項について討議し、交渉の構成(本会議と部会ごとの個別会議)を規定した「EU条約第50条交渉に関する取り決め事項」について合意した。第一段階では、交渉会合は「市民の権利」、「未払い分担金清算」、「離脱に関するその他の事項」の3つの部会に分かれて行われる。
これに加えて、アイルランドと北アイルランド※1をめぐる対話も開始された。これらの部会は、交渉週ごとにその結果を報告する。最初の交渉会合で、英国のデービス大臣は、EU、単一市場および関税同盟から抜けるという英国の決定を確認した。
第2回交渉会合(2017年7月17日~20日)は、EUおよび英国の立場表明に焦点が当てられた。英国が「方針説明書」(後述)で示したとおり、主に、市民の権利について、また、欧州原子力共同体(ユーラトム)、特権と免除に関する議定書(PPI)およびEUの司法手続きに関してはある程度の進展が見られた。
市民の権利について、双方は第2回交渉会合終了後に、市民の権利に関するEU・英国の立場をめぐる共同技術文書を発表した。一括未払い分担金清算に関しては、英国は、脱退後もEUに対して義務が存続することへの理解は示したものの、全ての金銭的義務の確認は行わず、進展は見られなかった。
アイルランドに関しては、(1)聖金曜日協定(ベルファスト合意)※2における全ての誓約を順守すること、(2)英国との間での共通旅行地域を維持すること、で共通の政治的目的についての合意に達した。英国のEU脱退によって起こり得る、南北協力と共通旅行地域への影響について、取り組みを進める必要がある。双方はEUの方針説明書に沿ってその他の離脱関連案件についても話し合った。
8月28日から31日に行われた第3回交渉会合では、主要課題、すなわち、市民の権利、未払い分担金清算および国境問題について、顕著な進展は見られなかった。これらは、将来の関係についての討議に先行して、合意すべき必須項目である。
6月以降、EUと英国は各自の立場を提示し、具体的な事項の議論の際の基礎とするために、それぞれ交渉文書を公開している。欧州委員会はEU加盟国、欧州理事会、欧州議会、EU理事会、加盟各国の議会、そして英国と共有されている全ての交渉文書を、専用のウェブページ上で公開している。ここで交渉文書としているものには、以下が含まれるが、この限りではない。
EUは今までに、以下の14の方針説明書を公開している。
1. 市民の権利 | 8. 進行中の司法・行政手続き |
2. 未払い分担金清算 | 9. 進行中の刑事における警察・司法協力 |
3. 核関連物質と装置・設備の安全管理(ユーラトム) | 10. 公共調達 |
4. EU機関、庁、部局の機能に関連する事項 | 11. アイルランドおよび北アイルランド |
5. 第50条協定(脱退協定)のガバナンス | 12. 関税関連事項 |
6. 脱退日までにEU法の下で市場に売り出された商品 | 13. データおよび情報保護 |
7. 民事・商事における司法協力 | 14. 知的財産権 |
一方、英国政府は、6月25日に英国内のEU市民およびEU内の英国市民の立場を、さらに7月13日に進行中のEUの司法および行政手続き、核関連物質および安全管理、特権と免除といった英国の方針説明書を公開。また、以下の2つのような「将来のパートナーシップ」や「方針説明書」などのカテゴリーで、複数の文書を公開している。
「将来のパートナーシップ」に関する4つの文書:
「方針説明書」としての3つの文書:
9月22日、メイ首相はイタリア・フィレンツェで「英・EU間の新たな協力とパートナーシップの時代」と題するスピーチを行った。そのスピーチを受け、トゥスク議長は「EUと英国の将来的な関係については、交渉にいわゆる『十分な進展』があり次第、議論する。双方はそのために努力をしているところだ」とあらためて確認する一方で、メイ首相の建設的でより現実的な論調に「慎重ながら楽観的なものを感じた」と発言した。
2017年内の交渉会合は、第4回(9月25日~28日)と、第5回(10月9日~12日)で終了する予定である。
(2017年9月25日 脱稿)
※1 アイルランド/北アイルランド問題に関する対話をめぐる欧州委員会交渉指針(Guiding Principle)はこちら
※2 20世紀前半にアイルランドが英国から独立して以来、英国領にとどまった北アイルランドで少数派のカトリック系住民が差別撤廃・アイルランドへの併合を目指し、プロテスタント系住民と衝突してきた。この紛争を解決するため、1998年4月10日の聖金曜日(Good Friday=受難日)に当たる日に、ベルファストにおいてアイルランド・北アイルランド・英国の三者の間で結ばれた和平合意
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