2014.8.27
FEATURE
緊張が続くウクライナ情勢。欧州連合(EU)は、ウクライナを不安定にしているとし、ロシアに対して順次制裁を発動、一段と圧力を強めている。世界的に注目を集めているEUの制裁。その目的と特徴、内容や、超国家機関による独特の手続きなどについて解説する。
EUは、ウクライナ東部の不安定な情勢をめぐり、繰り返しの求めにもかかわらずロシアが平和的解決に動き出さないとし、同国に新たな制裁を決定。制裁は8月1日に発効した。今回の制裁は、既に実施中のEU域内の資産凍結や渡航制限などに加え、ロシア経済に実質的な影響を与える措置に踏み切ったことが大きな特徴だ。また、ウクライナと連合協定を締結したEUは、同国が平和、民主主義、法の支配というEUと共通の理念を共有、実現することを強く願っており、ウクライナ憲法に違反し、国際法上も違法にロシアが併合したクリミアおよびセバストポリ(自治共和国に含まれない半島内の特別市)に対する追加制裁も盛り込んでいる。今回の対ロ制裁では、下記のような多面的な措置を導入した。
1. 金融取引の制限
ロシアの大手国有銀行、開発銀行およびこれらの銀行の子会社や代理人が発行する償還期間が90日以上の新規債券、株式もしくは同様の金融商品の売買、および金融商品の発行に関する仲買などのサービスを禁止。
2. エネルギー分野の技術供与の制限
特定のエネルギー関連備品や技術のロシアへの輸出には加盟国当局の事前許可が必要。深海での油田探査・生産、北極海での油田探査・生産、およびロシア国内でのシェールオイル事業の目的であれば輸出許可証は発行しない。
3. 資産凍結とビザ発給停止対象者のリストを拡大
事態の責任を負うロシアの政策決定者を支援もしくは彼らから利益を得たとして、新たに8人と3企業を資産凍結とビザ発給停止の対象リストに追加。これにより、EUの制限措置は、クリミア、セバストポリの対象者も含め95個人と23企業・団体に。
4. 軍事品や軍事・民生両用品に対する技術援助や資金援助の制限
ロシア国内で軍事利用される、もしくはロシアの軍事最終利用者向けの軍事・民生の両用品に対する技術援助や資金援助を禁止。
EUは、2014年3月にロシアに対する最初の制裁を発動したが、その際は政府高官への渡航制限、資産凍結に留まっていた。その後、制裁対象の個人・団体の拡大、クリミア・セバストポリの原産品に関する貿易制限、欧州投資銀行(EIB)、欧州復興開発銀行(EBRD)の対ロシア新規融資案件の承認凍結など、次々と制裁を強化してきた。
しかし状況は一向に改善されず、7月17日にはマレーシア航空機撃墜事件も発生。事態は早急かつ断固たる対応を要していることから、本格的な経済制裁を盛り込んだ追加制裁に踏み切った。エネルギー産業を主要産業にしているロシアにとって、海外の資金や先端技術を導入できなくなる痛手は大きいとみられている。さらにマレーシア航空機撃墜以降進んでいるルーブル安の加速も予想されており、ロシア経済に多大な影響が及びそうだ。
そもそもEUはどのような目的、原則、手続きをもって制裁を発動するのだろうか。EUは、欧州連合条約に掲げられた共通外交・安全保障政策(CFSP =Common Foreign and Security Policy)の目標を達成するために、拘束力のある国連安全保障理事会決議を受け、または自主的に、第三国政府やテロリスト集団に制限措置(制裁と同義)を発動してきている。これらの措置は、国際法や人権を侵害する行為もしくは政策、および法の支配や民主主義の原則を尊重しない政策に変化をもたらすことを目的とした、外交的または経済的手段であり、加盟各国の外相が出席するEU外務理事会での全会一致をもって、決定される。措置の内容によっては、さらに新たな法令が必要な場合もある。
制裁の根拠となっているCFSPの目標とは、以下のとおりである。
1) 国連憲章および国際法上の諸原則を尊重するため
2) あらゆる意味において、EUの安全保障を強化するため
3) 国際協力を促進するため
4) 民主主義、法の支配、人権および基本的自由の尊重を促進し、より確かなものにするため
制裁措置の対象となるのは、政府に関係する個人や、企業、機関、団体などの組織、およびテロリストやテロ集団など。導入・実施にあたっては、国際法を含む関連法令に準拠していることや、人権および基本的自由、特に適正な法手続きと実効的な救済を受ける権利を尊重したものであるかどうかを検討し、さらに、個人を対象とした制裁の場合には人間の基本的なニーズを考慮し、適切な免除措置を設けるなど、さまざまな原則に基づいて決定していく。
武器禁輸や渡航禁止など一部の制裁は、加盟国が直接実施。実施に必要なのはEU理事会の「決定」のみである。資産凍結や輸出禁止などの経済制裁は、加盟国ではなくEUの権限となるので、実施の法的根拠となる「理事会規則」(Council regulation)が必要となる。理事会規則はEUの市民や企業を直接拘束するもので、EU外務・安全保障政策上級代表と欧州委員会の共同提案を基に採択され、EU官報に掲載された後に発効することになる。
現在、EUが最も多く実施する制裁は武器禁輸、資産凍結、渡航制限(ビザの発給制限・停止または渡航禁止)の3種類である。
武器禁輸
通常は「EU共通軍用品リスト」に含まれる物品の販売、供給、輸送、さらに関連技術や金融支援も禁止対象となる。また、放水車・囚人輸送車・有刺鉄線・暴動取り締まり用ヘルメット・盾など警察用設備は同リストに含まれていないが、国内弾圧に使用できるこれら備品の輸出も禁止対象になりうる。
資産凍結
対象となった個人や団体が所有・管理する資金および経済的資産が凍結される。資金とは現金・小切手・銀行預金・株式などを指し、凍結後は接触、移動、売却ができなくなる。不動産を含む有形無形のその他の資産も売却、貸与ができなくなる。対象の個人や団体に対する資産の提供も禁止されるので、EU市民・企業は対象者に金銭的支払いや物品の提供ができない。ただし、食料品や医薬品、賃貸料、税金といった基本的な需要や合理的な弁護士費用などの支出のための資産移動などに関しては、加盟国の所轄官庁が例外措置を許可することもできる。
ビザの発給制限・停止、渡航禁止
制裁対象者はEU域内への入域(EU加盟国への入国)が拒否される。入国に査証(ビザ)が必要な場合、制裁対象者には発行されない。国連会議、政府間国際組織や欧州安全保障協力機構(OSCE=Organization for Security and Co-operation in Europe) の会合を加盟国が主催する場合は、制裁対象者に渡航禁止の免除が与えられることもありうる。
このほか、EUが実施できる制裁措置には「外交制裁(外交官の強制退去、外交関係の断絶、公式訪問の中断)」、「第三国との協力の中断」、「スポーツまたは文化イベントのボイコット」、「EU域内の飛行禁止」などがある。制裁を決定する場合、目指す結果を引き出すには、1種類の制裁でいくのか、あるいは複数の措置を組み合わせるのかを考慮して実施内容を決めていくことになる。
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