2019.6.4
EU-JAPAN
駐日EU代表部の科学技術部は昨年秋に新部長が着任、またポストが新設されるとともに、部署名が改称され、大きく体制が変わった。新たな「科学・イノベーション・デジタル・その他EU政策部」(SID)のラマナウスカス部長には改称の背景を、またクレイマー一等参事官には自身が担当する新ポストについて、それぞれ含めて話を聞いた。
ラマナウスカス部長は、流ちょうな日本語を操り、好きな飲み物が緑茶、そして毎日納豆を食べるという日本通だ。英国系コンサルティング会社のヴィリニュス(リトアニア)支社に勤務した後、日本の文部科学省から奨学金を得て、1994年から2001年まで学習院大学に留学、マネジメントの修士号と博士号を取得した。
2001年にリトアニアへ帰国し、同国の議会や大統領のアドバイザー、経営経済大学ISMのマネジメント戦略学部長を務めた後、2007年にEUの行政執行機関である欧州委員会に入職した。「EUの職場環境は、さまざまな言語が飛び交い、多様性に満ちています。非常に挑戦的ですが、さまざまな機会にあふれ、刺激的でダイナミック。そして、5億人以上の欧州の人々の生活向上と、欧州の未来を形作ることに貢献できるやりがいのある仕事です」と話す。
「今回は留学以来、17年ぶりの来日です。息子が生まれたのも東京ですし、日本は私にとって人生で最も素晴らしい時間を過ごした国の一つ。学生ではなく、EUの外交官として再来日できたことを、本当にうれしく思っています」と顔をほころばせる。
職務は、EUの科学・技術・イノベーション(STI)政策目標にのっとり、日・EU間の協力の可能性や課題の洗い出し、戦略的な関係強化などに焦点を当てた活動だ。「部署の改称は、日・EU協力においてイノベーションとデジタルが一層重要になってきたことの表れ。『その他EU政策』が加わったのは、多くのEU政策において科学とイノベーションが重要な側面を担っているからです」。そういった背景の下、EUのSTI政策をより多くの人に知ってもらうための会議やイベントの企画を行うほか、公的機関や民間機関、大学、研究所などを訪れて、STIにおける協力の可能性を探るEUのSTI政策について説明している。また、研究助成プログラム「ホライズン・ヨーロッパ」をはじめとするSTIのプログラムへの参加が、日本の研究者やイノベーターにとってどのようなメリットがあるのかも説いている。
ホライズン・ヨーロッパは、「ホライズン2020」(2014年~2020年)に次ぐ、2021年~2027年を対象とした1,000億ユーロの予算規模を持つ研究助成プログラムで、現在欧州委員会の提案が欧州議会とEU理事会で審議されている最中。ラマナウスカス部長は、「日本はこのプログラムに、優れたSTIの可能性、自由市場経済、民主主義、国民の福祉推進などの条件を満たす第三国という枠で応募できます。この枠組みに日本が参加することは、日本とEUの双方に幅広いメリットがあるのです」と語る。
日本とEUは、これまでもSTIの分野で協力関係を構築してきた。「その結果、多くの新しいアイデアが生まれ、発展してきました。しかし、まだまだ多くの可能性が存在しています。私は、この分野における両者の協力関係を、さらに高いレベルに押し上げることに貢献したいのです」と力を込める。
ラマナウスカス部長は、プライベートでも科学やイノベーションに高い関心を持ち、「目に入るもの、感じるもの全てを分析し、因果関係を考えるのが好き」という、根っからのサイエンティスト(科学者)だ。「休みの日も、科学に関する本を読んだり、テレビで科学系のドキュメンタリー番組を見たりしています。特に最近関心があるのは、宇宙探索、量子物理学、AI(人工知能)。学ぶことはとても楽しいですから」。
自身の仕事の取り組み方については、「非常にシステマチック」と評する。「計画を立て、整理し、実行した後にフォローアップを行います。課題を解決するのは楽しいし、知的好奇心を刺激してくれます。仕事が大好きなので、長時間オフィスにいても全く体力が衰えることはありません」とエネルギッシュな一面も見せる。
職場では、仕事に向かって全ての神経を集中する。一方で、週末や休暇には、家族との時間を大切にしている。「家族全員で行ったことのない場所を訪れ、知らない人に会うなどして、常に新しい経験をしたいですね」。お祭りを見たり、温泉旅行に行ったり、友達を訪ねたりして過ごすことが多いそうだ。
クレイマー一等参事官は経済学者だ。EUでは幅広い分野、とりわけ競争政策や市場規制には何年も関わってきた。EUの領域を越えてデジタル政策分野に携わるのは、今回が初挑戦。そしてアジアと関わる仕事も初めてだ。このポストに応募した理由について、彼は次のように語る。
「私が働いていた欧州委員会の通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局は、日本でデジタル政策分野における活動を強化するため、担当ポストを新設しようとしていました。私は長らく、非常に専門的なユニットにいたので、そろそろ視野を広げて、他の分野も経験したいと考えたのです。また、実際に現地で働いたことはなかったのですが、アジア、特に日本には高い関心を持っていました。確かに、仕事上も生活や文化の上でも、かなり大きなチャレンジでしたが、やってみて良かったと思います」
EUへの思いについて聞くと、生まれ育ったドイツ・ベルリンでの経験について語ってくれた。「私が大学2年生だった1989年に、ベルリンの壁が崩壊し、東側の街や国々を訪れるようになりました。地理的に近いにもかかわらず、当時私が住んでいた西ベルリンとは全く異なる風景でした。現在は、当時と比べものにならないくらい広い範囲内を、人々が自由に行き来できるようになりましたが、それはEUの絶え間ない努力のたまものにほかなりません。EUは今でも、最も壮大な平和構築のプロジェクトだと思っています」。
EUからの恩恵を目の当たりにしてきたクレイマー一等参事官が、EUでのキャリアに関心を持ったのは自然な流れだった。加えて、関わる政策分野の幅広さも、大きな魅力だと語る。「これほど幅広い分野に携わることができる組織は、あまりないと思います。さらに、さまざまな国籍や背景を持つ人たちと働くことができるのも魅力。文化や習慣が異なる多様な人たちと協力すれば、最高の成果が上げられます」。
長らくブリュッセルの欧州委員会で働いていたが、以前とは職場環境も大きく変化した。東京では、デジタル経済・社会を包括的に担当しているが、「代表部は小さな組織なので、異なる分野の担当者同士でコミュニケーションや連携も取りやすいですね」とにこやかに語る。
「日本とEUの間で、さらに緊密な協力関係を築いていける政策分野はたくさんあり、国をまたいで共通のグローバルな課題に直面している分野がまさにそうです」と指摘する。「例えばAI(人工知能)では、人間が求めることだけをAIに担わせる必要があり、AIが勝手にAIを生み出すような状況は求めていません。そのほかにも、悪意ある攻撃から守られた安全なデジタル経済の推進や、健康に年を重ねていくための研究、次世代移動通信システムの共通基準整備などもグローバルな課題です。また、複数の主要貿易圏の間を、自由にデータが移動できるように配慮しながらも、高水準の共通データ保護基準を設けることなども大きなテーマ。このような分野で私も貢献していきたい」と強調する。「残念ながら、日本語のスキルはありませんが」と謙遜しつつ、「打たれ強さと情熱、そして持ち前のユーモアでカバーしていきたいですね」と人懐っこい笑顔を見せる。
ラマナウスカス部長と同様、クレイマー一等参事官のプライベートのスケジュールも、家族を中心に回っている。「子どものスクールバスの時間が早いので、わが家はみんな早起きですから早めにオフィスに行きますし、ほとんど毎日夕食までに帰宅して家族と食事を取ります。家族と話し、一緒に笑い合う時間を大切にしたいのでね」と話してくれた。
プロフィール
ゲディミナス・ラマナウスカス Gediminas RAMANAUSKAS
駐日EU代表部 科学・イノベーション・デジタル・その他EU政策部部長/一等参事官
リトアニアのヴィリニュス・ゲディミナス工科大学で理学修士号と社会科学博士号を取得。コンサルティング会社を経て、学習院大学でマネジメント修士号と博士号を取得。2001年に帰国、リトアニア議会の外務委員会アドバイザー、同国大統領の国際経済政策アドバイザーを経て、2007年に欧州委員会へ入職。2007年から2年間、事務総局の業務改革推進を担当する部署に勤務。2009年、環境総局に移り、気候変動分野での国際交渉を担い、EUの行動を監視する部署に所属。2012年、研究・イノベーション総局国際協力局にて、イスラエル・東方パートナー諸国・黒海地域・アフリカ・ロシア・中央および南アジア地域との科学技術協力分野における、EU政策の策定・実施・監視を担当。2018年9月から現職。
ステファン・クレイマー Stefan KRAMER
駐日EU代表部 科学・イノベーション・デジタル・その他EU政策部 一等参事官
英国ウエストミンスター大学で経済学の博士号を取得。ドイツ製薬工業協会の経済部長を経て、2004年から欧州委員会に入職。競争総局(DG Competition)で5年間、電気通信、郵便およびエネルギーセクターの独占禁止分野を担当した後、通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局(DG Connect)で電子通信市場規制のほか、各国の規制当局(NRAs)による関連市場の定義、重大な市場支配力(SMP)の評価、事前規制義務の提案などに関する施策評価を行うユニットを率いた。中でも、欧州委員会のSMPガイドライン、ならびに同委員会の関連市場、着信接続料、また非差別と原価算定に関する勧告の検討を担当。2018年11月から現職。
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