2017.4.19
EU-JAPAN
気候変動に関するハイレベル対話を実施している日本とEU。2017年3月の会合に出席した欧州委員会気候行動総局のジェイク・ワークスマン主席アドバイザーに、昨年発効した地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」をめぐるEUの取り組みや日本への期待、両者の相互協力などについて寄稿してもらった。
日本とEUは、ハイレベル対話を通じ、今後の国際協力への期待を共有し、それぞれの気候・エネルギー政策の経験を分かち合うことにより、気候変動に関する協力関係を維持、強化している。EUからの参加者はまた、日本の学術関係者、シンクタンク、産業界の代表者、マスメディアと個別に懇談する機会も得た。
2015年のパリ協定採択、2016年11月の早期発効を受け、日本とEUの協議はこの歴史的に重要な条約の履行準備に焦点を当てたものとなった。率直で活発な議論を通じ、双方はパリ協定の野心的な精神と字義に積極的にコミットすることを再確認した。また、気候問題で主要な役割を担うアジアやその他の先進国・途上国からの同様の声明を歓迎した。EUにとって、気候変動への関与をあらためて確認することは、特に今後の数カ月間に主要国首脳会議(G7サミット、開催国はイタリア)、そして主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット、開催国はドイツ)が開催されるという文脈において、非常に重要である。米国の政治的展開が、気候行動に関する世界的リーダーシップへの脅威になるとすれば、なおさらである。
パリ協定の合意は単に始まりにすぎず、合意実施に向け各国が行動することが重要、と訴える欧州委員会制作のビデオ © European Union, 1995-2017
日本とEU(加盟各国を含む)は、G7とG20での協議を実行に移す形で「今世紀中盤」までの戦略の構築を推奨する。それにより、パリ協定は締約国に対し、今世紀後半の温室効果ガス低排出達成のための長期ビジョンの策定を奨励することとなる。EUは、パリ協定のさらに野心的な目標に取り組むため、既存の2050年ロードマップの練り直しに必要な分析作業を開始した。EUは、産業政策と国内および世界的な環境責任との間のバランスを取ることに責任を負っている日本の省庁から、彼らが構築しつつある日本の長期戦略についてさらに情報を得ることを心待ちにしている。
本年の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第23回締約国会合(COP23)は、アジア太平洋地域で開かれる。開催国は、小さな島国としては今回初めての、途上国フィジーである。日本とEUは共に、会議を成功させるために議長国フィジーを支援するという、強いコミットメントを有している。日本とEUは、温室効果ガスを削減し、気候変動への耐性を高めるために、より貧しく脆弱な国々と協力していることを行動で示す所存である。
日・EU間の対話はまた、パリ協定ならびに「仙台防災枠組」や「富山物質循環フレームワーク」といったその関連プロセスにおける現行の連携努力について、最新状況を確認する機会も提供した。
京都議定書を採択した議長国であったのを皮切りに、近年ではエネルギー効率と低排出車両といった分野で先導役を務めるに至るまで、かつて日本が温室効果ガス排出に歯止めをかけるための国際努力において推進役であったことを、EUはいち早く認識していた。しかし、時間が経つにつれてこうした先進性が失われ、日本は野心とイノベーションという点で、他の先進国や新興国に追いつかれた感がある。
これは特に、再生可能エネルギーの開発とその普及において言えることだ。福島原発の事故が、日本、そして日本の将来のエネルギーミックスの選択において、深刻かつ特有な課題となっている。この課題のために、日本は過去の火力発電技術に逆戻りすることもできるが、逆に、野心的な気候変動目標を達成するために必要な技術革新への投資に拍車をかけることもできる。
現状では、2020年までの日本の温室効果ガス削減計画は、順調に進展しているように見える。これは、エネルギー効率で予想以上の効果があったことと、計画目標が相対的にそれほど野心的ではなかったことの組み合わせによるようだ。指標は、2020年目標が、これより早い2015年時点で既に達成されていた可能性があることを示している。想定していた将来の温室効果ガスの削減目標を、今日達成することができていたとなると、現時点で日本の政策立案者に問われるのは、温室効果ガス削減をどこまで進めたいのか、ということだろう。
日本政府が2016年5月に策定した「地球温暖化対策計画」は包括的な政策群で構成されており、その中では技術開発が強調されている点が顕著である。しかし、今回、意見交換をしたさまざまな日本のステークホルダーからは、とりわけパリ協定が設定した「地球の気温上昇を2度未満に抑制する」という目標との関連において、日本の目標はさほど野心的でないとの声も聞かれた。
2030年までに、経済活動全般にわたる温室効果ガス排出量を1990年比で少なくとも40%削減するという野心的目標を設定しているEUは、パリ協定締結以降、この目標を達成するために必要な域内政策の立案に焦点を当てている。EUのアプローチは、産業と政策を分野横断的に網羅する、統合的で包括的な政策群を追求することである。EUの機構制度の中で立案を担う欧州委員会は、2年前にEU排出量取引制度(ETS、2015年)の改革に着手した。
委員会は、土地利用に基づく産業活動に関する提案(2016年)を含んだ、ETSでカバーされていない部門に関する加盟国の個別目標の「努力を共有する規則」(Effort Sharing Regulation)や、これらの目標を達成するために不可欠なエネルギー関連のさまざまなイニシアティブ(効率、再生可能エネルギー、電力市場の設計、エネルギー同盟のガバナンスなど)を提案している。委員会の提案は、EU理事会と欧州議会が精査し合意する共同決定のプロセスを経て、法制化されてゆく。
EUは、こうした提案により、これまでの経験から生み出されるポジティブな所産が、日本のエネルギー・気候政策担当所轄省庁を団結させ、より整合性のある、将来に向けた低炭素社会に対するビジョンの共有をもたらすであろうと認識している。日本の国家長期戦略への取り組みと2018年のエネルギー政策の見直しは、政策と計画を連動させ、異なるエネルギー源に対する支援を総合的な政策目標と結びつけ、また、願わくはとりわけ送電網へのアクセスで見られるような既存の歪みの排除も期待されよう。長期的にも短期的にも、安価な電力生産のために再生可能エネルギーが従来のエネルギー源に十分効果をもって対抗できることが実証された今、うまくすれば、こうした進展が今後、日本で再生可能エネルギーへのより幅広い理解を促すことになる。
二者間の対話と多極間の連携、ならびに豊富な協働実績の両方で、日本とEUの間には高度な協力関係が既に実現している。これに積み上げる形で、そして日本が持つ科学、イノベーション、技術分野での可能性を十分に認めた上で、EUは今後も日本と協調して気候行動への取り組みを増強する準備がある。それは、気候関連の外交活動の強化、脱炭素社会へのシフトを実証する科学・経済分野の事実情報の共有、また、それぞれの今世紀中盤戦略の定義に向けた相互協力といった形をとるだろう。
EUはまた、日本の地方自治体、産業界、広範にわたる非国家主体などとのつながりを強めたいと考えている。なぜなら、それらのステークホルダーは、日本とEUが連携すればさらに多くのことができるというEUの認識を共有しているからだ。日本のステークホルダー―― 駐日EU代表部で開催したセミナーを含め――との最近の交流では、パリ協定へのコミットメントをさらに手堅く実行することを要求する声が明らかに高まっていた。EUは多様な関係者たちとの双方向の取り組みを堅持し、これをさらに発展させるために、今後も対話にオープンであり続ける。
(寄稿:欧州委員会気候行動総局主席アドバイザー ジェイク・ワークスマン)
パリ協定のその後とEUの気候対策の現状とは?(EU MAG 2016年11月 質問コーナー)
地球温暖化対策の歴史的合意「パリ協定」――EUが果たした役割(EU MAG 2016年1月 ニュースの背景)
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