2021.3.30
FEATURE
女性は、武力紛争で不当に大きな影響を受ける一方で、紛争解決や平和構築において重要な役割を果たしている。EUは、共通安全保障・防衛政策(CSDP)の下で展開中の全ての活動にジェンダー主流化の視点を取り入れている。ジェンダー平等は、EUが掲げる基本的な価値であるからだけではなく、それは危機管理の効率を高める効果もあるからだ。
2000年10月、国連安全保障理事会は、歴史的な「女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security=WPS)に関する決議1325号※1」を採択した。決議の内容は、紛争や危機におけるジェンダーに基づく暴力のリスクの増大などの女性特有の経験を取り上げるとともに、平和構築や紛争の防止・解決・転換において女性が果たす重要な役割に光を当てた、これまでにない画期的なものだった。
同決議は、国際社会の担い手に対し、紛争の防止と解決に向けたあらゆる取り組みにおいて女性の意味ある貢献を促進し、ジェンダーに基づくあらゆる形態の暴力から女性と少女を保護することや、国際的な平和活動に関わる女性の数を増やし、活動のあらゆる側面にジェンダーの視点を取り入れることを求めている。さらに、この決議の広範な枠組みをより堅固で強力なものにするため、2019年10月までに、9つの関連決議が採択されている。すでに日本を含む約80の加盟国がこれら決議の履行のための行動計画を策定している。
欧州連合(EU)も、「WPSへのEUの戦略的アプローチ」および「WPSに関する行動計画」を策定し、WPSのアジェンダ(課題)の促進と実施に全力で取り組んでいる。その中核にあるのは、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントは紛争の防止、管理および解決の前提条件である、という考えである。
WPSアジェンダの促進は、EUの第三国における安全保障行動の運用上の実効性を高め、危機管理や紛争後の安定化により包括的で持続可能な成果をもたらす。紛争地域が安定し、持続可能な平和が実現するには治安・司法部門の改革が不可欠だが、その成功には、全ての住民の権利やニーズ、考え方に配慮し、対応することが必要だ。言い換えれば、世界の人口の半分を占めている女性たちの参画、経験および視点が成功のカギとなるのだ。
ジェンダーの視点をもって取り組むことは、現地の状況把握や総合的な理解の向上につながり、危機管理ミッションおよびオペレーション※2の目的達成に積極的に貢献できる。また、さまざまな住民をより広範に巻き込み、男性、女性、少年および少女などあらゆる人々のための解決を促進するというEUの決意を明確に示すことができ、ミッションの信頼性を高めることにつながる。
EUは現在、「共通安全保障・防衛政策(CSDP)」の枠組みの下で、危機管理活動のための11の文民ミッションと6つの軍事ミッション・オペレーションを世界中に展開しており、5,000人の隊員が働いている。現地機関に対し国際基準に関する助言や研修を提供するとともに、性的暴力やジェンダーに基づく暴力に関して被害者に寄り添った対応を推進している。また、市民社会や女性団体と積極的に連携し、女性の有意義な参画やエンパワーメントを促進。現地の安全保障分野の改革プロセスにおいて安全保障の担い手と現地住民の間の信頼醸成に貢献している。
例えば、マリのEU訓練ミッション(EUTM Mali)では、マリ人が自分たちで決めた優先順位に基づいて、ジェンダーに関する対話を活性化し強化することに力を入れている。非暴力の文化や平和を社会の先頭に立って広めている現地の女性グループや、学校や保育施設を支援するとともに、武力紛争の被害者の大多数を占める女性や子どもに対する経済的支援も進めている。また、理髪店・美容室や仕立て作業場用の器具を提供することで、雇用機会の創出や生活水準の改善にも貢献している。
こうした女性の平和・安全保障への参画について、EUジョージア監視ミッション(EUMM Georgia)のケイト・フィアロン副団長は、「女性は、紛争の防止や解決、また平和的手段による紛争の転換で極めて重要な役割を果たしています。私たちは、女性が参加して意見を述べられるようにし、また女性の提案に耳を傾け、それを実行に移すようにしなければなりません」と述べている。
EUはまた、CSDPミッションおよびオペレーションをはじめとする、自らの組織内のジェンダーバランスの改善にも取り組んでいる。現在、文民ミッションに従事する隊員の約24%が女性である一方、軍事ミッション・オペレーションにおける女性の割合は全隊員の7%にすぎない。多様性は任務の実効性を高めることから、部隊のジェンダーバランスを確保することは重要な要素となる。また、あらゆる階層や職務に女性の職員を配置するという良い見本を示す意味でも、ジェンダーバランスは、ミッション・オペレーションのイメージにとって重要だ。
EU海軍部隊地中海「イリニ」作戦(EUNAVFOR IRINI)の作戦司令官のファビオ・アゴスティーニ少将は「ここ20年間に1325号決議がもたらした変化を把握するのは容易ではありません。特に、女性が紛争解決や平和維持活動において果たす、貴重だが目立たない役割については、十分に語られていません。ローマの作戦本部では、運用、情報収集、人事管理、法務、広報、後方支援などほぼ全ての部門で女性が活躍しています。しかも、みな各部門の専門家たちです」と女性の参画を評価している。
ジェンダーの視点は、任務遂行のあらゆる側面に取り入れる必要がある分野横断的な要因と考えられており、人権やジェンダー平等に関わる幅広い具体的なプロジェクトや活動が同時に進められている。さらに、ジェンダー主流化に関する全責任はミッションの団長やオペレーションの司令官にある一方、ジェンダー主流化を促進するため、17ある全てのCSDPミッションおよびオペレーションに専任のジェンダーアドバイザーと担当窓口を戦略的に設けている。
海賊への対処を目的としたEU海軍部隊ソマリア沖「アタランタ」作戦(EU NAVFOR ATALANTA)において、部隊のジェンダーアドバイザーと現地の女性関係者の間で、行政、司法、地域経済から漁業までの幅広いテーマについて、社会の変化を促進・実現に向けた話し合いが行われている。ジェンダーアドバイザーの任務にあたるロドリゴ・ロレンツォ・ポンセ・デ・レオン少佐は「海賊行為の加害者は、圧倒的に男性です。現地女性の支持を獲得することは、ソマリアの人々が考え方を変え、違法行為に反対するようになる決め手となります。そして、こうした変化をもたらすのは、現地の女性のエンパワーメントです。女性が経済的に自立して地域経済で活躍するようになると、海賊行為は家族を支えるのが目的という正当化の口実が失われるため、海賊など違法な活動の抑制に役立つことが経験上分かっています」と作戦成功における女性の役割を強調する。
註:本稿は、EU軍事幕僚部の広報誌『IMPETUS』第30号内の記事「EUMS focuses on Women, Peace and Security」を和訳・再構成して転載
写真提供:IMPETUS 編集部
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